【短編】焼却炉の魔術師と言われ馬鹿にされつつ、ごみ焼却のバイトをこなして居たら、氷結姫が俺に張り合って焼却炉の火を消そうとしてくる。卒業するまで張り合っていたら俺は辺境貴族として氷結姫を嫁にもらう

ぐうのすけ

第1話

  平民で炎魔法の適性しかない俺【フレイ】は15才で夢の学園に通うことが出来た。


 他のみんなはもっと多くの属性魔法を使いこなすが、俺は1属性だけ。


 炎魔法の練習をして何とか合格できたのだ。


 長い修行だった。


 だが、平民の俺は金が無い。


 学園に通いつつ、成果報酬の焼却炉のゴミを燃やすバイトを毎日続ける。


「今日も頼むよ」

 焼却炉の管理人があいさつも混みで声をかけてくる。


「はい、任せてください!メギド!」


 俺は指定した対象が一定時間燃え続ける高位魔法を使う。


 まだゴミは燃やし尽くしていないが、これでゴミは燃えつきる。

 お互いいつもの事なのでそれを分かっているのだ。


「いつもお疲れ様」


「いえ、これからもよろしくお願いします」


 俺は走って2つ目の焼却炉へと向かい、同じようにメギドを使って魔力を使いつくして家に帰り勉強して次の日学園に通う。


 焼却炉のバイトは学園生の俺にとって都合がいい。


 成果主義・すぐ終わる・魔力修行になる。


 といいことずくめだ。






 次の日学園の教室に向かうと俺は声をかけられる。


 貴族の男組トリオだ。


「よう!焼却炉の魔術師!いつも大変だなあ!」


「炎属性しか使えないからそれしか出来る事が無いんだろ?」


「違いない。ぎゃはははは!」


 また始まった。


 俺が1属性しか使えず貧乏なことをバカにしてくるが、言い返すと更に喜んでバカにしてくる。


 学園生は貴族と金持ちが多く、爵位も金もない俺のような存在は異端だ。


 しかも1属性しか使えない者は珍しい。


 そんな理由で俺はいつもバカにされる。


 それでも頑張っていい成績を取り、炎の魔法の練習を続け、今の生活を抜け出すんだ!


 そこで意外な人物が声を上げた。


「そういうの、良くない」

 氷結姫が俺を庇う。


 氷結姫はあだ名で、王族の第五王女。

 名前は【アイス】だ。

 淡いブルーの瞳と髪であまり言葉を話さないミステリアス美人だ。


 トリオの1人が「アイス様はお優しい。こんなくずでも気にかけ哀れむその優しさ、素晴らしいです」と頭を下げる。


 周りの生徒がひそひそと話を始める。


「氷結姫がしゃべった!」


「まさか!フレイの事がお好きなのでは!」


「きゃー!アイス様の恋、ミステリアスだわ」


 アイスの顔が少し赤くなって、アイスの周囲から冷気が漂う。

 アイスが氷の魔法を使ったことで教室が静まる。


 周りは怒らせたと思ってアイスから目を背けたけど、もしかして照れた顔を冷まそうとしていたのか?





 ◇





 俺は毎日毎日焼却炉のゴミを燃やして、ついには王都に4つある焼却炉すべてを俺が燃やすようになっていた。


「フレイ君、凄いねぇ。もう普通の大人より稼ぎがいいんじゃないかい?」

 焼却炉の管理人が声をかける。


「ははは、俺には炎魔法しかないので、これしかやる事が無いんですよ」


 確かに稼ぎは良くなったが、俺はしょせん1属性だけの使い手。


 しかもレアな【氷属性】に比べて需要は少ない。


 慢心はいけない。


「他に炎魔法で学校終わりに出来るバイトを探しているんですが、心当たりはありませんか?」


「そうだねえ。すぐには思いつかないけど、上に相談してみるよ」





 フレイの焼却炉の魔術師の話は王の耳にまで届いた。

「バカな!王都にある4つの焼却炉のゴミすべてを毎日1人で焼き尽くしているというのか!」


 焼却炉に運ばれるゴミは燃えやすい物の方が少ない。


 解体し終わった魔物の死骸、特にスライムの死骸などの水分が多く燃えにくい物も多い。


 それらを灰にする事で良質な肥料となり、農業も潤うのだ。


「真実でございます。しかもアイス様と同じクラスでまだ15才だとか」





 すぐにアイスが王の元に呼ばれた。


「アイス、同じクラスのフレイが王都4つの焼却炉のゴミを毎日灰に変えていると聞くが何か分かるか?」


「……分かりません」

 アイスは王をジト目で見た。


「ん?どうした?」


「私の方が、私の氷の方が、出来る」


 アイスは負けず嫌いだった。


 王はほっこりと笑顔になった。

 アイスは末っ子で王に溺愛されている。


「うんうん、そうだねえ。アイスはすごいよ~」


「おっほん!」

 王が気を抜いた事を知らせるため、大臣が咳払いをした。


「うむ、アイス、ご苦労だった」

 王はきりっといつもの仕事モードに戻る。





 ◇






「あの~アイス様が俺の焼却炉の仕事についてくるんですけど?」


 アイスは護衛を連れて俺のバイトについて来た。


 話しかけるでもなく、ただ後ろからついて来て黙って俺を見ている。


「フレイが何かやったのかもね」

 焼却炉の管理人は何気なく話すが、全く心当たりがない。


 昨日もついて来たし、ずっとこのままはさすがにまずい。


 俺はアイスの元に駆け寄ると、アイスが護衛の影に隠れた。


「俺に何か用ですか?」


 アイスの代わりに護衛の女性が答える。


「フレイ君、君の炎魔法の腕が良くて見学していたのだ。気にせず続けてくれ」






 こうして俺は何日か普通に生活するが、まだついてくる。


 アイスがついてくると、俺まで目立ってしまう。


 あの見た目の良さと、王女の立場。


 そしてレアな氷魔法の使い手。


 目立たないわけが無い。





 ある日アイスは唐突に俺に話しかけた。

「焼却炉に全力で炎魔法を使ってみて。私は全力で氷魔法で消す」

 アイスは護衛に隠れて顔を出しながら言った。


 言ってる言葉は分かるけど意味が分からないぞ?


 俺が考え込むと、護衛が通訳をしてきた。


「姫はフレイ君と魔法対決がしたいのだ。受けてやってくれないか?」


「それはいいですが、4つの焼却炉のゴミを全部燃やしてからにしたいです」


「アイス様はそれでいいですか?」


 アイスがこくりと頷く。


 アイスの考えが読めない。


 不思議系だ。






 4つの焼却炉のゴミを燃やし終わった後、俺とアイスが岩地で勝負の時を迎える。


 焼却炉で勝負をすると、焼却炉を破壊する恐れがあった為岩場に場所を移した。


 俺は前に炎を発生させる。

「メギド!」


 アイスはその炎を打ち消すように氷の魔法を使う。

「ケルビン・ゼロ!」


 消えそうになる炎に俺が魔力を追加し、アイスはそれを消す為魔力をさらに込める。





 アイスの手が震え、吐息が荒くなる。

 魔力欠乏の症状が出ていた。


「む、無理すると危ない!」


「まだ、いける」

 そう言った瞬間アイスが倒れ、護衛が抱きかかえる。


 アイスは荒く息をしてぐったりしている。


 護衛が驚愕し、素で話す。

「うそ!アイス様の氷魔法を上回ったの!」


「そ、それよりもアイス様がぐったりしています!」


「そ、そうだな、今日は失礼する」






 この一件は王の耳にも伝わった。


「4つの焼却炉のゴミを灰に変えた上で、アイスの氷魔法に打ち勝っただと!」


 側近も含めて周りがざわつく。


 大臣が前に出る。


「フレイ君の力があれば、蒸気機関プロジェクトの開発費を圧縮できます!フレイ君も他の仕事を探しているようです」


「うむ、すぐに準備を進めろ!」


「ははあ!」

 大臣は礼をして場を後にした。






 ◇





 次の日からアイスが焼却炉に来て俺のメギドを消そうとしてくるようになった。


 負けず嫌い……なのか?


 アイスの考えが読めない。


 アイスの顔を見ると無表情でますます分からなくなる。


 俺の視線に気づくと無表情で目を背けた。


 だが、アイスと俺の距離は徐々に近づいて行った。


 最初は護衛に隠れていたアイスも、俺の隣に来るようになり、最後は俺におんぶされながら魔法を使うようになった。


 倒れるのを前提で最初から俺におんぶされるようだ。


 と言うのは嘘で、アイスとしては、フレイに自然と近づき、赤くなった顔を見られなくていいので都合が良かった。





 ◇





「む~。フレイに一回も勝てない」

 アイスがほっぺを膨らます。


 俺とアイス、そして護衛で話をするのが俺の習慣になっていた。


 俺はアイスのほっぺをつついて空気を抜いた。


「氷魔法はレアだし、アイスは全属性使いのエリートだろ?そっちの方が凄い」


「卒業までに絶対勝つ」


「ふふ、旦那様の強みを奪うのは良くありませんよ」

 護衛は俺をからかって旦那様と呼ぶようになり、俺にも敬語を使うようになった。


 護衛の口調もこっちの方が素に近い気がする。


「そうだぞ、俺の1つだけの取り柄だ。それにアイスとは卒業したら会えなくなる。楽しい思い出で終わらせたい」


「あらあら、旦那様は旦那様に立候補しないのですか?」


「アイスと結婚出来たら幸せだと思うけど、姫だから難しいだろ?」


 場が固まる。


 アイスは氷魔法を使ってぐったりしてなお氷魔法で顔を冷やす。


「これ以上氷魔法を使ったら本当に倒れるぞ!」


「旦那様のお言葉は水晶球でしっかり録音してあります!」


「え?ちょ!」


 護衛は「急用が出来ました!」と言ってアイスを担いで急いで帰っていった。


 あの護衛絶対アサシンだ。


 護衛の動きは今までで最速だった。






 護衛が王の前で水晶球を再生し、更にアイスが隣で白い肌を真っ赤にさせる。


「う~む、話は分かった。しかしアイスはまだ学園生。結婚の話は早いのではないか?」

 王は渋い顔をした。

 王はアイスを取られる気がして嫌なのである。


「それにアイスが他の男に心を開くというのも信じられん」

 とにかくアイスを離したくない親バカなのだ。



 大臣が前に出る。


「お言葉ですが、アイス様の子を見たくはありませんか?」


「く!痛い所を突く」


「さらに言えば、アイス様を溺愛されるがあまり、アイス様の思い人との婚儀を破談させ、アイス様を不幸にして生きていくのに耐えられますかな?」


「ぐふぉ!」


「アイス様は一途なお方、フレイ君、いえ、フレイ様との結婚を妨害すればアイス様は生涯純潔を貫き、アイス様の子を愛でる事が敵わず、影のあるアイス様の悲しんだ顔を見ながら生きていく事も十分考えられます!その苦行に耐えられますかな!!」


 王が真っ白になった。


「あ、アイス様が【はずか死】してしまいます!」

 護衛の言葉で全員がアイスを見る。


 アイスは真っ赤になって下を向き、両手で顔を隠していた。


 大臣の言葉は剣よりも強い。





 ◇





 俺は次の日から蒸気機関のテストの為、定期的に王城に出入りし、卒業するまでに蒸気機関と焼却炉を合わせた装置が完成した。


 俺は【焼却炉の魔術師】として爵位が与えられ、爵位を与えられたことで学園卒業後にアイスとの結婚が決まった。


 更に新たな土地を領地としてもらい、そこで縫製工場の立ち上げをする事が決まる。


 俺は王城でアイスと一緒にランチを食べる。


 王城のランチと言ってもサンドイッチとスープ、紅茶かコーヒーの質素なメニューだ。


「俺は結局焼却炉の魔術師か」


「ふふふ、でも貴族」


「アイスと結婚できるとは思わなかった。奇跡だな」


「第五王女だから、辺境の領地になるけど」


「アイスと結婚出来る事が嬉しいんだ。王女だからは関係ない」


 アイスは自分が目立っている事に気づいているのか?


 街を歩くとアイスを見る為何人もの人が振り返る。


「もお、いきなり真顔で、ずるい」

 アイスが赤くなる。


 アイスは不愛想に見えて、本当は恥ずかしがり屋だ。


 王に溺愛されるのも分かる。


 俺はアイスを笑顔で見つめた。


 また照れてる。


「アイス、結婚したら見つめ合うだけじゃなくて、子供を作る事になるんだぞ」


「う、うん」


 これからしばらく、俺は何度もアイスを真っ赤にさせると思う。


 俺は炎の魔法しか使えない。


 俺の炎魔法でアイスを何度も真っ赤にさせるのだ。


 照れさせ魔法は俺の中でブームになっている。


 今俺は【焼却炉の魔術師】と胸を張って言える。


 そのおかげでアイスと結婚できるのだから。

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