第5話「未来に来た過去の私へ」
東京に神出鬼没な怪盗団が存在した。この東京都の最も高価でコピーできない
正真正銘の本物、ファクターを盗む。彼らの存在を警戒しているのは
ホワイトローと呼ばれる行政のチームだ。治安維持を目的とする組織。
彼らはBLACKCLOWNという名前の怪盗団を捕まえようとしているが
中々捕まえられない。
「タイムスリップしてきた人間か。計画は上々だ」
ホワイトローの隊長格の男は写真に写った少女を見て微笑を浮かべた。その
計画に過去の人間がどのように関わるのか、分からない。
「REDTAILもその怪盗団と因縁があるんだ」
ファクターという宝を守っていた彼らだが混乱に乗じて彼らにその宝を
盗まれてしまった。それが彼らにとっては許せないらしい。
「用心棒だから大切だけど。失敗は成功の母って言葉あるじゃん」
「そうは言うが、俺たちの名が地に落ちるのは避けたい。ようやく最強と
呼ばれるまでに名前が広まって来たんだ」
「最強なんて、一瞬だよリューズさん。どんなに強い人も一瞬で別の人間に
抜かされる。最強なんていない、いるのだとしたらそれはただ…まだ自分より
優れている人を知らない世間知らずだけ」
リューズはふと表情を緩めた。馬鹿にされたかと思ってアイはムッとする。
「100年前の人間からの御言葉か。中々に刺さるものがあるな」
「確かに100年前だけど、まだピチピチの18歳ですぅ!」
REDTAIL内でも最年少だろう。だとしても100年後を生きるリューズたちに
とってアイは先人の一人なのだろう。それに加えてアイの性分もある。物事に
対して自分の明確な考えを持っている様だ。
「そんな風に見える?」
「そうにしか見えない」
「こっちの時代なら、私を馬鹿にする人がいないから…特に男の子とは
噛み合わなくてさ。冷やかしも受けてたし、こんな風に自分を曝け出すことなんて
しなかったよ」
アイの眼は何処か哀しそうだった。だがその目もすぐに変わった。
「―あ、いたいた。アイさん、少し良いですか?」
チーム内の最年少レイはアイを探してここに来たらしい。加えてリューズのことも
探していた。誰かが来たらしい。それもアイを知っている人物が。応接間に
やって来るとそこには何処か狡猾そうな顔立ちの男がいた。名前をサヤマという。
「君がアイか。100年前の時代から来たという」
「どうしてそれを…」
「私はホワイトローの責任者でね。色々と情報は掴んでいるとも」
「はぁ…それで、私に御用ですか?」
「そうだ。君をこちらで保護しようと思ってね。どうだろう?勿論、君が
元の時代に帰るための方法も全力で探すと約束しよう」
それは嬉しいことだった。きっと彼について行けば早くに過去へ戻れるかも
しれない。だがどうしてか相手の事を信用できない。それを素直に言うのも
失礼かもしれないが、今はやりたいことが出来てしまった。
「嬉しいですけど、お気持ちだけ受け取ります」
「何故かね?」
「そりゃあ自分の家は恋しいですよ。でも、貴方は警察官ですよね。忙しい
貴方たちの手を煩わせるのは心が痛いので。帰る手段は自分で探します」
「不確実な考えだな」
「それでも後悔しませんよ。私、そういうのでクヨクヨしないタイプですから。
それに、帰れないのならこっちで衣食住を確保するだけ。話はこれで
終わりです」
一方的に話を打ち切った。サヤマという男も仕方ないと肩を竦めつつ、このビルを
去っていく。ハッキリと、自分で方法を探すと言い切ったアイ。
「本当はそんな理由じゃねえんだろ」
このチームを率いている大男、ザックスはアイに目を向けた。
「根拠は無いけど、何か裏がありそうだったから。ぶっちゃけ、今はそんな急いで
過去に帰りたいと思ってないよ。運が良いことにこっちに来てから良い人たちに
会ってばかりだし」
ルーファスやナイン、そしてザックス達REDTAILの面子とも知り合った。彼らとの
別れが寂しいという気持ちもある。
その日の午後は随分と静かだった。揃って彼らは依頼を受けていたのだ。彼らの
クライアント、マダムスカーレット。彼女よりファクターの護衛の依頼を
受けているのだ。一度、探偵事務所に電話をする。しかし誰も応答しなかった。
アイは自室にいた。この部屋も元々は使われていなかったらしい。アイが
来たことで慌てて掃除を済ませてくれた。ベッドの下に何かがあるのを発見し、
アイは手を伸ばした。
『100年前から来た私へ』
妙な手紙だった。だがその字はアイ本人の字だ。
『サヤマという男に気を付けて。彼は何かをしようとしている。どうか、私の
ようにはならないように。私の秘密道具の在処を記しておきます。
P.S.私が貴方だという証拠 貴方の今までのホームルームナンバー
1218 2120 3319 4120 5319 6123
1523 2114 3322
1530 2426 3527』
全てあっていた。こればかりは本人でなければ分からないはずだ。本人ですら
一部忘れかかっている。だがアイはこれを覚えていた。本当に自分が来ていた。
アイは100年前から、もう一人のアイは90年前かららしい。その手紙には
予言のような言葉が並べられていた。アイはハッと息を呑んだ。
「今が、分岐点の一つ…!?」
タイムスリップJD 花道優曇華 @snow1comer
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