第3話「REDTAIL」

煌びやかな街並みが見える。今いる場所はネオン街に挟まれた

廃れたビルの近く。六本木という地域は貧富の差が最も大きいらしい。

恵まれる者はとことん恵まれて更に富を欲する。人間だれしも欲張りたく

なる。この空も相変わらず作り物で計画的に雨が降り、日光が大地を

照らす。東京都に永住するつもりはあまりない。全く無いとは言わないが

今まで住んでいた静岡の方に慣れてしまっているから。ここは百年後の

大都会。それもここは人の欲も見える場所だった。恵まれている人間の

ほとんどが恵まれなかった人に手を貸そうとしないだろう。


「黄昏ているところ悪いけど…ここは君が来るような場所じゃないと思うよ」


遠い目で街並みを眺めていたアイにそう声を掛けて来た青年は黒紅の装束を

身に纏っていた。


「相応しいか否か、他人が決めるべきじゃないと思うよ」

「と、言うと?」

「相応しくないなら、相応しい自分になるだけ…かな?」


アイは携帯の画面を見せた。この時代からすれば古めかしいのだろうか。

青年は目を白黒させていた。


「ここで合ってるんでしょ?REDTAILレッドテール。黒紅の装束を

着込んだ正義のヒーロー。悪党からすれば絶対に敵対したくない相手で

弱い立場の人間からすればどんなヒーローよりも尊ぶべき存在。赤色は

ヒーローの色だし」


アイはポーズをとった。そのポーズは初期の仮面ライダーのポーズだ。

この時代にはもうその存在が消えていることだろう。だから彼らも

キョトンとしていた。だが彼らがREDTAILであることは確からしい。


「この時代の警察、一体何やってるの?」

「警察、ね…この六本木は行政の手を借りずに復興したから行政の介入を

嫌ってるんだよ。富裕層も多いからね、彼らも迂闊に手を出すことが

出来ない。それより、ってどういう意味かな?それを

話してくれれば僕たちは貴方を信頼することが出来るけど」

「あー…本当に?聞いたら絶対にひっくり返るよ?天変地異だよ?」

「益々気になるな」

「何とビックリ2022年から来た100年少女」


真顔でそう告げた目の前の少女。彼らは未だに信じていない様子。もしくは

茶化されているとでも思っているのだろう。無言が続く。やがて一人が

「ホントに?」と聞き返した。


「逆に聞くよ?初対面、それも強そうな人たちの前で100年前から来ました☆って

冗談言う強者つわものいるの?私、そんな奴に見えるの?」


そう返されてしまっては何も言えなかった。少女と言っても背丈は高い。しかし

袖から見える腕、見える部分は細く少し圧力を掛ければ簡単に折れてしまい

そうだ。


「だけどなぁ…男だらけのところなのに良くこれを受けようと思ったな」


雑用の無賃金雇用。来るはずも無いと思っていたのだが、何故来た。


「だって…男しかいませんとか、男を募集しますとは書いてないし。何?

そんないやらしいことを考えてる人いるの?」


そう返された彼らは慌てて首を横に振った。


「まぁいいや。とりあえず中でもう少し話を聞きたいから」


彼らの拠点の中に入ることが出来た。廃れた外装とは裏腹に中身は

生活感がある場所だ。用心棒という仕事柄、やはり女人はいないようだ。

やると決めて来たからにはやる気でいる。十数人の男たちに四方八方を

囲まれているアイはタジタジしながらも自己紹介をする。


「えっと、アイです。さっきも言った通り、100年前からタイムスリップしてきて

こっちの事はほとんど知らないから、時代錯誤な事を言っても笑わないでね」

「そりゃあ面白い。2022年だったか。笑ったりしねえさ。寧ろ、余計アンタに

興味が湧いてくる」

「湧いてくる?」


中でも大きな体を持つ男は歯を見せて笑っていた。それはアイを蔑む笑みではない。


「100年前とこっちじゃ大違いなんだろ?面白い以外何があるんだよ。それで

改めて聞くがどうしてここに来たんだ?一応言っておくが賃金は渡せねえ」

「あーその辺は良いよ。こっちの時代じゃホームレスとさして変わらないし。

それに学校も無いから暇なの。暇だからやること探して辿り着いた」

「ホームレスと同じ、ねぇ…じゃあ一体どうやって過ごしてたんだ。今まで

聞いた話じゃあ1週間ぐらいはもうここに居続けてるんだろ」

「それはとてつもなく親切な人にタイムスリップしたときに助けられまして。

そのままその人の家に居候してる。衣食住も保障してもらって尚且つこっちの

我が儘まで聞いて貰っちゃって…」


頼れる場所がない、居場所がない。それが今のアイの状況だ。この時代から弾かれている、社会から爪弾きされていると言っても過言ではない。それはまるで自分たちの

ようではないか。REDTAILというチームも元々は社会から弾かれた若者たちが

集まったことで出来たチームだ。


「運が良かったんだな」

「まぁね…それに今もこんなバカげた話を真剣に聞いてくれる人たちがいるし。

もういっそのこと、この時代でゆっくり過ごそうかな~。それで、私は

ここで雑用をしても?」


その大男は一度アイにその場で待つように伝えて、他の面子と共に外へ。

外に出た理由は話の内容が関係している。


「まぁ、リーダーが思うのは分かりますよ」


ヒナタは先のアイを見て思ったことを口にする。


「自分だったら、耐えられたかどうか。きっと彼女自身だって知らぬうちに

精神的に消耗しているに違いありません。慣れない場所に慣れるには

時間が必要ですから。それも何もかもが変わってしまった未来ですし…」


アイを雇ってやるか、それともやはりここは男所帯の場所。余計に苦しい思いを

させるのは…。扉越しに何か音がした。部屋にはアイがいたはずだが。

部屋の中、机に突っ伏しているアイがいた。


「これは…熟睡ですね…」


揺すっても起きる気配はない。返事は彼女が目覚めてから伝えることにする。

すっかり寝てしまった彼女を一度空き部屋のベッドに寝かせる。彼女が抱えていた


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