第17話 第二章 5 ヴァイスはその頃

「おう、ジーク」

「ヴァイス殿!!」

「面白そうなことになっているじゃねえか。」


 謁見の間の王座に座るジーク。その前にはぼろを着た男達・・・

「私たちの命の綱の井戸を何故埋めてしまわれたのですか。」

「だから・・・」

「いいわけだ!!」

「すぐ復活させろ!!」


 周りの兵士達が男達に駆け寄り、男達の体を拘束する・・・

「俺たちを脅すのか!」

 わあわあとひきずられながらも罵詈雑言を叫ぶ彼らに・・


『いや、脅してるのは君たちだろ・・・ 』

ジークの心の声が聞こえたヴァイスは笑い転げた。

「いやあ、よき国民だな。」


・・・

「説明したのだが、理解できないらしくて・・・」

「まあ、一般の農民なんてそんなものだろうよ。」

「どうしたらよいのだろうな・・」

「今まで無知なまま放っておいたんだろ。たぶんそのほうがつごうがいいからな。」

「無知・・・」

「ああ。おまえは奴らを教育してやれよ。」

「教育?」

「何がよくて何がだめなのか、何故だめなのか、原因は何か、自分に欠けるものはなにか・・・」

ジークは王冠をとり、頭をかきむしった。

「文字も読めるように、計算もできるようにだな。」

と、ヴァイスは続ける・・・ジークは頭をかきむしるのをやめて顔を上げた。

「しかし・・・そんなことをして大丈夫なのか?」

「馬鹿が増えるより、利口が増えた方が、国は発展するぞ。」

・・・・


「この国には利口な者があまりいないと言うことか?」

「う~ん。どうかな。断言できるほど何も知っちゃいないんだがな。」

ヴァイスは王冠の上にちゃっかり座り、顔をしかめた。

「座り心地が悪いな。」

「いや、そこは座る場所じゃない・・ですよ・・・」


そんな言葉にかまわず大あくびをして寝てしまった・・・

「ヴァイス殿、私はどうしたらいいんでしょうか・・・」

王冠をそっと両手に捧げ持ち、部屋に帰る若き王。後ろに4人の近衛が付き従う。前にも4人・・・


「ジーク様、あの者どもをどうしますか。」

振り向くと文官が一人立っていた。

「食事を与え、何故井戸を埋めたか分かるまで話をしておけ・・・いや・・・ニールに話をさせろ。」

「・・・ニール殿ですか・・なるほど・・はい。」

・・・・文官が一礼して立ち去ったあと、隊列は進む・・・部屋の前で待機する者と、一緒に部屋にはいる者に分かれて4人の近衛が部屋に立ち入る・・

部屋の4隅を確認した後、窓、入り口にさらに2人ずつ分かれて立つ。

ジークはそれを尻目に寝室のドアを開けた。

「一人にしてくれ。」

何か言いたげな近衛達に手を振って続ける。

「いや・・・ヴァイス殿が一緒故、心配はいらぬ。」


・・・

ため息をつきながら王冠をそっとサイドテーブルにのせ、ベッドにどさりと座りこんだジーク・・・控えめなノックの音と共に声がする・・

「失礼いたします・・・お食事と入浴はいかがなさいますか。」

侍女の声だった・・・こういう女性がそばにいる時を張ってかなわんな・・・とジークは内心思っているが、おくびにも出さず、

「今はよい。下がっていてくれ。」

応えれば、開きかかったドアの向こうで何人かの女性のため息が聞こえた。

「分かりました。用意はしてありますので、いつでもお声がけください。」

「ああ。すまないな。」

「いえ。もったいなきお言葉。」



・・・・



ヴァイスが不意に起き上がりふぁあと大あくびをした。

「おい、飯はまだか?」

その一言で、ジークは慌てて立ち上がり、ドアを開けた。

ばたばたばた・・・騎士達が慌てて動きまわる・・・

「何をしていたんだ?」

「いえ。」

「いえ?」

「我々は決して寝室をのぞき見しようなどと・・・」

「あ。あほ!!」


ジークはため息をついた。部屋の中に侍女はいない。やれ助かった・・・近衛の連中は実は飛竜隊だった者達なのだ。信頼できる者達が彼らだけだった故に、粗野な者がいるのはいたしかたがない・・・近衛即実戦部隊という珍しい構図なのだが、ジークは満足していた。ただの飾りはいらない。


「まあいい、ここは我々しかいない。飯の用意をしてくれないか。ヴァイス殿がご所望だ。」

「はい。そう来なくちゃね。俺たちも一緒でいいですか?」

「もちろんだ。」

「侍女の姉さん達は、遅いからという理由で返しましたぜ。」

「よくやった。」



そこにノックの音がした。

「だれだ?」

一瞬のうちに警戒の顔になる近衛達。ジークはそれを見てにっこりした。

「ニールであります。入室の許可を・・・」

そこでなあにいた近衛の一人が、

「なんだ。入れ入れ。おい、廊下のおまえ達、飯もってこい。みんなで食うぞ。」

と言ったので、廊下がひとしきり賑やかになった。

「え?警戒しなくていいの?」

口々に言いながら入室してくる・・・


それを見て、ジークは笑いながら、

「ヴァイス殿がご一緒なのだぞ。何の警戒がいる?」

と言った。

「おいおい。過大評価するな。」

と言うヴァイスも楽しそうだった。

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