第15話 第二章 3 美女

 魔王の城も広かった。アルファさんが僕を案内して演習場みたいなところに連れて行ってくれた。

「まあ、ぶっ放してみるといいですよ。」

「・・・?何を?」

「魔力ですよ。」

「・・・・・」

「・・・?どうしました?」

「できませんよ。」

できないから困っているんだよ・・・

「ほう?まず練るところからですかな?でも・・・あなたの胸から何か感じられるのですが・・」

「ああ。ヴァイスからおまえの杖だって言われたんですが・・・さっぱり分かりません。それから、練るって意味すら思い出せません。」

 


と言うわけで、僕は魔力を感じるところから修行をするんだそうだ・・・・

 周りにいるのは3~5才くらいの子どもたちだ。羽が生えていたり、角があったり、尻尾があったり、肌の色が黒や青や赤や黄色など本当に様々な種類の子どもたちだ。そしてみんなかわいい。 

「おへそのねえ、下の方に力を集めるんだよ。」

「お兄さん、それ服なの?重そうだね。」

「こっちに来てごらんよ。」

いや、姦しい。そしてみんなちゃんと魔法が使えるんだ。教えている人達が言うには「まだ簡単なものしか使えませんけどね。」

だそうだけど。使えない僕から見たら立派だよ。


アルファさんは僕を連れてきてみんなに紹介した後、

「休憩ごとに来て、トイレをなんとかしますよ。ここの者達は優秀ですが、そういう魔法には長けていませんのでね。

 今は魔王様がサボっていないか心配ですので席を離れますよ。」

って言って立ち去った。

 本当に3~4時間ごとにやってきて嫌な顔一つせず、トイレ事情を解決してくれる。

「早く思い出せるといいですね。」

 うん・・・・



 毎日がこんな風に過ぎていく。胸のピンはうんともすんとも反応しないし・・・


「鎧のお兄ちゃん。」

と言うのが僕への呼びかけ言葉だ。まあ、鎧野郎よりましか・・・


 10日くらいたったある日、みんなでピクニックだと言って、城の外に出た。まあ・・・先生も3~5歳児だけ連れて城外へ出るのが嫌だったんだろうな。僕は体のいい助手だ。

城からちょっと離れたところは草原と林が隣り合わせになっていて、とてもきれいだった。追いかけっこや、花冠作りなど様々なことをして遊ぶ子どもたち。見守る何人かの大人。先生に、お城のメイドさんだな・・・あの人は廊下でよく見かける兵士?の人だ。ああ、小さい子によじ登られている・・・なんとなくほのぼのした風景だなあ。

・・・よじ登られている兵士?の人が角のある黒い山羊みたいな人でもね・・・・・・

僕はすっかり眠くなって、草原に横になって眠ってしまった・・・・



・・・夢の中で僕は漆黒の鎧姿のモノと対峙していた。漆黒の鎧の人は口のあたりの蝶番をガクガク言わせて何か伝えようとしているみたいだった。


 目が覚めたら鎧の上に黒い猫が座っていた。

「やれやれ。ただでさえ重い鎧なのに、さらに重い物がのっていたのか。」

 つぶやきに反応して抗議するようにニャーと鳴いて僕の上から飛び降りた黒猫。何か言いたそうに僕を見ている。

 立ち上がってううんとのびをしたいところだけれど、どっこいしょ。

 ベッドから降りて黒猫の後をついて行くことにした。長い廊下を歩く。珍しく誰とも会わないで進むことができる。静かすぎてちょっと不気味だな・・・暗いし・・・


 しばらく歩いていてふと考える。

 あ。もしかしたら、夢?夢の続きなのか?


 そうだよ。ついさきっきまで草原にいたはずの僕がこんなところにいるのはおかしい・・・って思った気がする。

 でも、黒猫は時々僕を振り返ってにゃあんと鳴く。僕は延々と続く廊下をただ追いかける・・・一つの扉の隙間から猫は室内に・・・少しだけ開いている扉の隙間から猫の尻尾が揺れる・・・僕は扉に手をかけてギィ・・・まぶしい・・・


「鎧のお兄ちゃん寝てないで起きて。」

「もう帰る時間だって。」

 僕を遠慮なく揺さぶる小さな手・・・


「ほら、やっぱり」

 僕が思わずこぼした言葉に

「何がやっぱりなの?」

「もっと遊べばよかったじゃないの?」



 ゆるゆると城に向かう道。黒猫だ!

 僕は慌てて追いかける。

「鎧のお兄ちゃん。どうしたの。」

 子どもたちの声を遠くに聞きながら走る・・・

 黒猫が消えた!!と思ったら穴に落ちてしまった。

「うわああああああああああ・・・」


 ガラガラガッチャ~~~ン

「いたたたた・・・・」

「にゃあん・・・」

 目の前には黒猫だ。と思ったらすっと消え、そこにはすごいゴージャスなお姉さんが立っていた。

「すげえ・・・美人・・」

「あら。」

どっこいしょと立ち上がる。

「僕に何の用ですか?」

「あら。ライバルが記憶喪失だって聞いて見に来たのよ。」

美女は腕組みをして偉そうに答えたから驚いた。


「は?ライバル?」

何のこと?

「魔王様の妃の座を巡ってよ。」

「はあ?」

 美女はどこからが黒にキラキラする石をちりばめた扇を出して自分を扇いでいる。

「意味が分かりませんよ。僕は男だ。」

「ふうん。男ね。魔王様がそんなことにこだわるとでも?」

・・・・・・・・・

「え???」

なに?これってBLなの?・・・ん?BLってなんだ?なんでこんな言葉が出てくるんだ?


「まあ、そんなことはどうでもいいわ。私のライバルがいつまでも魔法が使えないなんて許せないのよ。」

って言ったかと思ったらビリビリくる光線が僕に向かって放たれた

「う・・・うわああああああ」

 鎧ってビリビリがすごく伝わるんだ。胸のピンがチカチカ光っている。そこから、ものすごい衝撃がやってきた。頭にもガンガンくる何かで僕は気絶してしまったようだ。



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