第13話 二章 1 海だ、海だね。魔物だね・・・

『おー、潮風が気持ちいいな。』

『そうだね。船に乗れてよかったよ。』

『おまけに無料だしな。部屋も飯も最高だし。』

僕たちは西大陸に帰るジェン商会の船に便乗している。ジェン商会の代表だという「お嬢様」を助けたお礼なんだ。ヴァイスは馬くらいの大きさに化けられる使い魔と言うことにしてある。ドラゴンだなんて知られたら、やっかいなことになりそうだから。皇帝にも僕らのことは内緒にということにしてもらっている。最初の村で失敗したと思ったからね。

あの羊皮紙はお蔵入りだ。帝都に行ったときには有効活用させてもたらうけど。

 ジェン商会の実は代表だったお嬢様は、知る人ぞ知るやり手の方なんだそうだ。あの可愛らしい外見にだまされてはいけませんって、従者がつぶやいていたからね。人は見かけによらないんだね。


「ここにいらっしゃいましたの?」

「ああ、ジェンさん。」

「お茶にしませんこと?」

優雅というか、かわいく言われると何でも頷いてしまいそうだよ。


しばし歓談。

「その鎧、いつも来ていらっしゃるのね。船の上ですから脱いだらよろしいですのに。」

「・・・あ~、・・・いや。いつ何時何があるか分かりませんから。」

そうなんだ。鎧が脱げないことも内緒にしている。余計な詮索されたくないし、従者の話からも、なんとなく、言っちゃいけないような気がしてね。でも、後で、伝えておけばよかったなって思ったんだけどね。


「うわああああ」

すごい声が身は離島の上からした。

「なに?」

「お嬢様、すぐ船室に。」

『おい、魔物だ。』

『気がつくのが遅いよ。』

「オーリ様も早く。」

「いえ、僕は騎士ですから、お気になさらず。」

『あれはおまえの迎えだな。』

『え?僕を?』

『まあ、丁寧な迎えだ。存分に戦わねばな。』

なんなんだよ。戦う相手ってことか。


僕は船員の中でも戦闘に特化した集団が船首に向かって走って行くのを確認した。

『おい、反対方向に行くぞ。』

『ええ?なんで?』

『奴の本体は船尾だ。』


果たして船尾には頭があった。うねうねと動く腕。吸盤? 何人かが、苦戦していた。

「これ?」

『たこだな』

たこ・・・

『こんな脚が最低でも8本あるぞ。船首に5本ほど言ってるようだがな。こっちの頭をたたけば、脚も少しはおとなしくなるだろう。』

え?聞き捨てならないことを言わなかった?頭をたたいても、脚は動き続けるみたいに聞こえたけど・・・

『おお。そうだぞ。』


大剣を構えて飛び上がる。この鎧でよく飛び上がれるようになったよな。自分で自分に感心しちゃう。切りつけたら剣がぬめった・・危ない・・反動を付けて頭に飛び乗った。頭に突き刺す・・・あれ?死なない?うねうねとした1本の脚が僕を払いのけようとしてくる・・でかい目が僕をぎょろりと見つめた・・・


『こいつの急所そこじゃない!!』

ええ?どこ?

『目と目の間の少し下だ。堅いぞ。』


てっぺんならやりやすいけど、目と目の間のちょっと下?頭から滑り落ちそうになって慌てて捕まろうとしたけど滑ってしまった。

「あわわわw・・・」

下は海だうねうねと手(?)脚(?)も近づいてくる。


 ヴァイスが少しだけ大きくなって僕をすくい上げてくれた。少し離れたところから魔物を見る。

「目と目の間!!」

ってヴァイスが言ったかと思ったら、僕を怪物に向かって投げつけた!!!なんてこった!!!

 慌てて剣を構えて勢いよく飛んでいく・・・ぶ・・す・・・?

少し刺さった。のたうち回るにつれて船がひどく揺れている。少し刺さっている剣に僕はぶら下がっている状態だ。脚が僕に襲いかかる。


『思い切り差し込むんだ!!』

できるならやってるよ。剣を軸に頭の上に飛びの・・・たたき落とされてしまった。一つの脚にしがみつく・・・いや。巻き取られちゃったんだ。なんだ?これ、吸い付くぞ・・・鎧に吸い付く脚にくっついている丸い物。

『吸盤だぜ。またやっかいな・・』

ヴァイスが口から冷気を吹き付ける。吸盤が付いた脚が一本凍った力を入れたら割れたじゃないか。ヴァイスありがとう。

『いいってことよ。』

凍った脚の根本をうまく使ってもう一度反動を付けて目と目の間少し下に少しだけ刺さっていた大剣を思い切り差し込んだ。

『ねじれ!!』

言われるままに剣をねじる。何度かのたうち回ったかと思ったら、動きが止まった。

と、別の脚が僕に巻き付いた。

「オーリ様!!」

誰かが叫んでいる。

『ヴァイス!!』

『おうよ。招待だぜ。』

『なんだよ。招待って?』


海に引きずり込まれながら僕はあらがう。

『大丈夫だ。暴れるな。』

って言われても・・・・








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