第12話 幕間4
戻ったら、もう夜明けだった。馬車を襲った盗賊達は、みんな疲労困憊して獣人達に取り押さえられていた。
荷馬車に全員積めないから、どうしよう?と思っていたけど。
「昨日のうちに町に応援を頼みましたから。」
と、従者の獣人さんが言ったので、安心した。
ご飯もおいしく食べ終わる頃、町からの応援がやってきた。
もう全て終わっていたことに驚いていたけど、盗賊のアジトに案内すると言ったら喜ばれた。
「お宝は、それを見つけた人の物なんですよ。」
と教えられたけど、欲張っても仕方ない。
「みんなでわけましょう。」
そう言ったらえらく驚いた顔で見られた。そんなに変なこと言った?
応援部隊は賊を町に運ぶ者とアジトに宝を捕りに行く者の二つに分かれた。ジェンさんは、賊と一緒に行動するのは嫌だと言って、何故か、お宝の方についてくるという。まあ、危険はもうないと思うから大丈夫かな。町長は賊と一緒に町に帰ることになった。
「残念です。おたからをみたかった。」
って言うから、
「どうせ全部町に運ぶから、そこでじっくり見るといいですよ。ついでに持ちが見つかったら、返せる者は返しましょ。」
と返してあげたよ。
お宝のところまで結構時間がかかった。登りだったしね。全員馬に乗っていたからまだ楽だったけどね。
お宝の中にはここ何年か行方不明になっていた者達の持ち物も出てきた。本人達はもちろんいない。通行証やタグなんかも出てきた。
ありったけの荷馬車に乗せ、乗って来た馬に引かせて港町に戻ることになった。
「ここは破壊しますよ。また盗賊が住み着いたら困りますから。」
そう言ってみんなを先に出発させ、その後ヴァイスが破壊した。
「おまえも杖が戻ったんだから、破壊を手伝えよ。」
と言われても、使い方を思い出したわけじゃない。
「できないのは分かっているだろ。」
と言うわけで、
「おい、何度も言うけど、俺は、氷と水のドラゴンなんだ!なんで俺が炎吹いて爆発させにゃならんのだ!!」
「すごいなあ、ヴァイスは。苦手なことまでうまくできるんだから。」
ひたすらヨイショだ。
「ちっ、それもこれも、みんなおまえが・・・・・」
ブツブツ言ってるけど仕方ないよ。でも・・なんだろう。首のあたりがチクチクするんだけど・・
残った1頭の馬に飛び乗って後を追う。
ヴァイスは僕の有為で荷くっついて、まだブツブツ言っている。
『ちっ、前髪が焦げちまったじゃねえか・・・』
それはお気の毒・・・
前日野営したところへさしかかった。誰もいない・・・・?チクチク・・・いや、何というかな。そうだ、視線だ。視線を感じるのは何でだろう?
気になるけれど、通り過ぎてみんなを追う。やがて平坦な道にさしかかる頃、前に荷馬車の行列が見えた。真ん中に見える馬車はジェン商会の物だ。
僕たちが近づくと、隊列は止まった。
「オーリ様、お早かったですね。」
「ああ。」
「馬車にお乗りになりますか?」
「いや。このまま乗っていく。」
隊列はまたゆっくる動き出した。
『なんか、視線を感じたんだけど・・・』
『ああ。今もな・・・』
首のあたりがチクチクする。
『攻撃してくるのかな?』
『いや・・・監視?かな。』
『監視?誰が?』
『想像は付くけどな。』
でもそれが誰なのか何なのかは教えてくれないんだ。おまえの試練だからって。どこまで知っているのかな。
考え込む僕の胸にちりんと鳴る物があった。杖だと言われたピンだ。これが僕の杖?女の人が胸元や髪に飾る物じゃないのかなあ。使うときには全き姿に戻るだろうってヴァイスが言ったんだけど。全き姿って何だ?僕にはさっぱりだよ。魔法が使えるのかも分からない。僕、大丈夫なのかなあ?
・・・
隊列はゆっくり進み、町に入った。あの羊皮紙を見せなくていいのはいいな。
そのまま町長の館へと進む。たくさんの宝物と一緒にたくさんの旅人の遺品・・・・それらを置くためだ。
荷物を下ろし、お嬢様・・ジェンさんと町長が話をしている間に、僕はジェンさんの侍従の方から西大陸行きの商船に乗せてもらう手はずを整えることにした。
「え。無料でいいんですか?」
「もちろんですとも。あのままでは我々は全滅・・・と言いますか、奴隷として闇に売られていたでしょうから。」
奴隷・・・そうだ。皇帝に連絡しておかなくては・・・
『もう連絡済みだ。帝都からこっちに何人かよこして尋問するとか言っていたぞ。』
『皇帝って、まだ帝国に戻っていないんじゃないの?』
『そろそろ到着するだろ。』
へえ。詳しいな。
『おまえだって杖を取り戻した今、できるはずだ。』
まだ無理・・・思い出せてない。
お礼を言って、宿屋を探すために町長の屋敷を出ることにした。
まず、町をぶらついて夕飯を食べて・・・
「お待ちください、」
「なにか?」
「お嬢様と町長が夕食をご一緒したいと申しております。」
「ありがとうございます。でも、宿屋を探しに行かなくちゃいけないからいったん宿泊手続きをしてから戻ってきますよ。」
「宿泊の手配も済んでおります故、大丈夫です。町長からのお願いで、諸々が片付くまで、我々も含めて、ここに滞在して欲しいとのことです。そろそろしたくも整っています。ご案内いたします。」
『どうする?』
『窮屈そうだな・・・』
『断る?』
僕たちの躊躇が分かったんだろう。従者の方の合図でここの召使いの一人がお嬢様を呼んできてしまった。いつ見てもかわいいな。兎の耳・・・
食事はなかなか豪勢だった。
ワインも勧められたけど、
『やめとけ。』
『なんで?』
『おまえ、まだ未成年だろ。』
『それで、ジーク達との飲み会でも酒を僕に渡さないで全部自分で飲んでいたのか!ぼくはまた、独り占めしたいのかと・・・ごめん。僕のためだったんだね。』
『・・・まあ。・・・そうだ・・』
・・・あれ?未成年って・・・僕はいくつなの?ヴァイスはそれには応えてくれなかった。なんで隠すんだろう?
「こちらでお休みください。浴室はこちらです・・」
「ああ。ありがとう。」
「鎧おきも用意してありますので、どうぞ。」
「ありがとう。」
脱げる物なら脱ぎたいよ。手伝う気満々で僕の前に立っている召使い・・・・いや・・・無理・・・丁寧にお断りをする・・・
『ヴァイス、頼む。』
『そろそろ自分でやろうとしてみねえか。』
・・・・・召使いが部屋から出て行ったのを確認する・・・
「できるならね。」
「できるだろ。まずは努力だぜ。」
僕はため息をついて、再度ヴァイスに頼んだ。
体はすっきりしたけれど、相変わらず寝苦しい鎧就寝・・・早く鎧を脱ぎたい・・・
結局町長の家に一週間ほど泊まる羽目になった。帝都からの役人が明日は来るという日、僕たちの乗る船が出航するという。大げさなことになるのは嫌だったので、ちょうどいい。 一週間の間に宝の保管やそのほかの書類仕事を手伝ったり、いろいろ買い込んだり、あちこち食べ歩いたり、まあ、充実していた。
そして船。大きい。西大陸までは一か月以上かかるというから、いろいろな物資もたくさん積まれているらしい。僕たちは『お嬢様』の部屋の隣に部屋をもらった。すごく立派な部屋だ。贅沢なことに、風呂も付いていた。僕たちには無縁の物だけどね・・・
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