第10話 幕間2
倒れていた何人かもどうやら命は助かったようで、意識は混濁しているようだったけど、馬車に思い思いに寄りかかっている。これもヴァイスがよこした布と水で対応した。
『こいつら、首のところに針が刺さっていたぞ。』
『針?』
『多分眠り薬・・・』
『へえ?なんでまた・・?』
話を聞くと、馬車が横転した後、護衛として付いてきていた獣人達が応戦していたとのこと。獣人達は人より機敏で丈夫なのだけれど、お嬢様を助け出し、倒れた馬車を起こそうとしたところを背後から襲撃されたようだ。
「助かりました。あのままでは、積み荷もお嬢様も、奪われてしまうところでした。」
ただ一人頑張って戦っていた人は、お嬢様の従者なのだそうだ。
馬車にお嬢様と、侍女一人、それから港町の町長とそのお付きの人が馬車に乗り、他の獣人達は、御者をしていた獣人以外は
「我々は馬と同じかそれより速く移動できますからね。」
だそうだ。すごいな、獣人。抜いた針を布の上にのせて従者に渡す。
「これは?」
「倒れていた人達の、首のあたりに刺さっていた・・」
「・・・眠り薬?だから、急に動きが鈍くなって倒れていったわけか・・・」
難しい顔をして針を取り上げ、臭いを嗅いでいる従者の脇で、ヴァイスによる治療で次々に目を覚ましていく獣人達。人は賊だけだ。獣人・・20人かな?賊も20人くらいだったよな・・・
しばらく後、獣人達が立ち上がり、馬車を起こして使えるか調べ始めた。
馬車はひしゃげていたけれど力持ちの獣人達がメリメリとへしゃげたところを元に戻そうとしていた・・・すごい・・・口をぽかんと開けてみてしまう。
「それにしても、騎士様。お強いですね。」
「・・あ・・ああ?」
「どちらまで?」
「港町まで。」
「ああ、我々と一緒ですね。よろしければ、我々と一緒に行きませんか?いえ。一緒に行っていただけませんか。」
「一緒に?」
「まだ町まで半日の距離があります。すでに暗くなり始めていますし。騎士様はお強いから、一人で行っても大丈夫でしょうが・・・・」
『守って欲しいのかな?』
『だな。まあ、引き受けたら?町長もいるようだし、船に乗るのに羊皮紙を見せるより簡単に乗れるかもしれねえぜ。』
なるほど。羊皮紙はあんまり人に信用してもらえなかったからね。
「かまいませんよ」
と言うわけで馬車を起こしてどうやら使えそうな形にした獣人達と一緒に夜を明かすことになった。
「そういえば、名乗っていませんでした。」
お嬢様も少し元気がないけど、にこやかに食事を受け取って食べている。
「わたくし、西大陸のジェン商会代表のジェンと申します。」
「あ。ご丁寧にどうも。僕はオーリ。ここにいるのは相棒のヴァイスです。」
「・・・・」
ヴァイスは尻尾を僕に巻き付けたまま器に顔を突っ込んで食事中だ。
「私は港町町長のフルールと言います。このたびはありがとうございました。」
「港町へは何をしに?」
お嬢様が言うから
「いや。船に乗って西大陸に渡ろうかと・・」
「あら。」
「ほう?」
「それでしたら私の船にお乗りください。お強いですし、とても心強いですから・・あら。打算的な言い方でしたわ。恩人のあなたにお礼として船に賓客としてお招きしたいですわ。」
「それは願ってもない・・・いいんですか?」
「ええ。」
お嬢様と侍女は馬車に休むために戻っていった。
他の獣人達はもう怪我のことなど忘れたように動いている。そういえば、町長と従者の人は人間だね。あ。この国の港町だから、あたりまえか・・・
獣人達が交替で見張りに付くって。
『ヴァイス、けっか・・・』
『とっくに張った。奴らの残りが近づいているからな。』
『やっぱり?』僕はため息をついた。それからみんなに話しかける。
「気づいていらっしゃると思いますが、奴らの残党が近づいてきています。」
「やはり・・」
『あと・・半刻ってとこだな。』
・・・
「半刻くらい後に到着するようです。」
「すごいですね。我々獣人はそこまで分かりません。ただ、なんとなく近くの動物たちがざわめいているのが分かるだけです。」
いや。それも充分すごいから。
「眠り針に注意してください。」
「そうですね・・・」
眠らせて連れて行き、奴隷にするんだそうだ・・・帝国には奴隷制度があったの?
『いや。非合法だな。後で皇帝に知らせとく。』
ヴァイスはなんでもできるなあ。
『俺たちは、盗賊どもの根城を襲撃するぞ。』
『なるほど・・』
・・
「僕たちは盗賊の根城を襲撃してきます。いまならきっと、手薄でしょうから。」
「うちの手のものを連れていかなくても大丈夫ですか?」
『こっちに20人くらい向かっているって教えてやれ。』
「こっちに20人くらい向かっているらしいです。さっき逃がした何人かが報告したんですね。」
『飛び道具も持っている。ここは俺が結界を張ったから、はじくだろうが。襲撃に応えて打って出たら、保障はしねえぞ。』
「ここには強力な結界が張ってあります。結界から出たら守りは保障しないと相棒が言っていますので、じっとしていることをおすすめします。」
「相棒?そこの・・・ヴァイス殿が?」
「彼は優秀ですよ。さっき皆さんの治療をしたのもヴァイスですから。」
その言葉と共に僕たちはかけだした。ヴァイスが馬くらいの大きさに変わる。僕はその上だ。
「「「「おおおお」」」」
声が聞こえるけどいいや。ヴァイスはふわりと浮き上がった。
「一気に行くぞ」
うわあああああ・・・・・
途中でかけていく馬の群れを見た
「大丈夫だ。俺の結界は誰にも破れねえ。」
その自信はどこから来るのかねえ・・・
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