第9話 幕間1



 

 空の上から見るこの国はまだまだ荒れている感じがする。これからきっとジークが努力するんだろうな。遠くなる競技場。遠くなる城。少し感傷的になる僕に

「さあ。これから行くのは獣人の国だぞ。」

「獣人?」

この国では人間しか見たことがない僕は、驚いた。

「そういう人達もいるの?」

「そうだ。この国がある大陸とは別の大陸だ。海でかなり隔たっているから、交流はほとんどないようだぞ。」

「ほとんどってことはたまにはあるの?」

「ああ。帝国の外れにある港。そこには時々船が来るらしい。そこから俺たちも船に乗るぞ。」

「船に乗っていく?」

このまま飛んでいくかと思ったのに。

「疲れちまうだろ,俺が。」

確かにそうだ。乗っている方も大変だけど、飛ぶ方の方が大変だよね。

「あれ?船に乗るには切符tpか、お金とかいるんじゃないの?」

「それはもう。帝王にバッチリもらってあるぜ。」

いつの間に?

「そりゃあ、奴は俺と仲良くなりたくて必死だからな。鱗もほしがったけど、・・まあ、やらなかったけどな。」


途中で降りて野宿した。獲物は兎だ。

パチパチ燃える火を見ながら棒に突き刺した肉に塩を振って二人で食べた。

「少ねえな。」

ブツブツ文句言うけど、仕方ないよ。


次の日の昼頃、遠くに海が見えてきた。

「ここらで降りて昼飯にするぞ。」

ちょうど峠のてっぺんあたりにヴァイスが降りた。少し先に家屋が見えたので、そこでご飯が食べられるんじゃないかと期待しながら歩いて行く。ガシャンガシャンとなんとなく音がするこの鎧は、目立つことこの上ない。顔が見えないからいいけど、顔が見えたら少し恥ずかしいかもね。

少し歩くと果たして村が見えてきた。


「止まれ。」

さすがに村の入り口には人が立っていた。

「怪しい奴。」

「怪しくないですよ~。」

ヴァイスを見たら丸めた羊皮紙をよこされた。

「ほらこれ。」


・・・・・

『白い鎧の騎士とその腕のドラゴン殿の通行書・この者達にかかった費用は印をもらい、城に提出のこと・・・』

って書いてあるらしい。ちゃんと帝王の花押入りだ。

「怪しい・・これは本物か?」

田舎の人は知らないよねえ・・・

「本物だ。」

さらにじろじろ見るから、ヴァイスがいきなり大きくなった。

「う・・・うわあ・・・」

元に戻ったヴァイスが、

「分かったか?」

・・・・・

この人、おしっこちびったみたいだ・・・

僕は手の中の羊皮紙を取り戻してヴァイスに渡した。ヴァイスは収納持ってるからね。あ。ご飯も入っているんじゃないの?

『そうだった。わすれていたぜ。』

これだからね・・・


 食堂で、名物定食を頼んだ。海の魚と山の獣それに山菜がいろいろな形で出されていた。『これは旨いな。』

『うん。』

二人で4人前を平らげる。それから、さっきの羊皮紙をおかみさんに見せて、請求書にサインをする。

「これを王城に持って行ってね。」

「・・・・・」

おかみさんが、疑り深そうにこちらを見るから困っちゃった。

「門番さんも認めているから大丈夫だよ。」

その言葉に納得してくれたみたい。



 ここからは歩きだ。ちょうど半日くらい歩くと港町に着くらしい。のんびり二人で話をしながら歩を進める。道は下り坂。すいすいだ。

『おい、あの角を曲がったところに2~30人いる。』

『すれ違う人?』

『いや違うな。血の臭いがする。』

『まさかの山賊?』

『だな。』

血の臭いということは・・・

『大変じゃないか。』

急いで角を曲がると、へしゃげた荷馬車、横転した馬車、無事な荷馬車が2台と、斬り合う人達がいた。

『どっちが悪者?』

『服装が汚え方じゃねえ?』

なるほど。

僕がガチャガチャ音を立てて走って行くと、汚い服装の何人かが僕に向かってきた。僕は模擬剣を出してなぎ払う。もしかしたら、こっちがいい人達かもしれないからね。

倒れて痛さに悶絶する何人かを尻目にきれいな服装の方に

「どうしましたか。」

と声をかけると、

「丸太が道に置いてあって・・・」

なるほど下り坂の途中に丸太を置いて、すぐに止まれぬ馬車を引っかけようとした訳か。

「じゃあ、悪いのは丸太を置いた人達だね。」

心置きなく剣を振るう。っても、模擬剣だけどね。ジークからもらった模擬剣は細いけど、なかなか丈夫なんだ。殴るのが専門だけどね・・・僕が殴ると、ヴァイスが足下を凍らせる・・・

『また動かれたら邪魔だろ。』

まあ、そうだね。

 

 幾ばくかの後、ヴァイスから受け取った縄で賊を縛り上げた。

『ちょっと氷溶かして。まとめておいときたいから。』

なんて話をしながら近くの木に縛り付けた。

「何人か逃げちゃったみたいだ・・」



女の人のうめき声がする。

「大丈夫?」

へしゃげた馬車からきれいな服装認定した人が誰かを救い出したようだ。

「耳?」

兎の耳が付いた女の人だった。

「お嬢様、大丈夫ですか?」

獣人だ。か、かわいい。耳・・触りたい・・・

ヴァイスが、

『馬と御者を診てやれよ』

って言わなきゃずっと耳を見ていただろうな。


 先頭の荷馬車の前に行くと馬が2頭もがいていた。脇に初老の男の人が倒れている。耳が丸い・・熊?

「お~い、大丈夫ですか?」

「う・・・」

うめき声と血の臭い・・・抱き起こしたら、頭から血を流していた。

「だ・・・だいじょ・・・」

「無理にしゃべらなくていいよ。」

ヴァイスがよこした布で頭を巻いてやり、水を飲ませた。

馬車に寄りかからせてから、馬を引き起こす。足は折れていないようだった。近くの木に馬をつなぎ、ヴァイスが魔法で出した水を馬車から転がり出ていたバケツに入れてやった。それから馬車と他の荷馬車の馬も同様に近くの木につないで水をやる。食べ物は木の下草でいいのかな?まあ。後で荷馬車の責任者の人が食べさすだろ。

 お嬢様達のところに戻ったら、さらに3人が馬車から助け出されていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る