第8話 では・・・

結局僕らは一緒に帝国に行くことに同意した。


空から隣国へ・・・下を見たらいくつかの人や馬のかたまりが見えた。

「敗走していく帝国軍の者達だな。」

ジークが僕の前でワイバーンの手綱をとりながら教えてくれた。

「どうしますか?」

「放っておけ。」

敗走兵に攻撃するのはやめようよ・・・


 城にはウィルなんたらと、何故か僕が行くことになった。

『俺が行けば攻撃されないという考えだろうな。』

『でも、全く他国者の僕たちが代表で行くのはおかしくない?』

『まあ、堅いこと言うな。』

城の近くの丘の上に降り立った僕たち。ウィルなんとかさんと二人で・・いや。ヴァイスも入れて三人で向こうの丘の上に建つ城に向かう。

結構下草がぼうぼうに生えていて歩きづらい。下草をもらった県でなぎ払いながら進む。「オーリ殿は細剣を使うんですね。でも、背中に背負っているのは大剣ですよね。」

そうなのだ。僕の鎧に常にくっついてくるこの大剣。寝るときはいつの間にかどこかに消えているんだが、起きると背にくっついてくる。不思議な剣だ。これは持とうとしても持てないのだ。・・多分、体から離れても、重くて・・・持てない・・・

「ねえ、ウィル・・・さん・・ごめん、名前・・は、何を言うつもりなの?」

「ウィルでいいですよ。ドラゴンの従者様。」

「従者じゃないよ。友達だ。」

「なるほど。」

「さっきの話に戻るけど、僕が一緒に行っても仕方ないと思うんだけど。」

「いいえ。皇帝を納得させるのに必要です。」



 皇帝の謁見室はキラキラ輝いていた。

『うわぁ。』

『目が痛くなりそうだな。』


「その方、何で戻ってきた?」

「ジーク殿にドラゴン様が付いておいでなのを知りました故に。」

「なんと?」

「ドラゴン様です。」

「戯れ言を。」

「本当でございます。」

「衛兵、このものを捉えて牢に入れろ。」

『どうするの?』

『ちっ・・』


「待て。」

・・・

「今我に?誰ぞ?」

「わしじゃ。ドラゴンじゃ。」

そう言ってヴァイスは玉座の前にいつもの半分の大きさで姿を現した。

うん。かっこいい。

『そうだろそうだろ。』

ちょ、、そっちに集中してよ。

「ど・・・?」

「まさか?」

「小さいのでは?」

「謀る気か?」

周りの貴族達が何やら騒いでいる。

「本当の大きさだと、あちこち壊すかもしれぬからな。」

ヴァイスが悠々と言うと、

「信じられぬ。」

・・・ばかなの?

『いや。猜疑心が強いだけだろ。』

ヴァイスはうんざりしたようなうなる声を上げた。

「「「「「「おおおおお」」」」」

ヴァイスはいきなり本当の大きさになったのだ。でけえよ!

貴族達は部屋の隅に押しやられ、衛兵達は王座の後ろにどかされていた。

『潰しちゃまずいだろ。』

『すごいな。一瞬でできちゃうなんて。』

『ふふん。俺様にかかればこんなもんよ。』

皇帝は口をあんぐり開けて、ヴァイスを見上げるばかりだった。

「これで信じてもらえるか。それとも玉座ごと押しつぶした方が信じるか。」

言葉と共に前足を振り上げる・・・びゅんって音がしたぞ。


・・・・・


ということで、すっかりヴァイスにおびえた皇帝はジークを賓客として迎えることを近衛に伝え、迎えに行かせた。

「ジークに傷一つでも付いていたら・・・」

「分かっておりますとも。決して傷つけはいたしませぬ。」

こっちの宰相かな。腰が低くていいね。ジークのとこの宰相は、でかい顔してるからなあ。


・・・


 帝国側とジークの話し合いは終始和やか(??おびえていたとも言うかなあ)な中で行われた。帝国はただちにジークの国に使いをやることになり、国の宰相の失脚は決まった・・・んだよね。

 さらに、友好を結ぶことにもなった。それも国とではなく、ジークとだ。

「私の一存では・・・と思っておりましたが・・」

「なんの。帝国がジークフリート殿を全面的に押しますぞ。」

こんな話し合いの中、ヴァイスは小さくなって僕の腕に巻き付き、器用に目を開けて・聞いているふりしながら居眠りをしていた・・・



多くの成果と共に、我々は国に戻ることになった・・・ウク村への数々の賠償、宰相の陰謀と、ジークとの友好・・・それらを伝えるために、捕虜だったウィルなんとかさんも使者として一緒に来るんだそうだ。




・・・・


城では使者の突然の来訪に宰相が慌てていた。

第1王子は、寝込んでいるとのことで、二人の王妃と王が謁見の間に現れた。

宰相を始め、何人かの重鎮だろう貴族や騎士団長などが集まる中、皇帝からの親書を渡された王は、

「この場でお読みくださいませ。」

と言う使者の言葉に、もの問いたげにジークと使者を交互に見ながら親書広げたのだった・・なんで知っているかというと、僕もその場にいたからだ。


「本当にドラゴン様だったとは・・・」

ぽつりと王がつぶやくと、脇に座っていた王妃の顔がピクリと動いた・・・怖い・・・食い尽くそうとするような目なんだけど・・

「妃よ。おまえ、宰相と国の乗っ取りを企んでいたのだな・・」

「な、何をおっしゃいますの。」


・・・まあ、ある意味よくある(?)展開で、 悪巧みをしていた者は残らず捉えられ、牢に・・・

 帝国の後ろ盾がついたジークがそのまま王太子となることになった。

 第1王子については、

「すまぬが、我の力でも・・・もはや神の手がかかっておる故に。」

と言う言葉で、第1王子の死期が近いことをみんなが知った。この前会ったとき、かなり無理をしている感じだったからね。あれからもう2ヶ月か。捜し物って何だったのかな。自分で分からない捜し物・・・

『ああ。もうおまえ、手に入れてるぜ。』

『ええ?』

『剣が使えるようになったろ。おまえの剣の力、それが捜し物だ。』

・・・なんてこった。品物じゃなかったなんて。







荘厳な鐘が鳴る。今日はジークの立太式だ・・・この後僕たちは次の国に向かう。もうジークには言ってある。

「何かあったらこれを握って俺を呼べ。」

って前に剥げ落ちた鱗を一枚手渡していた。

『いいの?』

『ああ。おまえらの言うところの抜け毛だ。大したことはできん。』

どうやらドラゴンの鱗は、生身から剥がした物でないと大きな力は持たないようだ。

『生身から剥がすのは痛いからな。』

なるほど・・・

ジークは鱗を首飾りに仕立て、今日も身に付けているはずだ。立太式にはなんと帝国の皇帝自らやってきて、祝福をする。もちろんヴァイスに会うのが目的だ。

と言うわけで、ヴァイスが現れやすいように競技場でセレモニーをするんだそうだ。教会での式の後、上が空いてる馬車で城下を一周してから競技場に入るんだって。なんで、立太式のあと、僕らは競技場に一足早くやってきた。


「今日でこの国とはお別れだね。」

「飯も旨かったし、ずっといてもいい位なんだがな。まあ、俺たちには使命があるし。」

「それだよ、それ。使命って何なの?」

「わはははは・・大丈夫だ多分。着々と近づいている・・と思う・・・」

はっきりしないな。何で教えてくれないんだろう。心のつぶやきを拾ったヴァイスが

「そりゃ、そっちの方が面白いからだ。」

って。

「ちょっと!!!」

「いやうそうそ。おまえの負った試練に鎧が加わっただけさ。使命は試練を受けることと思っていい。」

よく分からない・・・

「ほれ、ジーク達の馬車が来るぞ。」

競技場は町の人達や遠くから来た人達、それからたくさんの貴族、来賓などでいっぱいだった。馬車が競技場の中をぐるりと一周する。ジークは笑顔で手を振っている。

「疲れるんだろうなあ。」

「笑顔がな・・・」

引きつっているように見える。


ジークが特設の玉座に収まると、何やら式典が始まった。

あくびが出る。冑の中だから見えやしない・・・

「おい、あくびをするな。そろそろ出番だ。」


ジークが

「この国に平和と守りを与えたもうたヴァイス殿を紹介しよう。白いドラゴン様だ。」



ジークの言葉にヴァイスが巨大化しながら僕を背に乗せた。

「うわ・」


「ジークグリートよ。」

「ドラゴン様。」

王が頭を下げるから一斉にみんなも頭を垂れた。

「我は行く。ここな白い騎士と共にな。我の友情の証はもっておるか?」

「はい。この胸に。常に。」

「うむ。何かあったらそれを握って我を呼べ。」

「ありがたき幸せ。」

「よき国にするのだぞ。」

「はは・・・」

「帝国の皇帝よ、」

「は。」

「そなたもジークを助け、この辺り一帯が平和に幸せに暮らせるよう尽力するのだ。」

「分かっております。」

「帝国の繁栄と幸福も祈っておるぞ。」

そこまで言って、ヴァイスは翼を広げた。

「では、さらばだ。」


ヴァイスが飛び上がる。慌てて僕は、

「ジーク。離れていてもいつまでも僕らは友達だよ。」

と叫んだ。

「オーリ、また会おう。」

ジークの声が遠くに聞こえたような気がした。あれ、目から水が・・・・・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る