第7話 来る・・・

その夜は肌寒かった。たき火の火の周りに集まった騎士達もなかなか休もうとしなかった。なんだか何か来そうだ・・・ワイバーン達もざわめいている・・その中、ヴァイスが備えろ!!と怒鳴った。大きな声だ。みんなすぐ動けるように警戒していたので素早く行動に出られた。

「来る!!」

ワイバーンが一斉に飛び上がる。僕はヴァイスの背だ。いつもの半分の大きさになったヴァイスにワイバーン達はおびえたようにざわめいた・・・でもさすが騎士達の手によって落ち着きを取り戻していく・・・

僕たちがいたたき火跡に向かってたくさんの矢が打ち込まれていくのが見えた。

「へん。こちとらとっくに空中だ。」

誰かがつぶやく。

「おっと。」

矢が上に向かってきた。

「おっと・・・」

「真上に飛んでやりましょう。」

「ああ。それはよい考えかも・・・」

真上に射た矢はそのまま真下に行く。つまり・・・下から大騒ぎする声が聞こえた。射るのをやめろと言う怒鳴り声も。

こちらも射手が下に向かって射始めた。まあ・・・あまり見たくない光景だ。

「あっちに偉そうな奴がいる。」

誰かが叫んでそちらにワイバーンを向けた。

ややあって、ごおおおという地響きのような音がした。見ると炎と煙だ。

「ああ。火薬を落としたんだな。」

ジークがこともなげに言った・・・火薬?火を付けると爆発するあれか?こんなもん、上から落とされたらたまったもんじゃないな・・・


下は阿鼻叫喚だ。

やがて、軍隊はかなり数を減らし、元いた方向へ退き始めた。そこに追い打ちをかけるような爆発。これがジークの隊か・・・容赦ないんだな。

『俺ら敵に見なされなくてよかったな。』

『本当だよね。かなり容赦ないし。いつものジークから想像つかないよ。』



向こうで一匹のワイバーンが急降下する・・・とその手に誰かを握っている・・・

「わあ・・・握った手で羽ばたいてる・・・」

ワイバーンは手が翼だ・・・握られた者は、しばらく騒いでいたけれど・・・

「気絶したな。」

ジークが薄ら笑いを浮かべている。なんだか怖い・・


下に降りたジークは夢から覚めたようにつらそうな顔をした。

「丁重に葬ってやれ。」

また穴掘りだ。ワイバーンの手に握られていたのは敵の副官だったみたいだ。

ジークは何人かと副官が目覚めるのを待って話を聞くとかで去って行った。

全ての死体を燃やすか埋めるかし終わったのは、遠征二日目がどっぷり暮れた頃だった。


「ジーク。今日の戦い方は?」

「ああ。ワイバーンを使った飛行体があるのはこのあたりでは我が国だけなんだ。」

「火薬は?」

「隣の国の友からもらったのだ。実験的に使ってみたらどうだと言われていたので持ってきたんだが・・・使わなければよかったな。あれほどひどいとは・・・」

「殿下、あれがなければ、こっちはへたしたら、全滅していたかもしれませんよ。」

「数の暴力ってああいうもののことだよな。」

ジークの言葉に次々に反論していく部下達。いいのか悪いのかは僕には分からないけれど・・・

『まあ。俺たちにはよく分からない感覚だぜ。』

そうヴァイスがまとめた。ヴァイスは食べる目的以外の殺生は禁じられているって言ってたから、当然の反応だ。では僕は?!直接殺生には加わっていなかったけれど、そばにいたのは事実だ。止められなかった・・・そして、たくさんの死体を前に気分が悪くなったのも。

 葬らなければ・・・死者のためにも・・生き残っている僕たちのためにも・・・そんな気持ちでぐるぐるしていた・・


「殿下、飯ですぜ。」

「夕べのドラゴン殿の獲ってきてくださった肉の残りを使ってごった煮を作りました。」

「捕虜はどうしますか?」

「一緒に食べてもらおう。」

捕虜。あのワイバーンの手に握られていた人だね。

捕虜は、ローシ帝国軍の大将なんだそうだ。総司令官は火薬で亡くなられたそうだから、実質この軍隊のトップになるのかな?帝国軍のことはよく分からないや。この国の階級もよく分かってないけど・・ジークはこの飛行隊のナンバー2のはず。あれ?ナンバー1って来てないよね。演習場でも見たことないし・・・


「まあ食べたまえ。」

「・・・・」

大将は黙って食事をにらみつけていた。

「遠慮せずともいいのだよ。」

「おい、殿下がおっしゃっているんだぞ。返事位しろや。」

その声に

「なんで私に食事を?」

と、絞り出すような声で言うから、

「だって食事の時間だもの。食べないと、力が出ないよ。」

なんてついお節介を言ってしまった。

「鎧野郎、おまえ馬鹿か。」

ニールは相変わらず僕に容赦ない。

「え?」

「捕虜が力付けたらまずいだろ。」

「そうだぞ。逃げられちまうわ。」

口々に言われてしまった。あ。僕は頭をかこうとしてかけないことにがっかりした・・

「じゃあ・・・お腹が減ったらろくなことを考えないからって言う理由?」

みんなが笑った。捕虜も笑った。

「分かった。殿下、馳走になる。」

ヴァイスがひそひそ言うんだ。

『間抜けだったけど、まあ、お手柄だな。』

『え?なんで間抜け?』

まあいいや。僕もごった煮をしっかり食べた。ヴァイスは小さな姿なのに4杯もおかわりをしていた。

『俺が本気で元の大きさで食ったら・・・』

『いや。小さいままでいいよ。うん。』


その間、ジークと捕虜の大将は何やら話をしていた。

食後、捕虜の大将・・ああもうめんどくさい。ウィルフリートって言うらしい。そのウィル何たらが、僕の前に来て跪いたんだ。いや。僕じゃなくて、腕に絡みついてるヴァイスに対してだけど。

「ドラゴン様におかれましては、ご健勝のことと・・・」

「面倒なことはいい。何か?」

よそ行きヴァイスだ。

「比類なきドラゴン様がいらっしゃるとは知らず、攻撃を仕掛けましたことにお詫び申し上げ・・・」

「おr・・・我がいなければ、攻撃は是と言うことであるか?」

「・・・そ・・」

「言い訳は許さぬ。他意もない者どもを悪意を持って攻撃することはまかりならぬのじゃ。」


 いろいろ話して分かったのは、

① 宰相がローシ帝国とつながっていること。

② 彼は自領を餌に大軍を呼び寄せ、目障りな第二王子を罠にはめ、飛竜隊を全滅させようと企てたということ。

③ その後は第1王子を立て(傀儡だよね、きっと)、この国をローシ帝国の属国とすること。

だった。


「まさか、伝説のドラゴン殿が殿下についていらっしゃるとは存じませんでした。」

「宰相の前でもドラゴンだと言ったんですけどねえ・・・」

僕がつぶやいたら、

「宰相も王妃も、信じていなかったようだったからな・・・」

ジークが寂しそうに言った。

「兄上の病を治すためにも信じて欲しかった・・・」


『俺は鱗も生き血もやらねえぞ!』

ヴァイスの怒鳴り声が頭の中でキンキン響いた。

『くれなんて誰も言っていないじゃない。』

頭を振りながら反論したら、

『馬鹿オーリ。人間はみんな俺の生き血だの鱗だのをほしがるんだぜ。』

なんて。

『えー!あんなの何に使うのさ。』

「・・・万能の薬・・・ドラゴン殿の生き血や鱗が手に入る機会・・・」


『ええっ!!!』」

『ほれみろ』


「ドラゴン殿に頼めば少しは分けていただけるかと・・・」


『ないない!!!』

 ヴァイスがわめく・・・キンキンする・・

『ちょっとくらいいいじゃん。』

『馬鹿言うな。そんなことをしたら、世界中から狙われちまうわ。』

なるほど。

『天命には逆らわぬが利口だぜ。おまえも分かっているはずだ。』

ふうん。え?いや。何も覚えちゃいないんだけど。


ヴァイスと会話をしているうちにジークと捕虜の・・・えっとウィルなんとかさんとの話は進んでいた。


「このまま帝国に行って皇帝と話をしてくる・・・ドラゴン殿のお力をお借りしたい。」

『『ん?』』

いつの間にかそういう話になっているなんて。

『どうするの?』

『うううう』


「オーリからもドラゴン殿に頼んでくれないか。」

いや・・・僕には何の権限もないんだけど。




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