第6話

次の日はどんより曇っていた。

 ヴァイスは大きくなると他のワイバーン達がおびえて飛ばなくなると言って、相変わらず気配を消して僕の腕に巻き付いたままだったので、ジークのワイバーンに相乗りさせてもらうことになった。

 ジークの後ろにおっかなびっくり乗った僕はジークにしっかりしがみついた。

「堅いな。」

「そりゃ鎧だからな。」

「脱げないな。」

「ああ。」

冑も口のあたりを上に引き上げることはできるが、脱げない。 口のあたりを上に引き上げても別に目のあたりが見えなくなるわけでない。不思議な冑だ。不思議な鎧の一部だからか、僕の顔も鼻の下、口のあたりしか見えないんだ。

「君は口ひげも生えていないようだし声も高い。成人前だろうに脱げない呪いの鎧にとりつかれて大変だな。」

・・・おまけに僕は小柄だしな・・・騎士達に囲まれるとまるで子どもだ。


上空から見ると、シア領は荒れていた。


「ひどいな。」

「何かに踏み荒らされたかのようだ。」

ジークが手を挙げた。ワイバーン達が次々と降下していく。


「ひでえ・・・」

あちらこちらに踏み潰されたとおぼしき生き物・・・ひとか?

「宰相はこれを放っておいてるのか・・・」

向こうに見えるのは村?建物がいくつか見えるが・・近づいて驚いた

「焼け落ちている・・」

「殿下、これ、今日や昨日のものじゃないぜ。」

かなり匂いもひどい・・・

「燃やすか、うめないと・・・疫病が流行る。」

僕がつぶやくとみんなぎょっとしたように僕を見た。

「おまえ、予言者か?」

「え?いや。常識でしょ。」

『このあたりのモノにとっては知らないことかもしれんぞ。』

ヴァイスが話しかけてきた。そうなのかな?戦争とか何かで死んだ人々を放置すれば、当然疫病の原因になることぐらい知っていそうだけど。

みんなで黙々と遺体と木を集めた。

「遺体には直接触れないように。臭いを吸い込むのもよくない。」

と言う僕の言葉で、みんな口の周りを布で覆い、台車のような物を即席に作ってその上に極力触れないようにして遺体を乗せて運んでいる。浅く掘った穴に順にいれ、その上から木や草をかけていく。やがて山になった木に油を注ぎ火をかけた。みんな無言で頭を下げている。

ややあって、ジークに消毒の意味もあってみんなに手を洗って口をすすぎ、酒で手を洗ってうがいもさせるように伝えた。

「飲んじゃだめだよ。消毒だからね。」


「君はいろんなことを知っているんだね。」

「いや。自分のことは何一つ覚えちゃいないんだよ。」

「君は・・・ドラゴン様が君の友達だと言ったり、不思議な鎧が脱げなかったり・・・不思議な子だね。」


 簡単な弔いが終わってから廃墟となった村へ入ってみた。

 燃え落ちた家々。


「殿下、ここの井戸は使えると思いますか?」

ヴァイスが、皆に聞こえるように

「いや。この井戸は汚染されている。飲んだら2-3日で死に至る。」

なって言うもんだから、みんな慌て程度から遠ざかった。


「毒?」

「いや。何らかの死体がいくつか入っている。誰かが間違って飲まないように、封印した方がいいな。」

言葉に従ってみんなで井戸を埋めた。もし、この村の生き残りが戻ってきても飲んだりしないように。後にこれが問題になるなんて誰が想像しただろう。


結局その村を後にしばらく行ったところで野営をした。

持ってきた野菜や干し肉などを投入したごった煮はなんとも言えない味がした。ヴァイスは黙って飛び立ち、どこかに行ってしまった。

「ドラゴン様はどこに?」

「多分狩りに行ったんだと思います。」

「狩り。肉・・・・」

ニールのつぶやきが聞こえた。

「この料理、何かひと味足りませんね。」

「君もそう思うか。何が足りないんだろうな・・」

「干し肉から本来ならいい味が出るはずなんですが・・・」

調理を担当した者がブツブツ言っている。


そこにヴァイスが何か加えて帰ってきた。

「これは。魔牛?」

「血抜きはしてきた。これを焼いてくれ。」

「肉だ。」

みんな大喜びだ。

「ヴァイス、ありがとう。」

「ドラゴン様ありがとうございます。」

「あ。ほら、藻塩だ。それから、香辛料もだ。これが足りないのは旨くない。」

「そういえば、いつもは干し肉から旨味も出ているから何も入れなかったんですが。今日の干し肉はなんと言いますか・・・。」

「かび臭かったよね。」

僕がつぶやいた言葉にみんな頷いた。


「干し肉の出所はどうせ、宰相あたりだろう。」

「そんなことは・・」

ジークが言いかけると、

「いや。宰相に言われたと言って持たされたんですよ。」

と誰かが言ったのでジークは黙ってしまった。


「嫌がらせだな。」

「人に頼んでおいて、こんなしょうもない嫌がらせするなんてな。」

「そんなことより、ここから少し飛んだところに気になる物があったぞ。」

「何があったの?」

「テントだな。たくさんのテントだ。それと人。ものすごくたくさんいたぞ。」

それを聞いて、ジークが

「避難民らしいか?」

そう言うと、

「いや。何やら馬もいたしな・・・」

「まさか、ローシ帝国?」

「シア領の軍隊かも?」

・・・・・

「どうします?殿下。偵察に行きますか?」

「いや。もう暗い。」

「夜中に来るつもりかもしれませんよ。」

・・・



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る