第5話 出撃

「出撃命令だ!!!」

遠くから叫び声がした。

「1番から15番まで、10時方向1500。ウク村。緊急度2」

僕がキョロキョロしているうちに何人かが竜舎の方へ走り出した。

と思う間に羽音

ドラゴンいや、ワイバーンが空に飛び立った。先頭はジークだ。

「立って乗ってる。」

『おまえもできるだろ。』

『いや。落ちるわ。』

ヴァイスとささやき合う。

「すごいな。もう見えない。」

「俺はもっと速い!!」

いや、ヴァイスが言いたいのは分かるけど、騎士達すごい素早かったな。

「驚いたか?」

声をかけられて振り向いたら、一緒によく練習する騎士が立っていた。

「君は行かなかったの?」

「緊急度2だからな。俺は3以上じゃないと飛ばないぞ。」

聞けば、緊急度1~2は、新人騎士や、怪我などから復帰したばかりの騎士が行くんだそうだ。

「1番から20番が、その新人達さ。訓練も兼ねているからな。心配しなくてもじきに戻ってくる。」


本当にしばらくしたら戻ってきた。

「おい、解体を手伝え。」

何匹か獲物を獲ってきたらしい。

「ほとんどはウク村に置いてきた。魔物の襲来で困っただろうからな。」

ジークがやってきた。

「これから報告だ。全く。自分たちは動かないくせに文句ばかりの貴族どもめ。」

大変そうだね。

ジークがブツブツ言いながら城に向かった後、みんなで解体をした。

「鎧野郎、うまいじゃねえか。」

「僕、初めてなんだけど・・・」

『いや、いつもしていたぜ。』

ヴァイスが教えてくれたけれど、どうも思い出せない。でも手は勝手にどんどん解体して行くんだ。ホラーだね。

 獲物は黒い毛むくじゃらの大きな熊と虎だった。思い出せる熊や虎と違って黒い。そして、大きい。

「少し魔の気が多いから、解体した後で聖水を振りかけるぞ。」

へえ・・・解体する前にはかけばないの?

「解体する前だと毛皮ではじかれちまうだろうが。」

なるほど。

「あとは、魔法使いに血管に聖水を注入してもらうのも方法だぜ。」

ふうん。話をしながらも僕の手は止まらない。

肉の塊にスパスパ分けていく。その後から霧吹きで水をかけているのは、ぼくに幅広の剣を投げてよこしたニールだ。彼は荒っぽいけど、ジークの次に僕のことよく見ている。そしてお節介だ。

「今夜は焼き肉パーティだ。」


解体もあらかた終わった頃不機嫌な顔をしたジークが戻ってきた。

「殿下、またですか?」

「ああ。」

「またって何が?」

宰相という人が、第一王子の伯父とかで、第二王子のジークに何かと当たるんだそうだ。

「おじさんが厳しいってこと?」

「・・・おまえ馬鹿だろ?」

ニールがあきれたように言ったんだが、

「ん?」

「奴ら、健全で強い殿下が皇太子になることを恐れているんだ。」

「え?第1王子が皇太子じゃないの?」

ジークが

「その通り。この話は終わりだ。火の用意はできているのか?」

と言ったので、その後は隊のみんなで焼き肉に盛り上がった。誰かが酒を持ち出して結構な酒盛りになったんだ。そのときに周りの者からこの国のことについて少し聞くことができた。

この前会った王妃がくせ者らしい。その伯父が宰相。宰相が黒幕なんだとか・・よく分からん。で、第1王子はこの王妃の子。ジークは第2妃の子らしい。てか、王様奥さんが二人もいるの?

『おまえの頭はざるか?この前会っただろ!!』

ヴァイスに怒鳴られちゃった。でも、頭の中で怒鳴るのはやめて欲しい。頭がガンガンする。

『おまえにはちょうどいいだろう。』

忘れていたのは仕方がないだろう?毎日何かしらあって、覚えていられないんだから。

『だから前のこともすっぽり忘れたんだな。その鎧とどうにかしたおかげで。』

・・・・・

 思ったよりうまい肉を食べながら、騎士達とおしゃべりを楽しんでいた僕だったが、

「オーリ」

ジークに呼ばれた。ジークの前には肉の他に野菜や果物があったので、それはそれでうれしかったのだが。

「宰相にシア領への出撃を頼まれた。」

「頼まれた?」

「命令されたと言うことでしょう?殿下。」

ちゃっかりニールもよってきた。断りもせず、果物をつまみながらそんなことを言う。

「まあ・・そうとも言うな。」

シア領とは宰相の一族が配置されているのだが、そこからの魔物の出現、隣のウク村への侵攻がひどいらしい。

「宰相が自分でやりゃいいんだ。やつの領地なんだから。」

なるほど。

「人のけつ拭うほどこちとら暇じゃねえっての。」

ニール口悪い・・

「で、明日は緊急度5ですかい?」

「いや。まだしっかり下調べもしなくてはならぬから・・・」

「3の連中に調査依頼ですかい?」

「そうだ。ニール。おまえも来い。」

そう言った後で、しばし考えたジークは、

「・・・オーリ、君もドラゴン様も来てはもらえぬだろうか。」

と言った。なんとなくそうじゃないかなと感じていた僕は

「いいよ。」

すぐ応えることができた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る