第4話 城で

「ああ。私のことは、ジークと呼んでくれてかまわない。」

「ああ。分かった。」

「僕もいいのですか?」

「もちろん。ドラゴン様の従者の方。」

「いや。従者じゃないんですが。僕とヴァイスは友達です。」

そう言ったら王子、ジークは身を乗り出して

「私もその友達の一人に加えてはいただけませんか?」

ヴァイスはその勢いに押されて

「あ・・ああ?」

って疑問?と思ったら、

「ありがとうございます。」

友達認定されちゃったけど、いいの?

『おい。助けろよ。』

『いや・・・がんばって。』


 友達?になったおかげで、僕たちは城に部屋をもらえることになった。とはいえ、騎士団の寮の一角だけどね。

 騎士団の訓練にも参加できるそうだ。鎧のことも、城の魔法使い達や鍛治氏達に研究してもらうって。でも、その場に僕がいなくちゃ研究できないから、それはちょっとね。

城での食事は騎士団の人と同じところで摂るようだ。まあ、王子様達と一緒は荷が重いからね。

「私も騎士団で食べているのだ。」

え?王子がそれでいいの?

「入浴は週に一度だが、シャワーはいつでも使える。」

「ぼくはこれが脱げないので・・・」

「それは難儀なことだ。」

ヴァイス様々だよな。

『そうだろ、そうだろ。敬えよ。』

はいはい・・・


 城に着き、王子は報告に行くというので、ぼくたちは別の人に案内してもらえばいいやと思っていたら、一緒に行くようにって。いや。王様に謁見なんて荷が重いよ。



 王って人は思ったより気さくな人だった。その隣に座っていた王妃の方は何というかな冷たい感じがしたけど。さらに反対の隣には第2王妃だという人がいて、その人はニコニコしていて、ジークはこの人にそっくりだった。王妃の隣には第1王子という人がいたけど、この人もニコニコしていた。でも、何というかな痩せていて、青白い顔していた。病気なのかな。

『この王子はもう長くないな。』

『分かるの?』

『ああ。心臓の病気だ。鼓動が弱々しい。』

『治らないの?』

『難しい。』


「兄上、この客人の腕にいるのはドラゴン様なのです。」

『おいおい・・』

「もしかしたら、病を治す方法をお教え願えるかと思いまして。」

王様は

「それは素晴らしい是非とも・・」

ってうれしそうだった。でも、王妃は苦虫をかみつぶしたみたいな顔をして

「ならぬ。フェルナンドを殺すためやもしれぬ。」

「それはないな。」

ヴァイスがしゃべったのでジーク以外はみんな驚いたようだった。

「俺は食う以外で殺すことはない。」

その言葉を聞いて、王が

「妃がなんと言っても、診ていただきたい。」

なんて言い出した。だけど、

「診ても診なくても、難癖を付けられそうだから嫌だ。」

と言いながら、王妃を尻尾で指すのはやめろ!!

王妃は顔を赤くして怒っているし。

『なに。不興を買うなら出て行くだけさ』

『僕が探しているものを見つけに来たんだろ。それなのに出て行ったら探せないじゃないか。』

ふう・・・

「とりあえず、僕たちはこれで・・・後は皆さんで話し合ってください。」

僕たちが部屋を出るのと一緒にジークも出てきた。

「いいの?」

「ああ。君たちを案内しなくてはいけないからな。」



 騎士団の演習場は広かった。雨が降ったら使えなそうだけど。

「こちらが屋内訓練場だ。」

結構広いけど、アーチ型の明かり取りがあちこち開いていて

「冬は寒そうだね。」

「まあ、寒いなんて感じないくらい動くからね。」


「殿下。」

あ。あのおじさんだ。

「殿下が案内なんて。」

うるさそうな人だな。


 二人が話をしている間に、隊の人達と交流をもった。向こうは模擬剣、こちらは素手。

「っぶないなあ!!」

何人かが続けて打ち込んでくる。最初の一撃でヴァイスは空中に逃げた。ぼくは慌てて顔の覆いを付けた。顔に当たったら痛いだろう。素手で何回か剣を払ったら、こちらからも反撃だ。腕をぶんと振ったら当たった何人かがうめき声を上げて倒れた。おいおい、大げさだな。

 気がついたら周りにいた20人ほどの騎士が倒れていたんだが。これ、ぼくのせい?


 拍手の音がした。覆いをあげるとジーク。

「すごい。」

「あ・・ありがとう。でも、なんとも言えない歓迎だね。」

ヴァイスが舞い降りて僕の腕に巻き付いてきた。

「まあまあだな。左が甘いぞ。」

・・・

「言われてもなあ・・・」

「ま、そのうちに思い出すだろ。」

この模擬戦?がよかったのか、鎧野郎と呼ばれながらも、一緒に食事をしたり騒いだりする仲間になった。何人かにはまだ疑いの目で見られているけれど、人それぞれだと割り切ることにした。


「おい、鎧野郎、背中の大剣は飾りか?一回も使っていないように見えるが。まあ、模擬戦だからな。その剣を下ろして、この剣を使ってみたらどうだ?」

ガチャン、そんな音と共にぼくの目の前に幅の広い剣が突き刺さった。ここの人は危ないことを平気でするんだ。ちゃんとさやに入れたものを渡してくれればいいのに。

よっこいしょと剣をぬく・・・のと一緒に尻餅をついた。

「なにやってんだよ。」

「勢いが付いちゃったんだからしかたないだろ。」

幅の広い剣は切ると言うより

「なんか殴りつけるって感じの剣だね。」

「ああ。重さで相手の手足をぶった切るって感じかな。おまえの背中のもそうなんだろう?」

「いや。僕はこの剣を使ったことは一度もないよ。」

「ああ?何で背負っているんだ?」

「鎧と同じだよ。自分の力じゃ外せないんだ。不便だよ。」

「おまえ、変な苦労をしているんだな。」


・・・・・気を取り直して、受け取った剣を少し振り回してみる。重い。

「僕の趣味には合わなそうだな」

剣をまた地面に突き刺してため息をついたら、

「ってか、おまえ、重いんじゃねえのか?」

まあそうだ・・・鎧が重いってのに、さらに重い剣なんて・・・

「その鎧、まだ脱げねえのか?」

「ああ。」

ため息も出るというものだ。

「何回か城のお偉い魔法使いが見てくれているんだろ。」

「なんだけどね。」

そんなことがあって、でも軽い剣なんてものは当然ここにはないわけで。

「竜に乗るときこんな重い剣を持っていたら嫌がられないの?」

聞いたら、

「竜に乗るときは弓を持っていることが多いんだ。5人組を作っているから、3人は弓、後の二人は剣と決まっている。」

だと教えてくれた。

「なるべく軽くするために鎧もあれさ。」

「ああ。皮。」

「飛竜隊でない奴らは、普通の鎧だぜ。」

「見てないな。」

「奴らは城の反対側で訓練しているからな。」

「そうなんだ?」

とりあえず、刃の潰してある別の幅広の剣を振って打ち合ってはいるけれど、なかなか動きがぎこちない。


「おい・」

「ああ、殿下。」

そこにジークがやってきた。

「オーリ、これを使ってみろ。」

よこされたのは少し細身の美しい剣だった。

「これは?」

「私が成人前に使っていたものだよ。」

「そういえば見覚えがありますね」

振ってみる、と、手にしっくりきた。

「ああこれは使いやすいです。」

「それは君にあげるよ。それから普段はこっちの模擬剣をつかうといい。」

よこされたものもきれいに装飾されていた。すごいな。高そうだ・・・

「これも殿下が昔使っていたものですね。」

周りの騎士達がよってきてしきりに懐かしがっていた。

「殿下、かわいかったもんなあ。」

・・・・・

ジークがにらむとみんな黙った。

「愛されているんだね、ジーク。」

「・・・・・」



 ジークからもらった剣は手にしっくりなじみ動きも一段とよくなった。それと同時に体が勝手に動くような感じになってきたのには驚いた。相手の動きが分かるように体が勝手に動くんだ。

「鎧野郎、おまえすごいな。剣が変わっただけでこれかよ。」

「ちょっとその剣、俺にも貸せよ。」

「やめとけ。殿下に下賜された剣だ。何かあったら責任問題だぞ。」

「おお。こわ・・・」

勝手に周りが盛り上がるけれど、一番驚いているのはぼくだ。

「おまえなら当たり前。」

ってヴァイスが言ってたけど、自覚ないし、覚えてないし・・



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