第3話 出発
ヴァイスの上から見えるのはただただ木の海だった。
『ここはどこなんだ?』
ヴァイスの魔法なんだろう。僕は飛行中のゴウゴウというすごい音をものともせず、彼と話ができた。ヴァイスが言うには心話なんだそうだ。
『ここは樹海と呼ばれているらしいぞ。おまえが前にそう言っていた。』
「へえ。」
口から声を出そうとして咳き込んだ。
『心の中で話せ。感情のだだ漏れだけは勘弁して欲しいがな。』
わかってる・・・よ。
『俺がおまえについて知っているのは・・・・まあ、とりあえず、魔鎧を屈服させた後、人の国に行って、何かを手に入れるということだ。』
『何か?』
『俺は詳しくは知らん。おまえが知っている・・ああ。忘れちまったんだな。だが、きっと思い出せるはずだ』
僕は考える。でも何も浮かんでこないんだ。どうやっても起きているときは離れない背中の大剣のこととか・・脱げないこの鎧のこととか・・・
ややあって遠くに家並みが見えてきた。それと同時に上空を舞うドラゴンも・・・
『ずいぶんたくさんのドラゴンだね。』
と言ったら鼻を鳴らされた。
『ワイバーンだ。』
ん?
『俺はドラゴン。奴らはワイバーン。』
ちょっと意味が分からないんだけど。同じじゃないの?
『とりあえず、下に降りるぞ。』
下に降りるとヴァイスはするりと小さくなって僕の腕に巻き付いた。
『どうしたの?』
『俺の姿はここらにいる奴らと違うから、攻撃されるかも・・。』
かなり嫌そうだね。
『攻撃されたら、やり返すか逃げるかの二択だからな。俺はかなり強いから、やり返したら、たくさん殺すことになる。それはまずい。』
なぜだろう?
『俺は食うこと以外の殺生を禁じられているんだ。』
『だれに?』
『・・・まあ。おいおいな。』
話す気はなさそうだ。僕のこともある程度知っているはずなのに教えてくれないしな。
『来るぞ。俺は飾りだからな。か・ざ・り』
やがてドサドサという何かが落ちるような、降りるような音がたくさんした、と同時に声がした。
「でてこい。」
「逃げられないぞ。」
僕はため息をついた。きっと、飛んできたのを見られたに違いない。
「今行くよ。」
ガサガサという音と共に何人かやってくる。
軽装だな。皮の短甲か。皮の籠手・・頭には簡単な覆いがついている。これも皮か?
『重いとワイバーンが嫌がるんじゃねえか?』
ヴァイスが僕の疑問に答えるように言う。なるほど。
鎧姿の僕を見てかなり警戒しているようだ。
「あー、僕は怪しい者ではありません。」
いや、鎧付けているから、かなり怪しいだろうとは分かっているよ。怪しいやつが怪しくないと言っても分かってもらえないこともね。
槍を構えてじりじりと周りを囲んで徐々に近づいてくる・・・
僕は両手を上に挙げて何も持っていませんよと示しているんだが・・・
彼らの後ろから誰かが近づいてきた。おや。この人はきちんとした鎧と覆いを着けているね。でも、皮に見えるけど。違うのかな?
「槍を下ろせ。」
おや。ありがたいね。面倒なことをするのは嫌なんだ。
「君は?どこの誰で、何をしにこの国にやってきたんだ?さっきは何かに乗っているように見えたのだが、それはどこに行った?」
「あー、こんにちは。」
僕の挨拶に、その人は
「まず、顔を見せろ。」
って。そういう君も見せて欲しいよね。
「僕も顔を見せるから、君も顔を見せてね。」
そう言ったら、近くにいた人が、
「殿下に何を言う。」
って怒ったから、この人、デンカって言う名前なんだぁって思ったよ。
「ふうん。君、デンカって言うの。僕はオーリ。どこからとか聞かないでね。だって、自分が誰で何しているのか全く記憶がないんだから。それに、この鎧はここしか開かないから許してね。」
僕は口元しか下ろせない冑を引き下げようと手を少し動かした。
「動くな!!殿下というのは名前ではない。私はジークフリート。この国の第2王子だ。この飛竜隊を任されている。」
へえ。王子だったのか。ああ。だから殿下か。
「あのね、顔を見せろって言うから、手を動かそうとしただけなんだけど。それにね、僕はこの国に捜し物に来たんだよ。なくした何かがあるはずなんだ。でも、それが何か全く覚えていないんだ。」
「殿下、怪しいですよ。捉えて尋問しましょう。」
「いやね、尋問されても何をされても、何にも覚えていないんだよ。」
そういってるだろ。このおじさん、聞いてるのかねえ。
「手が疲れるから、下ろしていい?」
そう言ったら、そのおじさんがますます怒るんだよね。変なやつ。
「おろしていいぞ。顔も見せられるところまで見せろ。」
王子が言ったのでようやく手を下ろすことができた。ほんと、疲れるんだよ。重いから。
縛られなかったけど、周りを取り囲まれているのは居心地が悪い。
「その鎧は、何のために着ているんだ?」
「いやあ、これ、気がついたら着ていたんだよね。おまけに脱ごうとしても脱げないんだ。」
「脱げない?」
「ああ。」
王子は僕の周りをぐるぐる回って鎧をじっくり見ていた。
「継ぎ目がない。」
「そうなの?」
それは初耳だよ。ヴァイスはそんなことを言ってなかったからね。
「脱がせてみても?」
「脱がせられるなら喜んで脱がせてもらうよ。うっとうしいんだ。」
何人か、手先が器用だという騎士が鎧にとりついてああでもないこうでもないとかちゃかちゃさせたけど、
「殿下。これは無理です。」
「継ぎ目もありませんし。」
「ほう?面白いな。」
そんなことしているうちに、馬車がやってきた。気がつかなかったけど、誰か城にひとっ飛びしたらしい。
「とりあえず、これに乗って城に来てくれ。」
「招待してくれるのか?」
「ああ。その鎧を調べさせて欲しい。」
まあ、なんでもいいや。この鎧が脱げるなら。
王子も一緒に馬車に乗った。危ないとか、危険人物とか、かなり怒っているあのおじさんは、王子が言った
「私がいいと言っているのだ。何か反論があるのか?」
の言葉で黙った。う~ん。王子すごいな。
馬車の中は何故か王子と二人だった。
「僕が怪しくないんですか?」
と、聞いたら
「その腕におあすのは、ドラゴン様ではないかと思ってな。」
おお。鋭い。
「飾りだとは思わなかったんですか?」
ピクリとも動いていなかったと思うんだけどな。
「確かに動いてはいらっしゃらなかった。だが、目にな。」
「目?」
「光があったのだ。」
ヴァイスが身じろぎした。
「おまえなかなか鋭いな。」
王子はさすがにびっくりしたようだ。
「おお。お話もされるんですね。」
「もちろんだ。」
『なんか、ヴァイス、僕と話しているのと言葉も態度も違うんじゃない?』
『うるさいな。ここは格好を付けさせろ。』
はいはい・・・
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