第2話 動きたい。
「飯食うか?」
声と共にヴァイスは器用に、皿を俺の前に置いた。
「オーリの好きな力の実だぜ。」
「どうやって食うんだ?僕は手が動かせないんだぞ。」
・・・・・オーリは目をパチパチとさせて考えているようだった。
「ちっ・・しかたねえな。食わせてやっよ。」
ドラゴンの爪に実を刺して僕の口元に持ってきた。がぶっとかじる。しゃくしゃく・・・・
「うめえだろ。」
「うん。」
「ほれ・・・」
しゃくしゃくしゃく・・・・・皿の上に10個以上あった力の実は全て僕のお腹に消えた・・お腹はまあまあ。でも・・・肉が食いたい・・・これだけじゃ
「水は?」
「もらう」
爪に引っかけたやかんの口を僕の口に近づけてきた・・・・
こぼれる!!!
口の端からこぼれて鎧の中にも・・・
「おい。濡れた・・」
「ああ・・・」
ふわっと温かい風
「俺は、氷と水のドラゴン様なんだが・・・」
「ん?」
「これもおまえのために覚えさせられたんだよな・・・」
・・・気のせいか、目の前にいる白いドラゴンは遠い目をしていた。
「なあ。まだ腹が減っているんだが・・肉はないのか?」
言った途端にぎろりと大きな目でこっちをにらみつけてくるんだが・・・
「何?」
ちょっとびびったのは内緒だ。
「生肉ならあるぞ。」
ドラゴンもにやりと笑うんだな。
「焼いてないの?」
ヴァイスはため息をついた。
「お・れ・は!!」
「俺は?」
「氷と水のドラゴンだっちゅうの!!」
・・・?
「火はふけねえの!!」
・・・
「かまどとか?」
「龍のすみかにかまどがあってたまるか!」
おうふ・・・
「それより、力の実を食ったんだから、ちっとは動けるんじゃねえ?」
僕は動こうとした・・・う・・・う・・・
ピクリともしない僕に、
「まず指からやってみたら?」
と、ごく普通のようなことを言うヴァイス・・・
「おう・・」
指を動かそうとする・・・何度か試した後
「お。」
少し指が動いた。何回も握ろうとしてみる。
・・・
「握れた!!」
僕が叫んだときには周りに誰もいなかった。あれ?
・・っそろそろ用も足したいんだが・・・・
まずいな・・・僕は焦り始めた。
我慢しきれないかも・・・泣きたくなった頃、ヴァイスが戻ってきた。手にはやっぱりさっきの実だ・・
「手はどうだ?」
「ああ。握れるようになったよ。」
「腕は上がるか?」
「・・・まだだな。だが、先に用を足したいんだが・・」
「ちっ、またかよ。」
「食ったら、でるのは当たり前だ。漏らしたら、おまえのすみかが汚れるんだぞ。」
・・・・ドラゴンが嫌そうな顔をするなんてな・・・
ややあって、すっきりした僕は、今度は腕を挙げようと頑張り始めた。手さえ動けば、ある程度はなんとかなるだろう・・・足も動ければ移動もできる・・・
尻が痛くなってきているんだ。重い鎧を着けてすわっている訳だから、尻と、寄りかかっている背中が地味に痛い。この椅子、堅いのか?
「なあ。少し座る姿勢を変えてくれないか?」
「ん?なんで?」
「同じ姿勢をしていると、圧迫されるところが同じだから、痛くなってきたんだ。」
ため息と共にドラゴンが、
「ちっ。おまえと友達でなかったら投げ出してるわ。」
と言いつつ僕を持ち上げ、テーブルの上に寝かせた。
「まて、ここはテーブルの上じゃないか。」
「そうだけど。」
「もう少しなんとかならないのか?」
「とにかく動かす努力をしろ!!」
確かに座っているよりはあちこち動かそうとすることができる。腕を動かす練習を再開だ。と、そこで白龍が腕を持ち上げるのを手伝い始めた。
「・・・。ありがとうよ。」
「しかたない。早く動いてくれないことにはなんにもできねえからな。」
カチャカチャ・・・・・
こんな日を10日くらい過ごした頃だろうか。
ようやく僕はよろよろしながらでも歩けるようになった。力の実とやらを毎日何十個も食べさせられたので、正直他のものが食べたくて仕方なかった。
「木の実のおかげで割と早く動けるようになったな。」
とヴァイスが言うので
「あきあきしたがな。」
と答えたら
「ぜいたくいうんじゃねえ。この辺にはそのまま食えるのはそれしかねえんだ。」
・・・それからさらに10日くらいたつと、なんとか支えなしに歩き、自分の手で物をつかむこともうまくできるようになった。
「魔法はまだ使えねえのかよ。」
一日に何回か用足しを手伝わされているのが嫌になってきたと言うヴァイスがブツブツ言って来る。
「むりだな。わからん。」
「とにかく、さっさと次の試練を探しに行こうぜ。」
ヴァイスの言葉に僕の心が反応した。行かなくちゃ・・・と。・・え?どこに?
「・・・分かった。・・いや・・よく分からないけど、行こう。」
「おいおい、しっかりしてくれよ。」
「仕方がないよ。まだ何も思い出せないんだから。」
晴れた日、僕たちはすみかから飛び立った。
何が待っているんだろう。胸の奥がチリチリ鳴っている。きっと・・・
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