第14話 突然の侵入者
蓮が何を考えているのか、ずっと分からなかったけど、今はさらに意味不明だ。
俺という邪魔者が消えて、自由の身になったのだから、気にせずに幸せになればいいのに。
予想していた通り、話を聞いてからずっと気になるようになってしまった。
まさか俺のせいなのではと、もう一度会うべきかと思う。しかし、今は外出も出来る状況じゃない。こっそり抜け出せるような隙も、さすがにない。
どうしたものか、たぶんこの悩みを誰かに相談しても、考える必要は無いと切り捨てられるだけだろう。俺だって、それぐらい分かっている。分かっているけど、考えることを止められない。
「会えないなら手紙でも書くか?」
謝罪と祝福の手紙でも書けば、向こうの気持ちも楽になるはずだ。それに手紙なら、父や華崎も許可してくれるかもしれない。
そうと決まれば、さっそく机の引き出しを開ける。手紙なんて最近書くことが無かったから、下の下にようやく使いかけのレターセットを見つけた。無かったら用意してもらわなくては行けなかったから、残っていて助かった。
「……何を書くか」
便せんを前に、ペンを持つ俺の手は止まった。手紙を書くことを決めたはいいが、書き始めが難しい。
そのまま考え続けてうなって、ようやく当たり障りのない言葉を思いつく。
「……元気に、しているか?」
口に出しながら書いていく。書き出しが決まれば、今までの悩みが嘘かのように、手が止まらなくなる。そのまま便せんを二枚ほど消費して、手紙を書き終えた。
何度も何度も読み返し、変なところがないのを確認すると、丁寧に折りたたみ封筒に入れた。
「そういえばこれ、どうやって出せばいいんだ?」
封までしっかりとした俺は、ここで今更ながらの疑問をつぶやく。
◇◇◇
華崎に相談して、手紙は責任もって出してもらった。ものすごく渋い顔をしていたから、本当に出してくれるか不安だったが、絶対にと約束したから大丈夫なはずだ。中身を尋ねてきたけど、言えば怒られる気がしてごまかしておいた。
あとは手紙を読んで、蓮が俺の気持ちを察してくれればいい。凛との婚約か、結婚発表を聞ければ、俺も思い残すことは無い。
それから数日、いつこの前の使用人に聞こうかとソワソワしていたが、必要が無くなった。
向こうから、俺を訪ねてきたからだ。しかも非公式に、こっそりと。
妊娠の影響か、眠気に襲われていた俺は、物音が聞こえてきて目を覚ました。
最近、警戒心が強くなった。お腹の子を守ろうと、防衛反応が働いているのだろう。
しかし家の中は安心だと思っていたので、これまでにないぐらいの不安に襲われて、恐怖を感じた。
お腹の前で手を重ね、助けを呼ぼうと息を吸った時、小さな声が聞こえてきた。
「……誰も呼ばないで」
懇願してくる声に、俺はその人物の予想がついた。しかし、一番ここにいるべきじゃないはずだ。
「もしかして……凛、か?」
違って欲しいと願いながら、声をかけた。そうすると、少しの間の後、ゆっくりと現れる。
「久しぶり、はじめ君。元気だった?」
俺の願いは聞き入れられなかった。
視線をそらしながら近づいてきたのは、間違いなく俺のもう一人の幼なじみである凛だった。
どうしてここにいるのだとか、どうやって入ってきたのだとか、聞きたいことは山ほどある。しかし、俺は驚きすぎて声が出なかった。
凛と会うのは、結婚する前以来だから、随分と久しぶりである。
俺の中での凛は、おしとやかで引っ込み思案で、可愛らしいといったイメージだ。
しかし、今目の前にいる彼は、確かに成長したのもあるが、それ以上にまとっている雰囲気が違う。
可愛らしいというよりは、綺麗になっていて、なんというか毒々しい。荒んでいる気もした。
そして目に付くのは、その膨らんだお腹だ。俺よりもさらに大きい。緩い服を着ているのに分かるのだから、とても大きくなっている。
確かに、これだとごまかしきれないか。蓮の子供にしたくても、時期が合わなくなる。無理やりすれば、不倫を追求されるかもしれない。
そうなればDNA鑑定をさせられ、結局誰の子なのかバレる。
思っていたよりも、状況は複雑なようだ。
「……えっと、しばらく会えなくてごめん。体調が悪くて、家からあまり出てないんだ。今は蓮のところにいるんだよな。どうしてここに?」
じっとこちらを見てくるだけの凛に、気まずさが出てきて、話しかけた方が楽だと口を開く。見ているだけならマシだが、俺の気のせいでなければ睨まれている。しかし、その理由が全く分からない。
不明な怒りを向けられるのは怖い。それに今は、守るべき存在もいる。
眠かったから、ベッドに移動していて良かった。毛布がいい感じにお腹を隠してくれている。
凛には、絶対にバレてはいけない。直感でそう思った。
「何しに来たかなんて、はじめ君は心当たりあるでしょ?」
「いや。ちょっと思い当たらなくて」
「手紙。蓮に手紙出したよね」
その手紙がどうしたというのか。二人が幸せになるようにと考えて、俺なりに伝えたのだが。
内容を知っているのはいいとして、手紙の件でどうしてこんなふうに、こっそりと侵入してきたのか。
さらに警戒心が強まって、俺は気づかれないように近くに置いてあるブザーに触れた。
スイッチを押せば、すぐに警報が鳴る。しかし、まだ押すつもりはなかった。
凛の話を、もう少し聞いてから判断しよう。そう考えた。
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