第2話 俺の幼なじみ
俺の名前は
現在二十五歳独身で、親の会社である武内コーポレーションの次期社長という肩書きを持つ。
容姿は、平凡だと自分では思う。
手入れが楽だからと、指でギリギリ挟めるぐらいの短さにしている黒髪。
どちらかというと威圧的に見られることの多いつり目は、コンプレックスでもある。少しでも和らげるために眼鏡をかけているのだが、それが平凡さをより引き立たせていた。
身長は百八十五センチと、高い方ではある。しかしいいことばかりではない。身長のせいで、また威圧感が増しているからだ。
伸びた身長はどうしようもない。そこはもう諦めた。
あとは見苦しくないように、健康に気を遣ってジムに通っているので、体重は平均より少ない。
仕事以外だと人と話すのが得意ではなく、聞き役に回ることが多い。そっちの方が自分には合っていると思うので、よほどのことがない限り自分の意見を言うことない。
家族や近しい人間と接する時は、また違ってくるが。
家のことがなければ、もっと平凡な人生を送っていただろう。
それぐらい、なんの面白みもない人間なのだ。自覚している。
◇◇◇
そんな俺には、幼なじみが二人いる。
蓮沼蓮と小宮山凛。
蓮は俺より5歳下で、凛は俺より7歳下だ。
初めて会ったのは、凛がまだ3歳の時だったから、俺はすでに小学生だった。
すぐ近所に引っ越してきた凛の親が、友達を作ってあげようと、近くに住む子供のいる家を訪ねた。
それが俺と蓮の家だったのだ。
その時のことを、よく覚えている。
先に蓮の家に行って仲良くなっていた二人が、両親に連れられて玄関のところで挨拶していた。
俺は年上だったので、面倒を見て欲しいと頼まれたのだ。
今思うと、たぶん親はもっと前から知り合いだったはずだ。
きっと、いつ子供達を引き合せるか考えていて、それがあの日だったのだろう。
「こ、こんにちはっ」
「こんにちはー」
「えっと……こんにちは」
元気よく挨拶をする二人に、俺は戸惑っていたと思う。
突然仲良くして欲しいと紹介されたのも理由の一つだが、それ以上に二人の容姿が目を引いた。
蓮はやんちゃ盛りといった感じで、顔や体中に絆創膏が貼ってあり、服も動きやすいようにTシャツに短パンだった。
遺伝で元々明るい茶色の髪は、つんつんと尖っていて、同じ色の瞳は好奇心旺盛さを表すように輝いていた。
反対に凛は可愛らしい子だった。
フリルのある服を着ていて、髪も肩にかかるぐらいに伸ばしていた。今にもこぼれ落ちそうなぐらい大きな瞳と、薔薇色に染まった頬、つんと上向いた唇は、誰が見ても庇護欲を誘った。
それは蓮も同じだったようで、俺に挨拶をした後は、ずっと凛のことばかり見ていた。
この時からすでに、蓮は凛のことが好きだったのだ。
どちらも、凄く整った顔立ちをしているな。
子供ながらに、自分は場違いなのではないかと感じたが、大人に頼まれたので二人の面倒を見ることを受け入れた。
◇◇◇
それから、俺達三人は仲良くやってきた。
基本的には誰かの家に集まって、色々な遊びをした。
蓮は外で遊ぶのが好きで、凛は家の中で遊ぶのが好きだった。
俺はどちらの意見も取り入れて、曜日ごとに遊ぶ場所を決めた。しかしいつからか、それ割合が凛の好きな方に増えたのは蓮が望んだからだった。
俺は一人っ子だったので、二人のことを本当の弟のように接した。
二人とも容姿だけでなく、兄のように慕ってくれるところが可愛かったのだ。
それは、成長していっても変わることは無かった。
変わってしまったのは、俺の気持ちだった。
蓮を弟として見られなくなったきっかけは、自分では覚えていない。
ずっとどこかで、その感情は持っていたのかもしれない。しかし、いくら鈍感な俺でも察するぐらいに、蓮は凛に夢中だった。
だから自分さえも気づかないように、気持ちを押し殺していた。
二人の年の差は二歳だけだったので、同じ時期に小学校、中学校、高校と一緒に通えた。
俺はそれを、いつも羨ましく思っていた。
ずるいと思った時も、何度もあった。
俺の中の恋心は隠しきれないぐらいに、年月をかけて大きくなっていた。
いつしか蓮を見るたび胸が騒ぎ、笑っているところを見ると嬉しくて、そばにいると緊張でどうにかなりそうになった。
しかし、蓮は俺のことなんか全く気にしていなかった。
いや、幼なじみとしては仲良くしてくれた。友達としての距離感で、そして兄として慕ってくれた。
その対応に満足出来なかったのは、俺自身だ。
俺だけを見てほしい。
好きになって欲しい。
恋人になりたい。
そんな欲望が顔をのぞかせる。
俺はそれを、必死に気持ちを押し込めた。絶対にバレてはいけないと考えた。
蓮と凛が恋人になったと報告を受けた日に、その気持ちは強くなった。
二人の幸せを願い、そばで見守ることに決めた。
どんなに胸が痛くなろうとも、蓮が幸せならと。
自己犠牲ではない、ただ伝える勇気がなかっただけだ。
兄や幼なじみのふりをして、そばにいる俺はなんと醜かったことか。
そのツケを受けて、ようやく気がついた。
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