嫌悪の切除(瀉血)


 頭からシャワーを浴びる。

 まだ塞ぎきってていない傷から血が垂れる。

 排水口に赤い線の混じる水が流れ続ける。


 まだ塞ぎきっていない傷口にピリッとした痛みがいくつか走る。

 肩から背、指先に至るまで。かさぶたの塞がらぬ穴に水が染みる。

 少しづつ赤い水は少なくなっていく。


「あ、亮ちゃん。ここまた腫れてるよ」

「ん?そうか?どこだ?」


 先に湯船に浸かっている彼女が俺の背中を擦る。

 そこは前に嚙み痕があった肩に近い所。

 滑らかな肌の中で硬く腫れた一か所でジンジンとした感覚が嫌に残る。


「ここ」

「鬱血か?」

「ううん」

「じゃあたぶん膿だな」

「消毒が足りなかったね」


 この晴れは前に時の消毒漏れだろう。

 髭を剃っていたカミソリを石鹼で洗い流しそこに押し当てる。


「ここか?」

「もうちょっと下」


 何度かのやり取り後、晴れの真ん中辺りに当てる。

 カミソリでそこを一直線引く。


「いっ!……て」


 口から少し苦悶の声が漏れる。

 だがこれは自分でやらなければ無駄に深く切ってしまう。

 そこから垂れる血はいつもの嚙み傷よりも多く流れる。

 だが皮のギリギリ下、毛根よりも少し下を切っただけ。

 押さえて居れば直ぐに血は止まるだろう。


 いつの間にか湯船から出た禊が俺のその傷に唇を付け吸う。

 肌の中で膨らんだ余計なモノがもぞもぞと抜けていく感覚が思わず背筋を震わせる。


「気持ちいいの?」

「ああ……」


 皮膚の底で溜まった不浄が傷から抜けていく。

 自分の中が綺麗になる感覚と同時にタトゥーが出来る。

 そこの腫れは引き、また心地いい手触りの良い肌に戻る。


 この内側から綺麗になる感触が堪らない。


「美味しくない……」


 その血を口に含んだ禊は、その血としては薄く不純物の混じる味に顔を顰めるが。


「そりゃそうだろ。汚ねぇ血なんだから」

「むぅ……」

「ほらぺってしなさい、ぺって」


 禊はいやいや手で作った皿の上にそれを吐き出す。

 透明な禊のよだれに混じる赤黒い血。その中でどれとも違う粘性が混じる。

 その血を彼女はその手の指先で遊び始める。


 こねくり回し、指を開く。

 赤くねばねばした糸が、人差し指から親指まで引いている。

 そのままて残ったのはゴム質の小さな塊。膿の塊。


「ほら流すから捨てな」


 俺の持つシャワーでその手を洗い流していく。


 排水口に流れる、粘つくどす黒い血とその塊を見て

 俺は嫌な気持ちになった。

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