第25話 崩れていく

7人も商会の女性従業員に手を出していたことがわかり、

叱りつけられたフランは、バレてしまったのなら仕方ないと開き直り、

もうおとなしくすると約束させられた。


婚約者はまだ14歳になる年で、結婚するまであと4年もある。

さすがに結婚前に手を出すこともできず、フランの欲求はたまるばかりだった。


そんな時、ここ数か月でどんどん資産が減っていた伯爵家から、

屋敷を売ることになったと連絡が来た。

領地に帰ってしまえばアリスとセシルと会うことはできない。

さすがにその前に顔を見に行くかとフランは伯爵家を訪ねることにした。



「わぁ、フラン様!お久しぶりです!」

「会いに来てくれてうれしい!」


可愛らしい双子に両側から抱き着かれ、こうして甘えられるのは悪い気がしない。

経済的に困っているからなのか、

前よりも髪がパサついているように見えるが、それも仕方ないのだろう。


久しぶりに来た伯爵家の屋敷は物がなく、ガランとしていた。


「義母上は?」


「お母様は実家に挨拶に行ったわ。」

「そう。挨拶というか、やっぱり領地に行きたくないから、

 なんとかならないかって相談しに行ったみたい。」


「ふぅん。大変なんだな。」


それだけ経済的に困っているのか。

それを俺の家が助けるのだと思うと、ちょっといい気分だった。

これだけ困っていたら、結婚後は俺の言うことを何でも聞くだろうと。


「ねぇ、フラン様はカジノって知ってる?」

「お金をかけて、大儲けできるんですって!」


「カジノ?行ったことはあるよ?

 儲けたこともある。」


数か月前に一度、学園の同級生に連れて行ってもらったことがあった。

小遣いがあるとはいえ遊び歩いているため残り少なく、

あまり賭けることもできずつまらなかった。

もっと賭けることができたら大儲けできただろうに。


「行ってみたいわ!」

「私も!」


「行っても、掛け金がなきゃ楽しめないよ?」


これだけ金に困っているのだから、行っても意味が無いだろう。

自分のお小遣いも少ないし、連れて行くのは難しい。

そう思って断ったのだが、セシルは何かを持ってきた。


「これ!売られる前に隠していたの!」

「アリスとセシルの宝石!」


見たら、見事なアメジストのネックレスと、サファイアのブローチだった。

確かにこの宝石なら価値がある。

買い取ってもらえれば、それなりに掛け金にもなるだろう。


「いいのか?負けたら取り上げられるだけだぞ?」


「勝てばいいんでしょう?」

「そうよ。お金さえあれば、領地に帰らなくてすむもの。」


「まぁ、そういうなら連れて行くけど…。」


あまり気が乗らないながらも、自分のお金じゃないし、

可愛い双子を連れて遊びに行くのは楽しそうだった。

女っ気のないカジノで、

両腕に美少女を抱えているのを見せびらかすのは愉快だと思った。


二人にせがまれるまま子爵家の馬車に乗せ、カジノへと向かった。





ガラガランと転がるように子爵家の屋敷へと帰ってきたフランに、

報告を受けて駆け付けた子爵夫妻は慌てた。

服は破れ、ボロボロになっていて、両頬は殴られた跡がある。

倒れているフランを抱き起すと、意識はちゃんとあった。


「何があった!!」


「…カジノに行って、大負けして…。

 金を払わなければ…アリスとセシルが売られる…。」


「なんだって!」


「どうしてそんな馬鹿な真似をしたの!」


話を聞きだしてみると、アリスとセシルに頼まれてカジノに連れて行った。

自分は見ているだけだったのだが、アリスとセシルは調子に乗って賭けていた。


ついには大勝負に出て、支払えないほどの借金をしてしまった。

フランは何とか謝って帰してもらおうとしたのだが、

アリスとセシルは無理やり裏に連れていかれてしまった。


必死に頼み込んで支払いは二日待ってくれることになったが、

それ以上は待ってもらえず二人は売られる。

フランが子爵家で商会のものだとわかり、

一応は支払いを待ってくれることになったのだという。


その借金額を聞いて、倒れるかと思った。

二人分の持参金よりもはるかに多い金額だった。

何をどう賭けたらそれほど高額になるのか。


騙されたのかもしれないと思ったが、その場にいなかったのでは何も言えない。

それよりも、子爵家の令息が伯爵家の令嬢を借金のカタにしたのはまずい。

実際に賭けていたのが令嬢だとしても、一緒にいたのだから同罪だ。


上の爵位のものを蔑ろにするのは、内乱罪が適用される恐れがある。

子爵家の爵位取り上げだけは済まない。

夫妻とフランだけでなく、長男家族にも累が及ぶ。


もう商会がやっていけなくなるとしても、

その借金を払うしか手段は残されていなかった。


すぐさま場所を聞いて、子爵が護衛を連れて借金を払いに行く。

カジノの支配人に話をつけて、すぐにアリスとセシルは返してもらえた。

待っている間に何があったのかは聞かないが、純潔であったほうが高値で売れる。

同じ商売人として、損をするような真似はしないだろうと信じるしかなかった。



アリスとセシルをそのまま伯爵家に屋敷に送り届けると、

伯爵夫妻が心配で探しに行こうとしていたところだった。

事情を話し、これ以上の婚約関係を続けるのは難しいことを告げる。


こうなった以上、もう商会はやっていけない。

また一からの出直しとなる。

伯爵家に経済的支援をするような余裕はどこにもなかった。


話を聞いた伯爵は、子爵に深々と頭を下げると、

「もう爵位は返上します。」とだけつぶやいた。

その言葉にもう何も言えなくなり、子爵は屋敷を後にした。



商会はその後、迅速にたたまれ、こじんまりとした店を一軒始めることになった。

そこにはフランはなく、フランは家から追い出され、どこかに消えたという話だった。


真面目な長男夫婦が店を切り盛りし、また小さな商会を作ることになるのだが、

子爵夫妻は爵位を長男に譲り、

フランが戻ってきても受け入れないようにとだけ言い残した。



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