第13話 解術

「で、その変化なんだが…俺には通用していない。」


「え?」


「そういう認識障害系の魔術は自分よりも上の魔術師には効かないんだ。

 だから、俺は最初からシアは銀髪に見えていたし、

 変化で茶髪にしているのも気が付いた。

 そんなの訳ありにしか見えないだろう…

 すぐに保護したほうがいいかと悩んだくらいだ。」


「ご心配おかけして…申し訳ありません。」


あの頃は夜中に出かけるたびに師匠に会ってた。

その度に魔術の使い方がなっていないと注意され、指導を受けていた。

あれは師匠が私を心配してくれていたからなんだ。


まだ小さい子供だった私ににこりともしない師匠は、

普通なら怖く感じてもおかしくなかったけれど、そんな風には思わなかった。

やっぱり師匠は優しいと思っていた自分の感覚は間違っていなかった。

笑顔がなくたって、むけられた視線はいつも優しかった。



「で、だ。

 この魔術師の塔で変化を使っているというのは、

 相手に自分よりも格下だと言っているようなものなんだ。」


「え!そんな!」


でも、そうか。

自分よりも上の魔術師には通じないのに、あえて変化をしているということは、

相手を見下していることになってしまう。

私よりも下だから変化が通じるでしょう、と言ってしまっているようなものだ。


「はっきり言って、魔術師って力の差を示されるの嫌がるんだよね。

 魔術師の塔にもお前より魔力量が少ないやつだっている。

 それでもこれまで磨いてきた魔術師としての腕はお前よりも上だ。」


「それはもちろんです!

 魔術師の塔の魔術師を見下すような考えはありません!」


「…そんなのは知っているよ。シアがそんなこと思うわけないって。

 だけど、向こうから見たらシアは初対面の弟子だ。

 俺が説明したとしても…いい気はしないだろう。」


「…どうしましょう。」


魔術式が無い変化を解く方法なんて知らない。

このまま部屋に引きこもっていればいいのだろうか。

でも師匠が管理人だから、管理人の弟子として挨拶しなきゃいけないと言ってた。


「…何とかできるかもしれないが。」


「本当ですか!どうすればいいですか!?」


「お前よりも魔力量が多い、俺ならなんとかできるかもしれない。」


「お願いします!」


また師匠に迷惑をかけてしまうけれど、こればかりはお願いするしかないと思った。

ここから出ていくことは考えたくない。

まだ師匠と一緒にいたい。教えてもらいたいことがたくさんある。


「…怒らないか?」


「え?」


「俺が何しても、怒らないというなら試してみる。」



師匠を怒る?私が?

言われていることが理解できなくて、つい首をかしげてしまう。

私の答えを待つ師匠は気難しい顔をして悩んでいるように見える。


そんなにひどいことをされるんだろうか…。

だけど、私がひどい目に合うようなことを師匠がするはずがない。

大丈夫、そう信じられた。



「怒りません。何をされても大丈夫です。

 お願いできますか?」


「……わかった。じゃあ、おいで?」


両腕を差し出されて、おいで?ってなに、と思ったけれど、

近くに寄ればいいのかと思って師匠の前に行く。

そのまま軽く抱き上げられ、膝の上に乗せられた。


「えぇ?」


「俺の魔力を流して、力ずくで変化を吹っ飛ばす。

 耐えられなくなったら、やめてって言えよ?」


返事をする間もなく師匠の魔力が身体中に流れ込んでくる。

熱い熱い魔力が身体の中に無理やりに入り込んでくる。

そのまま身体の中心をぐるぐるとかき混ぜられるようにされ、悲鳴をあげそうになる。


「っ…あつぃ…。」


「あぁ、俺の特異属性が火だからか。

 もうちょっと頑張れるか…?」


なにこれ。こんな感じ、したことがない。

ふわふわとした気持ちと、重い何かが沈み込むような気持ち、

矛盾を抱えたままどこにもいけない。


もう無理…と思って止めてもらおうとしたら、その前に師匠の魔力が止まった。


「キツイよな…だが、これじゃ無理か。」


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