第11話 新しい朝

「……ここはどこでしょうか。」


カーテンの隙間からキラキラと光が入り込む可愛らしい部屋で目が覚めて、

ただでさえ寝起きで働かない頭が停止する。

そのままぼんやりしていたらドアの外から呼びかけられ、慌てて返事をする。


「シア、起きたか?」


「起きてます!」


「じゃあ、朝ごはんにするから出ておいで。」


「はいっ。」


そうだった。昨日の夜、家を出て、師匠にお別れを言ったら、

ここに連れてきてもらえて一緒に住むことになったんだ。


身支度を整えて部屋を出ると焼きたてのパンの匂いがした。

キッチンに入ったら、もうテーブルの上には食事が並んでいて、

師匠がスープを置いているところだった。


「おはようございます。

 何もしなくてすみませんっ。

 明日からはちゃんと起きて作ります!」


「あぁ、うん。作れる時だけでいいぞ。

 俺も料理できるし、無理はしなくていい。

 まぁ、お前のほうが飯うまそうだから、

 作れる時は作ってほしいけどな。」


初日から寝坊するなんて怒られるかと思ったのに、

師匠は柔らかく答えただけだった。

いつも通り笑顔はないけれど、ほんの少しだけ口元が緩んだ気がした。

師匠が機嫌良さそうなことに気がついて、ほっとして座る。

 

「寝心地が良くて…寝すぎちゃったんです。

 明日からは私が作りますね。」


「あぁ、寝れたならよかった。

 さぁ、食べるか。」


「はい。」


椅子に座ると目の前に置かれたプレートから、

カリカリに焼けたベーコンのいい匂いがする。


ふわふわのオムレツも、隣に置かれたいんげんのソテーもおいしそう。

スープはトマトとオニオンが入っているのがみえる。

焼きたてのパンの匂いと感じていたのはクロワッサンだった。

一つ手に取って割ると、バターと小麦の匂いがふわんと広がる。

口に入れたらサクサクして、中のほうが少しだけもっちりしていて、

いくらでも食べられそうなほどおいしかった。


「すっごく美味しいです!」


「そうか?お前は細いからな。

 ちゃんといっぱい食べろよ。」


「ふふ。こんなに美味しいのを食べてたら、あっという間に太りそうです。」


「太ってもいいよ。食べたいだけ食べればいい。」


あまりのおいしさに食べ続けていると、師匠がこちらを見ているのに気がついた。

目があったら微笑まれて、驚いて動きが止まってしまう。

少しだけの微笑みだったけれど、師匠が笑うことがあるなんて思わなかった。


「ん?どうした?」


「…いいえ。何でもないです。」


師匠の微笑みに見惚れたなんて言ったら呆れられそうで、

何事もなかったかのように食べ続ける。


オムレツとスープの他にクロワッサンを三個も食べたら、

さすがにお腹いっぱいになった。

お皿を浄化して片付けると、師匠がお茶を淹れてくれた。


「ここでの生活を説明するから、お茶飲みながら話そう。」


「はい。」


師匠が淹れてくれたストレートティーを飲むと、鼻から抜けていく香りがとてもよかった。

良い茶葉を使っているんだと思ったけれど、侯爵家であれば当然かもしれない。

今まで一緒に食事やお茶をすることは無かったけれど、

こうして向かい合ってみれば、マナーの良さに貴族だとすぐに気が付いただろう。


「魔術師の塔に来たからには、挨拶をしに行かなければいけない。

 弟子が挨拶するのは必須ではないのだが、俺はここの管理人だからな。

 俺に何かあれば、お前がその代理となることもありえる。

 魔術師たちも挨拶しておきたいと思うだろう。」


「挨拶回りですね。わかりました。すぐに行きますか?」


「すぐに行きたいのはやまやまなんだが、

 まずは…お前のその変化を解かないと、どこにも連れていけない。」


「……はい?」


私の変化?いったい何のことですか?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る