第10話 私の部屋

塔の中に入ると異空間の中にいろんな階段だけが見えている。

螺旋階段だったり、踊り場があったりで、統一性はない。

その階段の先に部屋の扉がつながっていて、その奥には何もない。


塔の中にみんな住んでいるのだと思ったけれど、違うようだ。

この塔に空間をつなげることが住むということになるのだろう。


「気になるのはわかるが、行くぞ。」


「はいっ。」


空間のあちこちにいろんな魔術が仕掛けられているのを、

新しいおもちゃを与えられたみたいに興奮して見ていたら、

師匠と少し距離が開いていた。


置いていかれないようについていかないと。


師匠のところに追いつくと、手をつながれた。

危ないから離れないようにといわれ、そのままついていく。




「ここだ。」


比較的新しめの木製の大きな扉を開けて中に入る。


師匠の後ろについて中に入ると、そこは貴族の家とは真逆の、

森の中に住む木こりの家のようだった。


すべての家具が木製で、滑らかに磨かれているが色は付けられていない。

素朴だけど使いやすそうなテーブル、いす、食器棚。

奥の部屋には広々としたキッチンが見える。

居間だと思われる部屋の壁は一面が本棚になっていて、

魔術書がぎっしりと並べられている。


「わぁぁぁ。」


「…気に入ったのか?」


「はい!すごく素敵です!

 昔読んだ本に出てきた森の家のようです。

 こういうおうちに住みたいって思ってました!」


「ならいい。今日から、ここがお前の家だ。」


「…ありがとうございます!」


本当にここに住んでいいのかな。

なんだか申し訳ない気持ちでいると、手招きされた。

ついて来いって言っているみたい。


師匠についていくと奥に部屋が二つあり、右側は師匠の部屋だという。


「こっちがお前の部屋だ。開けてみろ。」


ゆっくりとドアノブを回して開けてみると、

部屋の中は同じように木製の家具がそろえられていた。


違うのはカーテンやベッドカバーが水色で白のレースがついている。

可愛らしいソファの上にクッションまで置かれていて、

よく見たら刺繍道具などもそろえてある。


夢のような部屋だった。

もし生まれ変わって、普通の令嬢として生きられるのなら、

こんな部屋で過ごしてみたいと思っていた部屋が目の前に広がる。


本当にこんな場所で師匠と一緒にいても許されるんだろうか。

私なんかが、こんな部屋に住むなんて…。


「…師匠?この部屋…本当に私が使ってもいいんですか?」


「気に入らなかったか?」


「いえ、そうじゃなくて。

 素敵すぎて…私なんかが使ってもいいのかなって。

 誰かの部屋なんじゃないんですか?」


「ここは最初からお前のために用意された部屋だ。」


「え?」


「シアが逃げたいって言ったら、ここに連れてくるつもりだった。

 だから、遠慮しているのなら、そういうのはいらない。

 ここはお前が使わなかったら、永遠に誰も使うことは無い。

 そういうのは、もったいないんだろう?」


私が使わなかったら誰も使わない?永遠に?

こんな素敵な部屋を使わないでおくなんて…もったいない!


「使います!大事に、とっても大事に使います!」


「あぁ、それならいい。

 …とりあえず、今日は寝なさい。

 もうとっくに2時過ぎている。さすがに眠いだろう。

 明日になったらゆっくり話そう。」


「はい。」


「じゃあ、おやすみ。」


師匠はそのまま出ていくのかと思ったら、私をぎゅっと抱き寄せると、

額におやすみのキスをしてから出て行った。


おやすみのキスだなんて…いつぶりだろう。

お母様が亡くなってから、誰にもされていない気がする。


師匠のくちびるが意外にも熱く感じられて、

冷たい印象が今日一日でひっくり返ったと思う。


荷物を置いて、ベッドの中にもぐりこんだら身体が重くて。

思った以上に疲れていたんだと知った。


そのまま目を閉じたらすぐに眠ってしまい、

気がついたらカーテンの隙間から日が差し込んでいた。

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