その178 魔王の勝ち筋

 そうして、いったん帰宅して。

 可愛い配下に、初めての餌やりです。


『もっもっもっもっもっもっもっも』


 すっごく嬉しそうに、トゥインキーを頬張るゴーキちゃん。


『さいこーだな。さすが……究極のジャンクフードだぜぇ……』


 つられて私も、一つ味見します。


「………………むぐむぐ」


 とはいえしょーじき……思ったより油っぽくて、私の口には合いません。

 まあ、珈琲には合いそうだけど。


「ところで、あなた」

『うん?』

「なんか、生まれ立ての割りには、いろいろ知ってますよね? そういう知識って、どこ由来のやつなんです?」


 この子、最初から私を”転生者”だと見抜いていました。

 その知識はいったい、どこから来たのかしら。


『あー、それな。……ぶっちゃけあたしも、似たような感じなんよ』

「えっ?」

『あたしも、“転生者”の一種だってこと。どっかで死んだ人間の魂が、なんとなーくこの身体に宿った感じ。だから、ある程度の知識があるわけ』

「では、どうして私が“転生者”であることに気づいたんですの?」

『それに関しては、……勘』

「勘、ですって?」

『うん。――あたし、スライムだった頃の記憶も、ちょっと残っててさ。その時の行動から推理してみたってわけ』

「へー」

『あんた、ある日突然、キャラ変したっぽかったから、そーなんじゃないかなって思ったんだ』


 そういうことか……ふむ。


『それよりあんた、これからどうするつもりなんだ?』

「え?」

『あんたの目的ってさ……人類を滅ぼすことなんだろ? でもそれってもう、ほぼほぼ不可能じゃねーか?』

「なんでそう思いますの?」

『いや、だって。知らんうち、プレイヤーはめっちゃくちゃ強くなっててさ、人間どもはなんか、ゾンビに順応しちまってて。いまから逆転するの、ほとんど無理ゲーじゃねーか?』


 あー。

 たしかに、言いたいことはわかる。


『レベル100以上のプレイヤーは、さっき殺したザコどもとは違う。とてもじゃないけど、ワンパン即死させるのは無理。……そうだろ?』

「まあ、そうかもしれませんわね」


 実は私、どんな敵が相手でもワンパン即死させる自信があるんですけれど……それについては敢えて、深く語らないこととします。


『だったら、どーする? どーやってこの状況を脱出するつもりだ?』

「……………………」


 私はしばし、押し黙って。


「二つ、考えている策があります」

『えっ。……二つ?』

「ええ」


 “テラリウム”を持ち上げ、ゴーキちゃんと目線を合わせて。

 訝しげな彼女の顔を、じっと観察。


『…………オメー。………………“嘘”ついてるな?』

「はい」

『なんで?』

「三つ目の手段は、――最後の策、だからです」

『……………………なにか、リスクがあるってこと?』

「ええ。だからいまは、“二つの策”のどちらかを進めていきたい」

『……わかった。予備のプランがある上司は、頼りになるよ』

「そう言っていただけるとありがたい」


 ゴーキちゃんも、それ以上は深く聞こうとしません。

 空気の読める相棒、たすかるー。


『それでその、”二つの策”だけれど……どーいうやつ?』

「一つ目はシンプル。王道を征く感じ。”テラリウム”を強化して魔王軍を増やして、順番にプレイヤーのチームを崩壊させていきます」

『それが、こえーんだよな。今から仲間増やして、間に合うか? どっかで暗殺されて終わりな気がする』

「そうですね。だから私、なるべく慎重にやる予定」

『……んで? もう一つの作戦は?』

「誰か……私に賛同してくれるプレイヤーを一人、確保します」

『ふむふむ』

「んで、そいつに、とある”実績報酬”アイテムを獲得してもらいます」


 ちなみにこちら、”魔王”が獲得するのはほとんど無理っぽい”実績報酬”。

 なので、プレイヤーに獲得してもらう必要があるんですね。


『どういうやつ?』

「”超進化促進機チャイルドフッド・エンド”と呼ばれるアイテムです。これは詳細を省きますが、このアイテムを使うと……まあ、いろいろあって、世界は滅びます」

『ふーん。そんな便利なやつがあるのか』

「ええ。――良いゲームというものは、多様な戦略を実行できるもの。いま私たちが行っている、終末世界のゲームは、最後の一瞬まで気が抜けない仕様になっているのですよ」

『へー……』


 すっかり感心した様子の”アクマ族”。

 どうもこの情報は、完璧に初耳だったっぽい。


 ……良かった。

 この子、何でも知ってる系のチートキャラかと思ってました。

 もしそうだった場合、――私、せっかくお友達になったこの子を、殺さなくちゃいけないかもしれなかったから。


『それで……その、”超進化促進機チャイルドフッド・エンド”ってアイテムは、どういう条件で手に入るんだ?』

「条件自体は、シンプルなものです。――レベル150以上になったプレイヤーが、”従属”コマンドを行うこと。そうすることにより、そのプレイヤーは”狂信者の証”と呼ばれる実績を解除します。これにより、”超進化促進機チャイルドフッド・エンド”を取得できる」

『…………ふむ』


 とはいえそれは、並大抵のことではありません。


「”従属”コマンドは、――自分以外の誰かに、生殺与奪の権限を含めた、人生の全てを捧げる誓いです。よっぽどの信頼関係で結ばれた間柄でなくては、実行することはないでしょう」

『――しかも、レベル150以上って……かなり、我が強いやつじゃないと到達できない強さなんじゃないのか?』

「はい」


 だから私は、この二つの策を同時並行して行うつもりでいるのです。


『なるほどな……』


 ゴーキちゃんが、こめかみの辺りに手を当てて、考え込みます。


『なんだかそれなら、絶対不可能って訳じゃない気もしてきた』

「でしょ?」


 賢いこの子が言うのであれば、きっと間違い、ないですわね。



「ところで、ゴーキちゃん」

『なんだ?』

「あなた――さっき、前世の記憶がどうとか、言ってましたわよね?」

『え? うん』

「となると、この世界に、あなたのお知り合いがいたり、とかは……」


 もしそうなら、引き合わせて上げてもよろしくてよ。

 私こう見えて、部下には優しいタイプの”魔王”ですの。


『さあ? 知らんけど。いないんじゃねーか? たぶん』

「あら、そーお?」

『うん。だって、こんなご時世だし。……私、友達とか、ぜんぜんいなかったし』


 そっか。

 で、あるならば――同じですね。私たち。


 私も、友達とかいなかったタイプなので。

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