その175 気楽な殺人

 さて。

 そこで私、ちょっぴり考え込みます。


 まず、どの武器で戦おうかなー。って。


 もちろん、ゴーキちゃんは使えません。

 あの子まだ、最初のご飯も済ませてない状態。

 ゲームで言うところの、HP1の状態ですから。


 って訳で頼れるのは、己が腕前のみ。

 『JKP』における戦闘は、基本的に自動で進行します。

 では、何が勝敗を分けるかというと……事前に装備している、武器の組み合わせだったり。


 そうして、私が決めた武器はというと――、


・奇想天外武器シリーズ ”スカ・コーラ缶”


 と呼ばれるもの。

 一応ここに、購入時の解説文を掲載しておきましょう。



 奇想天外武器シリーズ ”スカ・コーラ缶”


――武器はなぜ、武骨な形状でなければならないのか……。

――もっと、日常に即したデザインの武器があってもいいのではないか。


 『スカ・コーラ缶』は、そんなコンセプトの元に制作された、奇想天外武器シリーズの一つ。

 一見、ごくごく一般的なスカ・コーラ社製のスチール缶に見えるそれは、内部に特殊な機構が備え付けられている。特殊な配分(社外秘)で調合されたコークと、ミント味のチューイング・キャンディを混ぜ合わせることにより発生するエネルギーを利用した、高出力の水圧カッター発生装置だ。その切れ味たるやすさまじく、鋼鉄の塊すら両断可能であるという。


 2050年代に発明された武具を使って戦う”白昼夢の闘争デイドリーマーズ・ストラグル”というゲームにおいては、もっともお手軽に利用された武装として人気を博した。



 こちら……個人的には、結構強めの武器、なんですけれど……。

 あくまで、暗殺用、というか。

 うまいこと使わないと、ハズレちゃう可能性もあるんですよねー。


 まあ、しゃーない。

 私は、嘆息混じりに目線を落として、


「あの……理津子さん?」

「…………何?」

「申し訳ないんですけれど、私、ほとんど無関係な人間なんですの。なのでもう、帰ってもよろしくて?」

「それは…………そういう訳には、いかない。悪人と取引したんだから…………あなたもきっと、悪い人だし」


 なんとまあ。

 その推理、大正解。


「……私たちは。麻薬を、東京から追い出すの。…………そうでなくてもこの街は、色んな問題を抱えてるんだから……」


 うへぇ。

 そんなお堅いこと言ってたら、とてもじゃないけど今後、やってけないですって。

 どうせこの世は、終わるのです。

 死ぬ直前くらい、オクスリでラリってたって、別に構わないじゃありませんか。

 誰にも迷惑かけてないんだから、その人の自由ですよ。


 ……なーんて説得しても、きっと無駄でしょうね。

 彼女ったら、なんだかすごく、真面目そうだし。


「ふーみゅ。それでは、仕方ありませんね」


 そして私、”スカ・コーラ缶”のプルトップに、指を差し込みました。

 喉が渇いたから、ちょっと一杯……そんな感じの手つきです。誰も怪しむ様子はありません。


 その後、小声で、


「リクさん。合図したら、お逃げになって」

「え?」


 その、次の瞬間でした。

 かしゅりと”コーラ缶”を空けて……その飲み口を、理津子さんに向けたのです。


「………………………………?」


 街灯の上に座る彼女が、怪訝な表情を見せました。

 そして、


 しゅ、ご!


 ……という音と共に、その飲み口から飴色の液体が噴出します。

 それは、炭酸飲料のコマーシャルを思わせる、景気の良い画でした。


 けれど、その威力はてきめん。


「………………ご……ふっ」


 目の前の少女の、ちょうど胸の真ん中に、綺麗な空洞が出来上がっています。

 私、それをみて、


「おーっ」


 と、関心しました。


「………………そ……ん、な……」


 暗闇の中、どろりと赤い血を吐き……そして理津子さん、街灯の上から、落下。

 どさりと音を立てて、アスファルトの上に倒れました。


「……………………!」


 目を丸くして、その様子を見守っていたのは、リクさん。

 私は、彼の肩をぽんぽんと叩いて、


「ほらほら。合図。さっさと逃げるんです」

「し……しかし……!」

「急いで急いで」


 この人、鈍いなあ。

 いま、私たちの背後から、ものすごい殺気が迫ってるのに。


 そうして私たちは、東京駅までの道のりを、ダッシュで走り抜けることになったのです。



「ひい………………ひい………………っ! はあ! ちょ、ちょっと待ってくださいまし!」

「お前、偉そうに言うわりには、めちゃくちゃ足、遅いじゃねーか!」


 だって、しょうがないじゃない。

 私、”プレイヤー”じゃないし。そもそも運動、苦手なんですもの。


 そんな言い訳を考えていると……その時。

 私たちの足下に、《火系魔法》が着弾しました。


「う、お!?」


 殺意全開の追っ手が、サバイバルナイフ片手に襲いかかってきています。


「てめえええええええええええええええええええええらあああああああああああああああああ!」


 なんて、鬼みたいな声を発しながら。


(そんな、マジにならないでよ)


 私、渋い表情で唇を尖らせます。

 ってか貴方たち、死んでも蘇生できるんでしょ?


 じゃあ、別にいいじゃないですか。ちょっと仲間が死んだくらい。

 心が狭いなあ。


 私、新しい”スカ・コーラ缶”のプルトップを引いて、敵さんに向かって飲み口を向けます。


「……………………!」


 追いかけてきたのは恐らく、十代の青年でした。

 けれど私、それ以上の関心を向けません。

 どうせこの人も、次の瞬間には死ぬんですから。


 彼ったら、


「………………二度も、同じ手に…………!」


 なんて、ちょっとカッコいいこと、言ってましたけれど。

 結論から言うと、無駄でした。

 私の”スカ・コーラ缶”は必中。


「――ッ!?」


 彼もまた、私の攻撃を受けて死んだのです。

 彼は、死にました。

 

 なのでもう、終わりです。彼はその場に、斃れたのです。


――馬鹿な。確かに躱したはずなのに。


 ……的、びっくり表情を浮かべながら。

 その胸にはさっき、理津子さんの胸にできたのと、ほぼ同じ形状の空洞ができていました。


 私、苦笑します。


「愚かなこと。――最初から、勝ち目なんてないのに」


 っつってね。

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