その169 終末ひきこもり生活

 んで、まー。

 定期的に”実績報酬”を供給する見返りに、私が与えられた待遇は以下のようなものでした。


・建物に、最低一人の用心棒を配置すること。

・おいしいごはんを、たくさんたくさん供給すること。

・”楼主”さんと私は、定期的に打ち合わせすること。

・お出かけ用の原付、自転車の整備、点検。

・面白い映画の記録メディアを見つけたら、優先的に私にプレゼントすること。

・わんこ(トイプー)を一匹。餌、ペットシートなどの定期供給。


 とまあ、ごく一般的な女子高生が求めるものとしては、普通のもの。


 こうして私の生活は、完璧に軌道に乗り始めました。


 あとはまあ、毎日、のんべんだらりと暮らすだけ。

 特筆して語るイベントも……実は、それほどなく。

 私、かーなーり、のんびりした生活を送らせていただきましたの。


 漫画を読んで、映画観て。


 ……ファイナルファンタジーを、シリーズコンプしたりして(Ⅹ派)。

 ついでにドラクエも、全部クリアして(Ⅴ派)。


 んでまー、500日。

 巷で起こった、大きな事件について挙げるなら……。


 ”フェイズ”と呼ばれるモノが、進行した点でしょうか。


 ”フェイズ”というのは……なんと説明すればいいやら。

 ネットゲームやソシャゲで言うところの、大規模アップデート、とでも呼ぶべきシロモノです。


 ご参考までに、”終末”後に発生した”フェイズ1”~”フェイズ2”のアナウンスは、こちら。



――現時刻を以って、フェイズ1を終了します。


――フェイズ1の終了により、スキルが解禁されます。

―― 一部のユニークスキル

―― 一部のジョブスキル


――フェイズの移行により、”敵性生命体”の習性が変異します。

―― 一部の“ゾンビ”の運動能力が向上しました。

――これまで不活性だった“敵性生命体”が活性化します。


――全てのプレイヤーに“クエスト”が提示されました。

――“クエスト”に失敗したプレイヤーは、それまで取得した全てのスキル効果を永久に失います。ご注意ください。


――また、自分以外のプレイヤーを殺すことにより、そのプレイヤーのスキルを“強奪”することが可能になりました。

――恒久的な人外生命体への変身が可能になりました。

――全てのプレイヤーは、実績“フェイズ1終了”を獲得します。



――現時刻を以って、フェイズ2を終了します。


――フェイズ2の終了により、スキルが解禁されます。

―― 一部のユニークスキル

―― 一部のジョブスキル


――フェイズの移行により、”敵性生命体”の習性が変異します。

――”潜伏”状態の”ゾンビ”の活性化。

――各地に散らばっている”ゾンビ”は、ゆっくりと都心へ集結していきます。

――”ゾンビ”は今後、”無限湧き”となります。


――また、全ての”プレイヤー”に”魔力制御”に関するチュートリアルが行われます。

――”魔力制御”により、新たな”スキル”を習得可能。是非、ご活用下さい。


――新たな“クエスト”が提示されます。

――”クエスト”の提示タイミングは、今後一ヶ月間のうちのランダムなタイミングです。

――”フェイズ2”同様、“クエスト”に失敗したプレイヤーは、それまで取得した全てのスキル効果を永久に失います。ご注意ください。


――全てのプレイヤーは、実績“フェイズ2終了”を獲得します。



 ごめんあそばせー!

 言葉の洪水を、ワッと一気に浴びせて、ごめんあそばせー!


 ……まあ、”魔王”である私には、”ゾンビ”も”クエスト”も、”魔力制御”も……あんまり関係ないんですけどね。

 私にとって重要だったポイントは、たった一つ。


――これまで不活性だった“敵性生命体”が活性化します。


 これ。

 これにより私は、”テラリウム”内に、新たなモンスターを産み出す事が可能になったのです。



 と、まあ。

 そんなこんなで、500日目。


――ぴこん♪


 という音と共に、私の”テラリウム”が、起動スタート・アップ


「おっ。きたきた」


 ゲーム生活にも飽きていた私は、大喜びで飼育器をチェックします。


 中ではいま、私の”スライム”くんが、もにゅもにゅもにゅっと蠢いているのが見えました。

 進化が、始まっているのです。


「おっ、おっ、おっ、おっ。…………おほ、おほほほほほほ」


 ワクワクする気持ちを、抑えつつ。


 私が待ち望んでいた変化が、起ころうとしているのでした。

 この時、このために私は……この、初期スライムだけを、ずーっと育て続けてきたのです。


「こい、こい、こいこいこいこい!」


 『JKP』に置ける、ちょっとした裏技の一つ。

 ゲーム内時間で、500日。

 初期スライムを延々と育て続けたプレイヤーが拝める、隠しモンスター。


 その名も……。

 ”アクマ”と呼ばれる種族です。


 やがて、スライムの変化は止まり……人型、三頭身くらいの形で、安定しました。


 単純な人型ではありません。

 お馴染み、矢印型の尻尾に、蝙蝠の羽。

 ちょこんと可愛らしい角が二つ。

 男とも女ともわからない、不思議な肉のカタチ。


「………………………………」

『………………………………』


 そして。

 その、顔……と思しき部位に、ぎょろりと目が浮かんで。


 その子は、むくりと起き上がったのでした。


『おはよう、マイマスター』


 って。

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