その168 ネタバレ:すべてうまくいく
しばし、クソマズコーヒーを呪うように、クリープをたっぷり入れております……と。
「お疲れ」
ふらりと、”楼主”さんが現れました。
(おお……っ)
内心、拍手を送ります。
男のようでもあり、女のようでもある。
この世に、これほど完璧に中性的な人間がいるかしら。
彼のその……美貌たるや、二次元から飛び出してきたとしか思えない容姿でした。
私、彼のキャラ、結構好き。
実際、『JKP』のプレイヤーには、そういう方が多いんじゃないでしょうか?
なにせ”楼主”さん、人類の敵である”魔王”にとっては、数少ない人間の味方キャラクターですので。
彼は、透き通るような青い目で私を見つめて……こう言いました。
「あんた、”魔女”の使い、なんだって?」
「ごめんなさい。それ、嘘です」
率直に言うと彼は、困ったように笑います。
「素直な娘だねぇ? ……でも、プレイヤーではあるんだろ」
「はい」
「《スキル鑑定》にかけてもいい?」
「残念。さっき受付の方にも試されましたが、……私、諸事情により、スキルが見えませんの」
「うん、聞いてる。それでも、自分の目で試したい」
そうして、ただでさえ青い彼の瞳に、鮮やかな青い輝きが産み出されます。
私はそれを、うっとりと眺めながら……「これを抜き取って家に飾ったら、さぞかしSNS映えするだろぉな」と、思いました。
「ふむ。……確かに、何も見えない。なんとも謎な存在だね、あんた」
「いかにも」
私が頷きましたところ、”楼主”さんもようやく、交渉の席に着きます。
「それで? そっちの目的は?」
「世界征服。あなたにはその、支援をお願いしたい」
そう言いますと、”楼主”さんは、眩しいくらい白い歯を見せて、笑いました。
「世界征服。――珍しい趣味じゃないね。若いプレイヤーにありがちだ」
「でしょ?」
「……だがそれを、初対面の”奴隷使い”に言うのは……面白い」
はい。
こう見えて私、おもしれー女なのです。
「具体的にあんた、どういう力がある?」
私、コーヒーカップを弄びながら、このように応えました。
「ひみつです」
「そうかね」
その、次の瞬間です。
おもむろに、”楼主”さんがに席を立ったかと思うと、突如として彼のしなやかな右手が、私の喉元を引っつかんできたではありませんか。
「きゃっ」
悲鳴を上げて、コーヒーをこぼします。
熱を持った液体が彼の胸元を汚しますが、”楼主”さんはこれっぽっちも応えた様子はありません。
すごい……これは……。
壁ドンの……上位互換のやつ……。
壁ハリツケ、とでも命名すべきでしょうか。
「……ふぅむ」
彼は、私のほっぺを引っ張ったり、肩の辺りをぽんぽん叩いたり……平時であれば恐らく、セクハラで訴えられても仕方がないような行為をあれこれ試した後、こう言いました。
「《皮膚強化》なし。《骨強化》もなし。《防御力》系のスキルもないね? ……《格闘技術》を持っているなら、特有の反射行動を行うことが多いが、それもなし」
そして”楼主”さん、ぱっと手を離して。
「見たところあんた、レベル10にもなってないんじゃないか? ……それでどうやって、”世界征服”するってんだい?」
「だから……ひ・み・つ、です」
私は、これっぽっちもペースを乱さず、そう言いました。
「ただ、貴方にとっては、消して悪くない話であるはずですよ」
嘘は言っていません。
私のもたらす”終末”は、考え得る限りとっても優しい終わりであるはずなので。
これを読んでいる皆様もきっと、気に入ってくれるはずですわ。
▼
「かくかく、しかじか」
「…………ふむ」
「かくかくかく。しかじかじか」
「……………………ほう」
”楼主”さんは、その美しい眉間に皺を寄せて、
「さっきからあんた、『かくかくしかじか』って狂ったように連呼してるけど、頭大丈夫?」
「おきになさらず。状況説明を行ったことを示す、省略表現ですので」
「…………?」
彼、しばらく私の顔を覗き込みます。
「……面白い女だね、あんた」
「良く言われますわ」
ところで。
「先ほど説明した話……決して、悪い話ではない。でしょう?」
「………………」
私が持ち出した条件は、
一つ。”楼主”さんは、私を護る。
二つ。私は”楼主”さんに、特別な物資を提供する。
と、まあ、非常にわかりやすい。
「で? その、”特別な物資”ってのは……?」
「”実績報酬”ですわ」
「……やっぱりそれか」
”楼主”さん、うすうす感づいていたみたい。
まあ、彼らプレイヤーとって有用なアイテムと言えば……それしかないですものねぇ。
▼
……と、このタイミングで、”魔王”の持つ能力について少々、補足いたしましょう。
なんと私、”魔王”には、”実績報酬”を自由に購入できる力がございますの。
といってもそれは、とある条件付き。
”テラリウム”で獲得できる、ゲーム内コインを引き換えにする必要があるのです。
なので、何でもかんでも、最強アイテムを自由にゲット! みたいな雰囲気ではなかったり。
とは、いえ。
格安で購入できるアイテムの中に、人類にとってかなり有益なものが一つ、存在しています。
”どくけし”。
ゾンビ毒を除去する、転ばぬ先の杖。
これが人間たちにとって、どれほどの価値をもたらすか……想像するまでもないでしょう?
しかもこいつ、私視点ではほとんどゴミみたいなアイテムであるせいか、タダ同然で購入することが可能だったり。
どれくらい安いかって言うと……こちら、ウンコ掃除一回分の価格なのです。
つまり、1ウンコ=1どくけしということ。
これを……思うまま、提供できるというのですから。
”楼主”さんにとっての私は、超重要人物、ということになりますよね。
と、いうことで。
「…………いいだろう。呑もう。その条件」
そーいうことになりました。
そのようにして私、のんびりスローライフを送る権利を獲得したわけ。
その詳細についてはまた、次回。
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