その166 お引っ越し

 東京駅までは、のんびり歩いて二、三時間ほどの道のりでした。


「うひゃー! いっぱいいるー!」


 自撮りをパシャリ。


 百万匹くらいのゾンビで溢れた、渋谷のスクランブル交差点を観光したりして。

 ゾンビに襲われないって言っても、さすがにあの中に飛び込んでいく気にはなりませんでした。


 んで、まー。

 人混み……いえゾンビ混みを避けつつ、東京駅に到着して、と。


 その辺りはすでに、強力な生存者グループが出来上がっています。

 駅そのものを拠点化した、人類の砦。


 こいつらのちのち、”魔王”勢力と敵対関係になるヤベー奴らなんですけどね。


 超ウルトラすーぱーRTAルートとかなら、この時点で軽く捻ってやるのかも知れないけれど。

 とはいえそれって、ほとんど運ゲー。

 その時の私には、どうしようもない敵でありまして。


 連中の目にとまらないよう、そっと駅近にあるホテル街に潜り込みます。その後、現代編に至るまでの数百日をずーっと過ごす、その街へ。


 ネタバレしてしまいましょうか。

 その街は……それからすぐ、このように呼ばれるようになります。


 ”終末”になってからもずっと、運営が続いている風俗街、と。



 とはいえその頃の街は、びっくりするほど閑散としていました。


 なので拠点も、選びほーだいってかんじ。

 私は、その街の中でもいちばん”王”にふさわしいホテルのVIPルームを選んで……いろいろとまあ、物資を集めていきます。


 ところで、皆様。

 もし街中のものを、自由に取ってこれると決まったらまず、何をしますかしら?


 もちろんまずは、食糧の確保、ですわよね。

 缶詰、レトルト、保存食。とにかく、長持ちするものを中心に、片っ端から。

 この仕事は案外すぐ、解決することができました。

 ホテルの一部屋を、水と保存食でいっぱいにして。

 計算したところ、私一人だけで四、五年は持つ計算。新しい人を受け入れても、三年は持つかな。


 お次は、生活環境の充実、と。

 私の選んだホテルには、お高い家財道具が一式、揃っていたんですけれどね。

 いちおー私、椅子だけは結構、拘り派なので。

 近所の家具屋から、お気に入りのゲーミングチェアを転がして、わざわざ部屋まで運び込んだりして。


 あと、電化製品をいろいろと。

 ホテル内の家電って、微妙に事足りなかったりしますから。

 あ、ちなみに”魔王”は、電気に関する心配は必要ありませんのでお気になさらず。


 その次は、衣装の充実。

 やっぱ”魔王”たるもの、服装にも気を遣いませんとね。

 ふわふわフリルのゴスロリ系と、パンクな黒のレザー系、魔女っぽい黒いスカート、よくわからんピッチリスーツ系……いろいろ迷いましたが、ここはまあ、ピッチリスーツ系で。

 とはいえ普段は、自作したTシャツとか着てるんですけど。胸に大きく、『天上天下唯我独尊』とか書いてるやつ。


 んでんでお次は、娯楽の充実。

 実を言うとこれが、いっちばん苦労しましたわ。

 だって皆様。……いまどき、サブスクのない世の中なんて、想像できます?

 何もかも物理メディアとして保存しなくちゃいけないなんて……面倒臭くて面倒臭くて……んもー! ってかんじ。


 けど、そこに関してはしょうがない。面倒だけど、やるっきゃない。

 地道に集めていくしかありません。


 ……それに、その時の私、他にやるべきこともありませんでしたから。

 ”テラリウム”のお手入れはぶっちゃけ、一日に十数分もあれば済みますし。


 そんなこんなで私は、秋葉原とかそっち系の街へ行っては、映像メディアを片っ端からゲットして、娯楽の充実に専念したのです。


 もちろん、アキバの”王”に目をつけられないよう、細心の注意を払いつつ。

 ……ゲームでもあいつのイベント、すっごく面倒臭かったから。早いうちに対処したい気持ちもあったんですけど……そこに関しては一応、スルー。

 ”王の遺体”の取得は、後回しってことで。閑話休題。



 とまー、そんなこんなで過ごしているうちに……三月は終わり……四月に入っていきました。


 その間の、人類の躍進たるやすさまじく。

 そりゃあもう、怒濤の勢いでゾンビに対抗していきました。


 ゾンビ映画には、二種類のものが存在します。

 人類が勝利する、”希望”の物語。

 人類が敗北する……”絶望”の物語。


 前者は、人類の持つ善性を。後者は、人類の持つ暗愚さをテーマにしていることが多く。


 その点、この物語は……ある意味、希望の物語と言えるのかも知れません。


 『J,K,Project』は、終わりのないソーシャルゲーム。

 つまり、”魔王”である我々には、決して人類を滅ぼすことができないように設計されているのです。


 そう考えるとソシャゲって、とても残酷なコンテンツですわよね。

 絶対に世界を救えない”勇者”。

 絶対に世界を壊せない”魔王”。

 目的を、完全に達成できないことがわかっている物語なのですから。


 とはいえ、主人公側が”敗者”になりにくいのも、ソシャゲのいいところ。

 私、危険な状況下においても、のんびり楽しく暮らしていましたわ。


 ホテル街はその時、とある”奴隷使い”の手で復興が進んでおりました。


 その、”奴隷使い”の名は……不明。性別すら不明。

 ただ、”楼主ろうしゅ”とだけ言われている、金髪碧眼の外国人です。


「さて、さて」


 四月も、末頃でしょうか。

 頃合いを見て私は、ようやく行動を開始しました。


 私が狙っていた、”強力な味方キャラ”。

 彼(彼女? わかんないので”彼”呼びで固定)との協力関係を結ぶために。


 …………………………あ。


 いまのうちネタバレしておくと、ぜんぶうまくいきます。はい。

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