その164 J,K,Project

 私(ルビ振るのが面倒になったので、後は各々、脳内補完してくださいまし)がこの世界にやってきたのは、”終末”が訪れる、ほんの一ヶ月ほど前の出来事でした。




――ハロー、”終末因子”。


――世界を滅ぼしてください。




 なーんて台詞と共に、私は目覚めました。

 ぺたぺた、と。顔を触って。


 夢星最歩ちゃん。


 どうやら、そういう名前の女の子の身体に……転移? 降臨? したみたい。

 すぐさま私、ぴーんと来ました。


――おっとこれが、昨今流行の、異世界転移というやつか。


 ってね(それとももう、ちょっと古いのかしら?)。


 ええ、ええ。

 大して驚きはしませんでしたわ。

 それまでの私って、不幸に不幸が重なって、すーぱー不幸過ぎ人生(意味深)でしたので。

 それくらいの優しい結末が待ち受けていてもおかしくないって、そう思いましたの。


 って訳で、状況確認。

 まず情報収集しなくちゃって、そう思いました。


 見慣れない街。聞き慣れない地名。味の分からないハンバーガー・ショップ。

 マクドナルドってなに? ワクドナルドじゃなくて?

 ライン? ライムはどこに?

 ローソンってなんでしょう? オーソンでは?


 どこかで、見たことがある。

 けれどやっぱり、何かが違う世界。


 私はこの世界について、知識がありました。


――これって、『J,K,Project』の世界では?


 神様ったら、なかなか小憎い演出をなさいます。

 『JKP』は、私にとっての最推しゲーム、なんですもの。


――ってことは、ってことは、ってことは……。


 つまり。

 この私は、選ばれたと言うこと。


 この、お世界のお人類を、お好き勝手してもいいっていう、お権利を!


 ええ、ええ。

 その通りでございます。


 その、瞬間でした。

 私の目的が、確定したのはね。


 私は今日から……この世界で……とある人を、守る。


 ”JKP”の世界における、私の最推しキャラ。

 愛しの、あの御方。


 彼のことを敢えて、”ミスターX”とお呼びしましょう。

 物語には、ちょっとしたミステリーが必要です。

 これくらいなら、いいでしょう?


 私はその……”ミスターX”を救うため、立ちあがったのでございます。



 ってことで、行動開始。


 私のジョブは……もちろん、”魔王”。

 救いがたきこの世界を滅ぼす、ダークヒーローですの。


 とはいえ……その頃の私はまだ、『JKP』のルールに従っていました。

 その時の私の力は、まだまだひよっこ。新人”魔王”でしたから。


 って訳で私、レベルアップに集中することに。


 とはいえお仕事は……とっても簡単でした。

 何もかも……ゲームと一緒、だったんですもの。


「《テラリウム・起動スタート・アップ》!」


 ゲーム起動時の、魔法の一言。


 すると私の目の前に……それはそれは可愛らしい、10センチ四方の、超小型の水槽に似たものが出現します。

 これが、テラリウム。

 一般的には、陸上の動植物を観賞・飼育するための、硝子容器です。


 この中にはいま、とっても可愛らしい生き物が、ちょこちょこと動き回っていました。

 そのサイズは……爪の先ほど。

 バクテリアにも似た、そのぶよぶよの生き物は……”スライム”と呼ばれるもの。


 ”王”の名を冠するものの尖兵。

 原点にして頂点。結果、レベル99にしたら一番強いのはコイツ。

 そんな、ぷよぷよキャラクター。


 これから私は、この可愛らしいスライムで、世界を支配するのです。

 うふふふふ。



 と、まあ。

 一応ここで、ざっくりと『JKP』の遊び方を教えておきましょうか。


 『JKP』は、可愛い可愛い”スライム”くんに餌を与えたり、糞の掃除をしたり、遊んであげたりしながら進行させる、いわゆる育成ゲームと呼ばれるもの。


 ……と、一言で説明するなら簡単ですが、その内容はとってもハードコア。


 まず、『スライムくん』と簡単に説明しましたが、この子は実際、なんにでも変身できる凄い力を持ちます。

 もし私が望むなら、とんでもない美少年を創り出すこともできるでしょうし、映画の中に登場するような、巨大怪獣を産み出す事だってきるのです。


 じゃあ、それをどうやって産み出すかというと……全ては、環境と、餌。

 あと、普段からどういうおしゃべりをするか、どういうアイテムを与えるかも大切です。


 とはいえ、この手のゲームにありがちなことですが……最初から、ありとあらゆる環境や餌、アイテムなんかが使えるわけもなく。


 最初は、弱い”スライム”をたくさん育てて、ゲーム内通貨を稼ぐ必要がありますの。


 どーやってお金を稼ぐかって言いますと……。

 その辺、普通のRPGと感じ。


 プレイヤーである私自身が、いろんな餌を取ってくる訳です。

 ちなみにその際、餌の大きさは問いません。


 テラリウムの中に放り込むと、自動的にサイズが縮小されて、スライムに与えられる仕組みになっているのです。

 なお、与える餌はもちろん、新鮮なものが一番。


 普通のご飯を与えるだけでも成長しますが、戦闘経験を積ませることを考えると、戦わせた方がよっぽどいい。


 そのように成長を促進させると、スライムくんは糞をします。

 その、糞を片付けた、その時。


 ちゃりーん♪


 ……と音を立てて、ゲーム内通貨が確保されるわけ。

 つまり、うんこ=金。

 身も蓋もないことを言うと、そんな感じのゲームなのです。


 なお。

 そのようにしてパワーアップした”スライム”くんを……どのように使うか。


 それに関しては、また今度。


 設定ばっかり一度に説明しないようにするという、私なりの配慮をば。



 ………………………………。

 ………………。

 ………。


 と、まあ。

 それからいろいろあって。


 テラリウムの中ではすでに、バトルが始まっていました。


 男と、女。

 同じく爪の先くらいに縮小された人間が、私の可愛いスライムから、必死に逃げ惑っています。


「そーれ、がんばれ♪ がんばれ♪」


 私、二人を応援しました。

 男の方は、勇敢に。

 女の方は……ただただ、逃げ惑っています。


 けれど、無駄でしたの。

 だってそうでしょ?

 この手のゲームで、最初の一歩目をしくじるようなこと……滅多にありませんものね。


 ぐしゃぐしゃーっと。


 スライムが飛びかかり、まずは男から、次に女をごはんにします。


 するとどうでしょう。

 わたしにしか見えない、スライムくんの”満腹度”ゲージが上昇し、レベルがアップしたのです。


「うん、うん。いいかんじ!」


 ゲーム同様の挙動をするその生き物をにこやかに眺めつつ、作業は次の段階へ。


 上機嫌で部屋を出る……その前に。


「パパとママの命は……”スライム”くんの血となり肉となり。……あと、うんこおかねとなるでしょう。さんきゅー!」


 感謝の言葉を、一言。


 まあ、夢星最歩ちゃんのパパママって、私にとっては知らないおっさんおばさんですものねー。

 しゃーない。


 全ては、そう。

 ミスターXを救うため……っつって。


 そんなかんじー。


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