四章 現在進行中

その163 ”魔王”

 そして。




 ”終末”が訪れて以降、五百日が経った。




 物語は――とある少女の人生に、バトンタッチする。

 彼女の名は、夢星ゆめほし最歩さいほ


 ”魔王”と呼ばれるものだ。



 ……。

 ………………。

 ………………………………。


 っつってね。


 んでまあよーやく、ワタクシの出番ってわけ。

 ゾンビが渋谷に現れてからというもの……あれから、五百日よ? ごひゃくにち。

 いくらなんでも、待たせすぎじゃありませんこと?


 でもまあ、それもしゃーない。


 ワタクシみたいなのにかき回されては、生き残った人類が、可哀想でしょうがありませんし。

 人生の終わりは、遅ければ遅いほど良い。

 これを読んでいる皆様だって、寿命は長い方が、嬉しいでしょう?


 ワタクシの前では、この物語における、ありとあらゆる登場人物が、その他大勢モブと同様。

 どいつもこいつも、ワンパンでジ・エンドなのです。


 うふふふふふふふ。


 その強さと言ったら……もう……もう。

 例えるなら……ふむ。

 そうですわね。


 それでは、まず。

 これを読んでいる皆様。

 ”最強”というワードで思い浮かべる、物語の登場人物。

 ちょっと考えてみてください。

 できれば、貴方がお嫌いなキャラがいいでしょう。

 『コイツが強ぇの納得できねえ』系のキャラクター。


 ……………よろしいですか?

 準備おーけー?


 ワタクシはその、創作上のキャラよりもぉおおおおおお……強い!

 そのように、自負させていただいております!


――それで?


 ん?


――お前、どれくらい強いんだ?


 なになに?


――具体的にどういう力があるのかって、聞いてるんだよ。


 あらあら。まあまあ。お疑いになる。


――決まってるだろ。ポッと出のキャラの分際で。


 ポッと出とは、ご挨拶なこと。

 一応、あっちこっちに伏線を仕込んでおりますのに。


 ……まあ、いいでしょう。


 お答えします。

 ワタクシの強さの根拠は、たった一つ。


 ワタクシはね。

 これを、読んでいる貴方様と、同じ存在。

 の人間だ、ということ!


――現実、世界?


 そのとおり!

 だってだって、そうでございますでしょう?


 創作の世界で、どれほど”最強”ともて囃されている登場人物であっても……。

 現実世界の人間に、一発でもパンチが届くこと、ありますか? ないでしょう?


 もし仮に、指パッチンで世界中の生き物を瞬殺できる力を持つ能力者が存在したとしましょう。


 でも、そいつの能力は、現実世界にいる我々には通用しません。

 なぜか?

 それは文字通り、次元の違う場所にワタクシたちが存在するから!


 むしろ、こっち側からなら、いくらでもパンチが通用します。


 例えば……こう!



 夢星最歩は、すーぱーうるとら最強パンチを繰り出した。


わたくし「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおら」

【嫌いなキャラの名前を入れてね!】「ひえええええええええええええええええええええええええええ全ての能力が無効化されているために一切勝ち目がないいいいいいいいいい夢星さまお許しくださいいいいいいいいいいいい」


 ばかぼこどこずご。そいつは死んだ。

 すいーつおいしい(笑)



 ほらね、通じた!


 ほーらほらほら!

 究極! ぜったい! さいきょう! 無敵!


 と、いうわけで! 証明終了!

 ワタクシさいきょお!


――………………………………。


 いまどういう気持ち?

 ねえいま、どういう気持ち?


――お前みたいなのがいたら、この物語、あっさり終わっちまうんじゃないのか?


 うふふ。


 ワタクシのこと……いいえ。

 ワタクシたちのことを、心配してくださるんですのね。

 優しい御方ですこと。


――別に、心配してるって訳じゃ……。


 照れずとも結構。ご安心下さい。

 ワタクシだって、鬼じゃあありませんの。


 創作の世界の出来事とはいえ、彼らにも命がある。人生がある。

 ”魔王”として、みんなの魂を奪った責任は、あると思っています。


 ですからワタクシ、最後の最後はそりゃあもう、派手に散るつもりですの!

 ハッピーエンドが確約された物語! いやー素晴らしい!

 とても現代的なモチーフだと、思いませんこと?


――ホントかよ……。


 本当ですとも!

 すでに、私をぶっ殺すための布石は張られてますからね!

 ずばっと一発、いつでもどうぞ、って感じ。


 もちろん私にとっては、何の痛痒もないこと。

 仮に、この世界でくたばったとしても、現実世界の私は元気いっぱい!

 次の日にはきっと、あまーいドーナッツをたらふく食べているはず!


――………………。


 あ、ちなみに一応、スーパー最強能力は、しばし封印させて頂いております。

 貴方がご懸念頂いた通り……メタ能力を使いすぎると、いくらなんでも強すぎますからね。


 ゲームというものは一見、公平っぽく見えた方が盛り上がります。

 最終的に正義が勝つと分かっていても、可能な限り悪役ヴィランは足掻くもの。


 無意味に人を殺して、読者のヘイトを稼いだりしてね。



 ってことで、そろそろ……本編の方、スタートいたしましょう。


 どの辺りから、お話しします?

 貴方は、物語のどの辺から、お聞きになりたいのでしょうか?


――そう言われてもな。お前の好きにしろよ。


 ふむ。

 それは、そうですわね。


 夢星最歩ほどの者が、ちょっぴり人の意見を頼りにしてしまいましたわ。


 ではいったん、さらっと起源オリジンを語った後、現代に戻ってくるとしましょうか。


 ……では。

 過去回想、はじめー!


 ぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわ……(効果音)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る