その103 《死人操作Ⅶ》
ここで、神園優希についてすこし、話しておきたい。
優希は、――僕たち”ネイムレス”における紅一点にして、……僕が知る限り最高の、
彼女が高校に入学してきたとき、同級生の間でちょっとした話題になったものだ。
――とんでもない、宝塚系美女が入学してきた。
と。
身長171センチ、体重55キロのすらりとした体付き。スーツなんか着た日にはもう、それだけで有能系キャリアウーマン、といった雰囲気の王子様系女子。
それが、神園優希の第一印象である。
数週間後、彼女が”ネイムレス”への加入を申し出たときは正直、許可を出すべきか渋った覚えがある。
僕が目指していたゲーム・サークルはあくまで、純粋にゲームをやり込もうという集団であった。
彼女がサークル・クラッシャー的な何かになることを恐れたのである。
僕の考えは、――彼女の口から「男には興味がない」という言葉を聞いた後でも、変わらなかった。
雄の劣情は、時と状況を選ばない。必ずいずれ、何らかの形で問題が露わになる。……例えば、大切な大会の前日、とかに。
しかし彼女は、笑みを浮かべながら、こう言ったのだ。
「じゃあ、こーしましょうよ。俺、普段からこうに公言するようにします。……『先光灰里と付き合ってる』って」
と。
今思えば、――なんでそんな申し出を受けたのか、自分でもよくわからない。
あるいは、これほどの美人をモノにしたのが、自分のような冴えない男であるという”設定”に、たまらない魅力を感じたのか……。我ながら、ガキっぽい理由だ。
かくして”ネイムレス”という、僕と優希に、綴里、亮平(補欠)という構成のストリーミング集団ができあがったのだ。
その後は、まあ。
仲間とともにファーストフード店に言ったり、秋葉原のおもちゃ屋を巡ったり、映画を観たり。好きなアニメ・漫画の話で盛り上がったり、徹夜でゲームをやり込んだり。
オタクという人種が望む”青春”を、絵に描いたような日々を送ったものだ。
結局その関係も、僕が高校を卒業するころには破綻してしまったが……。
神園優希に、本物の恋人ができたのである。
結局のところ”ネイムレス”は、当初僕が危惧していたとおりの結末を迎えた。
恋と友情を天秤にかけ、前者を取る。
若者にとっては、実にありがちなことだ。
むろんその程度で、僕たちの絆が消失したわけではないけれど。
いまも僅かに、遺恨は残っている。
▼
それから、一晩経って。
優希と話した後のレベル上げは、あまり効率的とは言えなかった。
とはいえ、……懸命な努力の末、追加で、もう一つだけレベルを上げることに成功している。
――そろそろ、ゾンビを殺すだけでレベルを上げるのは難しくなってきたな……。
そういう、実感があった。
やはり”プレイヤー”も、普通のRPG同様に、どんどんレベルアップの難易度が上がっていくものらしい。
そう考えると、《飢餓耐性》を今のうちに最大まで取れたのは僥倖だったかもしれない。
ああいうスキルは、余裕があるうちに手に入れておいたほうがよい。
――では、取得するスキルを選んで下さい。
――1、《死人操作Ⅶ》
――2、《拠点作成Ⅲ》
――3、《格闘技術(初級)》
――4、《魔法スキル選択へ》
――5、《自然治癒(弱)》
「うーーーーーん…………」
新しい、スキル。
まあ実質、《死人操作Ⅶ》と《拠点作成Ⅲ》の二択なのだが。
いろいろ考えた結果、
――どんどんレベルアップしていけよー。おぬしの力が面白くなるのはこれからで……おっと! これ以上はネタバレだけど! うふふ!
とかいうアリスのセリフを思い出して……《死人操作Ⅶ》を選択する。
”魔女”が太鼓判を押すのだ。決して失策ではあるまい。
『《死人操作Ⅶ》を確認。新たな能力がアンロックされました。
・操作する”ゾンビ”が、魔法系のスキルを使用可能になります。
各ゾンビが使用できる魔法には、個体差があります。
詳細は、ステータスを参照してください。』
ほう。魔法。
魔法というと……あの、ミソラが使う術と似たようなモノだろうか。
詳細はよくわからないが、巧く扱えるかどうかは微妙だ。
バランスが崩壊したタイプのクソゲーでは、魔法系のスキルが全然役に立たなかったりするからな。
試しに各ゾンビの魔法を確認したところ、
カリバゴウキ:《治癒魔法Ⅱ》
マッチョくん:《火系魔法Ⅱ》
ツバキちゃん:《水系魔法Ⅱ》
ミントちゃん:《雷系魔法Ⅰ》
サクラちゃん:《治癒魔法Ⅰ》
名付けた個体の扱える魔法は、こんな感じ。
どうも、扱えるようになる魔法は、完全ランダム……ぽい?
首を傾げつつ、昨夜支配下に置いた個体についても調べておく。
その結果は、以下のようになった。
今夜大活躍した土方のやつ:《火系魔法Ⅰ》
目のほとんど見えていない男:《時空魔法Ⅰ》
足を悪くした老人:《風系魔法Ⅰ》
両腕を失った少女:《治癒魔法Ⅳ》
子供:《謎系魔法Ⅰ》
「んー…………?」
しきりに首を傾げつつ。
あくまでこれは、ゲーマーとしての勘で……まだまだデータが足りていないため、なんとも言えんが。
これひょっとして、損傷の激しい個体の方が、レアな魔法を覚えるのか?
そう思った理由は、いくつかある。
僕がいま、新たに覚えられる魔法はたしか、火系、水系、雷系だ。
これらの魔法、ひょっとするとそれほど珍しい魔法ではないのかもしれない。
時空系、風系、治癒系に、謎系……。
この辺がどこまで”レア”なのかはわからないが、……亮平の情報によると、魔法少女に変身したミソラは、風系と土系の魔法を使うらしい。この二つのスキルが”レア魔法”に分類されるなら、僕の予測は成り立つ。
――サンダーよりもエアロの方が珍しい魔法っぽいのは、FFの影響かな? ……いや、それだとブリザド枠の氷系魔法がないとおかしいか……。
なんて、余計なことに思いを馳せたりして。
今後のゾンビ・ガチャは、その損傷具合も含めて、しっかりと検討する必要があるのかも。
「ああ、くそっ。綺麗な個体ばっかり選べばいい、という訳でもなくなってくる訳か……」
気がつけば、陽が昇り始める時刻になっていたが、まだ眠るわけにはいかないようだ。
一瞬、『な? オモロイじゃろ?』というアリスのドヤ顔が浮かんできた気がしたが癪だが。
せめて、各魔法の効果だけ確認してから、仮眠しよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます