その98 普通じゃないやつ

 声の方向に駆けつけると……そこでは、奇妙な光景が繰り広げられていた。

 六匹の、ゾンビ。

 しかも、普通のじゃあない。

 一匹はなんか、リーダーっぽい雰囲気をまとった奇妙なやつで、そいつに付き従う五匹はみんな、消防車の放水ホースみたいに、口からドス黒い吐瀉物を吐き出しているんだよ。

 明らかに、異常だった。

 まず、人一人の身体の中に、あれだけの量の液体が入っている訳がない。

 じゃああの、五匹のゾンビが吐き出している粘っこい液体は……なに?


「あれは……?」


 ”少女漫画フィルター”ごしにでもカバーできないその忌まわしい光景に、あたしは思わず、眉をひそめる。


「あれは……、飢人……。使っているスキルは恐らく、《水系魔法》が変異したものですね」


 ロボ子ちゃんが、深刻な表情で呟く。


「なにその、って」

「詳細は、私にもよくわかりません。ただ、”プレイヤー”がゾンビになってしまうと、ああいう風になるようです」


 へえ。ロボ子ちゃんって物知りだなぁ。


「よくわかんないんだけどそいつ……強いの?」

「それはまあ、個体差がありますので。戦ってみなければ、ちょっと」

「フーム」


 鼻を鳴らしながら、あたしは進み出る。

 するとロボ子ちゃんが、さっとあたしの盾役になった。


「ミソラ。――例のフォーメーションでいきます」

「ん」


 あたしが答えると、ロボ子ちゃんは音もなく駆けた。

 一瞬、彼女の右腕が銀色に閃いて、グラディウス、――かつて、剣闘士が使ったとされる両刃の剣が産み出される。


「――ッ!」


 背後から、さくっと一撃。それが理想のシナリオだったけど、さすがにそこまで都合の良い展開にはならなかった。

 彼我の距離、5、6メートルくらいでこっち気づいた”飢人”が、


『……ぐ、あ!』


 人差し指を、こちらへ向けたんだ。

 どうも、飢人と残りの五匹は、一心同体で繋がっているみたい。すぐさま残りのゾンビもこちらに振り向いて、黒い血反吐を、ロボ子ちゃん目掛けて吐き出した。


「――《うぉーる》っ」


 もちろんあたしが、それを放っておく訳がないよね。

 ロボ子ちゃん~ゾンビ間に石壁を創り出したあたしは、スキップするような足取りで距離を詰め、


「――《ふぁいぼ》!」


 覚えたての《火系魔法Ⅱ》を使う。

 この魔法、手のひらの上に西瓜くらいの火球を産みだす術みたい。

 結構使い勝手が良くて、ゾンビの群れに投げ込むだけで、ばったばったと敵をやっつけられちゃうんだ。


 ただしこの魔法、一つだけマズい点がある。

 投擲はあくまで、あたし自身の肩力に依存しているってこと。

 いつも命中するとは限らないのが、ちょっぴり使いにくいところなんだよね。


「――よいしょっ!」


 けど、その時のあたしは、絶好調だった。

 ぶん投げたあたしの火球は、ひょっこり顔を出したゾンビの顔面に大命中。

 首から上のない、ほかほかの屍体が一つ、ずでーんと地面にぶっ倒れた。


――ん。でも倒したのは、手下っぽい方か。


 内心、ちょっぴり残念に思いながら、仲間の姿を探す。

 あたしが覚えている魔法の多くは、広範囲に影響を及ぼすものだ。間違っても、ロボ子ちゃんを巻き添えにする訳にはいかなかったからね。


 けれどその時、ロボ子ちゃんの姿は……どこにも見当たらなくなっていた。


――あれあれ?


 首を傾げていると、あたしが造りだした壁の向こうから、ひょっこり彼女が顔を出した。しかものんきに、ひらひらと手を振っている。


「うそっ」


 この状況で、何してるの?

 そう思っていると、彼女の手に”飢人”の生首が握られていることに気づく。


「おおおおっ。まじか」


 あたしは驚いて、仲間に駆け寄る。

 まるで、奇術でも見たかのよう。


 のちのち、ロボ子ちゃんから話を聞いたところによると、……彼女がした動きは、


①《地系魔法Ⅱ》の出現を察知して、咄嗟にそれを足場にする。

②向かい側にあったホームセンターの壁の上に着地。

③敵が《地系魔法Ⅱ》に気を取られているのを良いことに、背後から急襲。

④だいしょーり!


 って感じみたい。

 防御手段として使った《地系魔法Ⅱ》を利用して、敵の意表を突いたのね。

 とてもじゃないけど、あたしには真似できない戦い方だった。


 プレイヤーとしてのスキルの力なんだろうけど、ロボ子ちゃんったらとにかく、度胸がすごいよ。普通、敵の群れがいる方向になんて、自ら向かって行こうとは思わないもの。


「……ひとまずこれで、このホームセンターは安全でしょう」


 ロボ子ちゃん、”飢人”の生首をごろんと転がし、グラディウスでそれを、すぱっと真っ二つにした。


「問題は……このあと、ですが……」


 と、後ろを振り向いて見る。

 そこには、顔色を青くした男の子が一人、壁の上からこちらを見下ろしていた。


「どうします?」


 もちろんあたしは、声をかけることにしたよ。

 人助けをして、経験値を回収。

 それを禁じるルールは、なかったもの。



 ホームセンターを拠点としていたのは、四人の男女。

 宝浄寺早苗さん、空良美春さん、不忍かさねさんという、三人のお姉さんと、……、


「うっす。……おれは……その。メシアっていいます」

「めしあ?」


 キラキラネームかな?


「苗字は?」

「ひみつです」


 ふむ。


「あたしたち一応、恩人なんだけども」

「……でも、兄の敵、なんでしょ」


 あー、そっか。

 苗字から住所を割り出されると思ってるのか。

 しっかりしてるなぁ。


――でもそれだと、……お兄さんの居場所が彼の実家ってこと、言ってるようなものじゃない?


 とは、敢えて言わないようにする。

 それよりもいまは、


「うわあああああああああああああああかわいいいいいいいいいいいいい!」

「なんのコス? ねえそれ、なんのコス? 元ネタなに? キュアロゼッタ、それともキュアサンシャイン? ……あ! ひょっとして、シャイニールミナスとか?」


 そういってまとわりつくかさねさんと早苗さんの対処に忙しいんだけども。


「ええとその……ちょっと私、めしあくんと、おしゃべりしたくて……」

「その服は自作? 髪はいつから伸ばし始めたの? 変身グッズはどれ?」

「髪の毛ふかふかぁあああああああああああああああああああああああああ石けんのにおいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」


 ……。

 …………。

 ……………………。


 それから、十数分後。

 いつの間にかあたしたち、綺麗なおねーさんと可愛いわんことにゃんこに囲まれて、夢の中の出来事みたいなお茶会に参加することになっていた。


 恐るべし、綺麗なおねーさんたちのコミュ力。

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