その96 魔法少女と人助け

 ってわけであたしたち、意気揚々と街へ繰り出したんだ。


「”変身メタモルフォーゼ”」


 しゅるしゅるしゅるしゅる!

 ……とまあ、いっちょう変身して、と。


「大いなる救済の戦士! 魔法少女ミソラちゃん、ここに見参ッ!」


 ”魔法使い”の登場だ。

 幸い、このご時世。レベル上げの相手には困らない。


 『あうあうあ』的なことを言う死人の群れに、片っ端から、


「――《ういんど》!」


 って感じ。

 するとどうなる? 奴らはびゅーんと浮き上がり、十秒ほど空中にいたあと、


――ぐしゃり!


 となるわけよ。

 あとは、満足に動けなくなった連中の頭部を、ロボ子ちゃんがたたき切っていくだけの簡単なお仕事。

 レベルアップしたあたしの《風系魔法Ⅰ》は、格別だった。

 何せもう、”ゾンビ”は敵じゃあない。そういうコスプレをした人たちにしか見えないから、怖くもない。

 殺しても殺しても、これっぽっちも良心が痛まなかった。


「るーっ、るるーるるるー♪」


 なんてちょっぴり、歌ってみたりして。


 もちろん、人助けだってたくさんしたよ。

 二、三時間ぶらぶらしただけでも、


「た、たすけてくれぇー!」


 なんて声は、何度もかけられたからね。

 もちろんあたしたち、正義の味方の役目を果たした。

 あっち行っては《ういんど》、こっち行っては《ういんど》。

 後半になってくると術の扱いにも慣れてきて、うまいことゾンビを頭から落っことすテクニックを身につけ始めたりした。


 そのへんで、逆立ちで死んでいるゾンビを見かけたら、十中八九、あたしの仕業ってかんじ。


「はいはーい♪ それじゃー避難民のみなさんは、駅に向かってねー♪」


 つってね。


 最初は駅のグループの人たちも、目を丸くしてあたしたちを観ていたけど、何度も人々を救ううちに、


「ありがとー! スーパーガールたち!」


 なんて、見物人に手を振られるようになっちゃった。


 いやーやっぱり、良いことをするのは気持ちがいいね! 最高だ。


 みんなの笑顔を観れて、――しかも、レベルまで上がるんだから。

 その日ばかりは、”プレイヤー”になれて良かったと思ったよ。



 時が進んで、夕方。


「ええとぉ……これで、何人目?」

「十二人目、ですね」


 振り向くと、安全地帯へ逃げ込んだ救助者が受け入れられている姿が見える。

 今日だけで、十二人。

 十二の可能性を救ったことを考えれば、自然と気持ちが弾むのだった。


「しかし、――私の倫理回路が混乱しています。果たして、誰も彼もを救ってしまって、良かったのでしょうか?」

「ん? なんでそう思うの?」

「……だって。……その……何人か、ならず者めいた方もいましたよ?」

「ああ、そだね」


 名前はもう……忘れちゃったけど。

 たしか、四度目に助けを求めた人がいた。彼らったら、同行していたお爺さんを一人、殺してたっぽいんだよねー。


「まぁ、いまは状況が状況だし。しょーがないんじゃない? あたしこういうの、なんていうか知ってるよ。”緊急避難”ってやつ」

「……私にはとても、そう見えませんでした。彼らが隠れていたコンビニには、物資が山ほど在る。彼らは恐らく、お年寄りの取り分が惜しくなったのですよ」

「そうかもね」


 素直に、頷く。


「でもまー、事実は誰にもわかんないよ。世を儚んだお爺さんが、自ら命を絶ったのかもしれないしさ」

「………………それ、本気で信じてます?」

「さあ?」


 あたしは笑って、肩をすくめた。

 ロボ子ちゃん、眉間を少し揉んで、


「……考えてみればこういう話題、今のあなたに話すべきじゃありませんでしたね」


 と、ため息を吐く。


「わかってるじゃん」


 自分でも、へらへらと締まりのない笑みを浮かべているがわかる。


「難儀な話です。変身していないあなたは、とても倫理を重んずる方だというのに……」

「えへへへへへ」


 よくわかんないけどいま、褒められたよね?


「話を変えましょう。――ところでいま、レベルはいくつくらいですか?」

「レベル? えーっとぉ」


 ”ウィザード・コミューン”をチェック。

 出てきたステータスは、




 レベル:10

 HP:17

 MP:137

 こうげき:9

 ぼうぎょ:10

 まりょく:111

 すばやさ:18

 こううん:24


 《狂気(中)》《正体隠匿(弱)》《自然治癒(強)》《皮膚強化》《骨強化》《火系魔法Ⅰ、Ⅱ》《水系魔法Ⅰ、Ⅱ》《風系魔法Ⅰ、Ⅱ》《地系魔法Ⅰ、Ⅱ》




 こんな感じだった。

 あたしには、この数字がどういう意味を持つかよくわからないけど、


「うーむ……」


 ロボ子ちゃんには、少し思うところがあったみたい。


「この数字が具体的に、どういう意味を持つかはわかりません。が……ミソラは恐らく、攻撃特化型のキャラクターなのでしょうね」

「ふむ」

「”まりょく”に比べて、”ぼうぎょ”の値がとてつもなく低い。たぶんあなた、一発でも殴られたら死んでしまうのでしょう」

「ふむふむ」

「ミソラ。もし今後、強敵と接触したら、私を盾にしてください。私には防御系のスキルがあるので、一撃で死ぬことはないでしょう」

「……りょーかい。今後は、そういうフォーメーションで戦うってことね」

「はい」


 などなど、事務的(?)なことも話しつつ。


 ふと気づくとあたしたち、今歩いている場所に、見覚えがあることに気づいたんだ。

 ここ、昨夜来たホームセンターの近くだ。

 確か、……”ゾンビ使い”の弟さんがいるんだっけ?


「ありゃ。ふらふらするうち、こんなとこに出ちゃった」

「どうします? 一応、彼らには手を出さない約束ですが」

「もちろん、攻撃はしないよ」


 ここはまあ、……触らぬ神に祟りなし、ってかんじかな?

 そう思っていると、


「た……助けてくれぇえええええええええええええええええええええ!」


 っていう声が、聞こえてきたんだ。


 あたしたち、数秒ほど顔を見合わせる。

 二人の思いは、ほとんど一緒だった。


――罠、かな?


 っていう、ね。


「どうします? なんならいったん、カナデに連絡して……」

「そんな時間はない。行こう」


 あたしは、あっさりと決断した。


「もしそれで、あたしたちが傷ついたとしても……、困っている人を助けられないよりは、よっぽどマシだよ」


 心の底から、そう思えたから。

 ロボ子ちゃん、なんだか渋い顔をして、


「やれやれ。……これでもし、私が破損するようなことになったら……恨みますよ」


 ぼやきつつも、前へ出る。

 なんだかんだでワガママを聞いてくれるから、好きだな。この子。


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