その5 ユニークスキル
『ヨッシャ。そんじゃ、教えたろう』
「頼むよ」
『おぬしに授けるユニークスキルはこれ! ――ぴかぴかー!』
アリスが『ドラ●もん』の効果音と共に取り出したのは、一本のUSBフラッシュメモリだ。
それそのものは特別なものではなく、メーカーはソニー。電気屋に行けばどこでも手に入る量産品である。
『おぬしの能力はーっ……。名付けて、……《死人操作》―っ!』
「……しびと、そうさ?」
首を傾げていると、頭の中の声の方の”アリス”が答えた。
――《死人操作Ⅰ》は、特殊なデバイスを利用することで”ゾンビ”を操作することが可能になるスキルです。
こめかみを、とんとんと叩く。
ゾンビを……操作する、か。
『そうとも。本来は”死霊術師”が持ってるジョブ・スキルなんじゃがな。今回はちょいとばかり、おぬし専用に調整しておいた。だから正確には《死人操作(特別仕様)》って感じ? ……あ、いくら既存のものの改良といっても、決して手抜きって訳じゃないぞ。ユニークスキルってのは基本、そういうコンセプトじゃからのー』
「…………」
なんか、急に早口になったな。推しのアニメの話が出たオタクみたいに。
彼女の話す用語のほとんどは理解できなかったが、とりあえず言葉そのものは丸暗記しておく。後々この情報が役に立つかも知れないからな。生来、そういうことは得意中の得意だ。
『とりあえずこれの中身を、パソコンにインストールしろ。でなきゃ始まらん』
「インストールと言ったって、――パソコンならなんでもいいのか?」
『うん』
「そうは言っても、電源の問題がある」
『そこまでは知らん。自力でなんとかしろ』
「ふむ……」
我が家には立派な太陽光発電システムが導入されているのだが、これは日によっては十分な電力を確保できない。
もちろん僕だって、ある日突然世界が”ゾンビ”まみれになるとわかっていれば予め蓄電池に十分な電気を溜め込んでいたのだが、残念ながら今はそれほど潤沢なエネルギーがあるわけではなかった。
「わかった。それはこちらでなんとかしよう。……ところで、インストールするパソコンのスペックは?」
『すぺっく?』
「性能のことだ」
『ええと……どうじゃろ。うーん。たぶんなんでもいいんじゃないか?』
ホントかよ。
「君だって、
『そりゃそーじゃけども。……儂、こーいうのはあんまり詳しくないし』
僕は、少し大袈裟にため息を吐いて、
「良い仕事をするには、良い道具が必要だ。弘法筆を選ばずと言うが、アレは真っ赤な嘘だったというぜ。一流ほど繊細な差異に気付くものだ」
我ながら、神みたいな力を持つ相手に強気に出られたものだ。
弟が噛まれて帰ってきたあの日から、少々ヤケクソになっているのかもしれない。
アリスは、ちょっとだけたじたじになって、
『まあでも、万が一気に入らなかったら他のPCにインストールし直せばいいはずじゃし』
「だとしても、だ。パソコンには相性というものがある。もし、君からもらったソフトの関係で何らかの不具合が起こった場合、ちゃんと保障はしてくれるんだろうね」
『……おぬし』
流石に気分を害したらしい。アリスが眉をしかめる。
『ずうずうしい奴だな。言っとくが儂、こんなに”プレイヤー”と話すこと、ないんじゃぞ』
「
真っ直ぐに彼女を見据えると、唇を尖らせて、親指をもじもじと弄んだ。
そうしていると彼女、普通の女の子のようにも見える。
『まあ。そりゃこっちも、そうしてほしいところ、なんじゃが』
「ならば……そうだな」
僕はその時、咄嗟に思いついたフリをしつつ、
「こういうのはどうかな? ……君との連絡手段を教えてくれないだろうか。もし何か問題が起こった時、またいつでも会えるように」
『ふぅむ……』
アリスはちょっぴり考え事をして、
『すまんが……、連絡先は教えられん。アンチのイタズラ電話とか、怖いし』
アイドルか何かか、こいつ。
『だが、……そうだな。今後から時々、おぬしの家にお邪魔することにする。それでいいか?』
「別に構わんが、急に来られても困る。掃除とか、お茶の準備とかしなくちゃ」
『儂、そんなの気にしないけど』
「僕が気にするんだよ」
『……じゃ、前日に手紙送るわ』
「よし」
内心、ガッツポーズ。
これで、この娘を始末するチャンスが増えるかも知れない。
結局のところ、彼女がこのゾンビ騒ぎの元凶である可能性は高いからね。殺してしまうに越したことはない。そう思えたんだ。
それに、もしそれが不可能だったとしても、彼女は貴重な情報源になる。
「では、……そうだな。とりあえず、ノートPCをとってくる。たぶん弟のやつの充電が残っていたはずだ」
命を救ってやったのだ。
PCくらい、喜んで譲ってくれるだろうと信じている。
『よし。案内しろ』
その時、ついでに段ボールの中で眠る弟の表情を確認する。
見たところ、その寝顔は幸せそうだ。しばらくは放っておいても大丈夫だろう。
少しだけ安堵して、僕は弟の部屋がある、――二階へと向かった。
……と、そこで、アリスが用心深く、僕の後ろに着いていることに気付く。
流石に、二度も刺されるのはゴメンらしい。
「そんなに警戒しなくてもいいじゃないか」
僕は朗らかに笑って、
「さすがにもう、君を傷つけたりしないさ」
嘘を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます