最終話

「なにかあったのかな?」


「漫画道具は全て置いてあるからトイレあたりだろう」


 2人の行動に意味を求めた所で分からないので、適当な理由をつけてスマホを見る。


 すると、3時ごろに南野さんから電話があったという通知が残っていた。


「俺が学校に行っていることは知っているだろうに。何かあったのか?」


「打ち切りとか?」


「なわけないだろ。アンケートの結果は全く悪くないだろ」


 なんなら最近調子が良いまであるが。


「とりあえずかけてみなよ」


「だな」


 俺は南野さんに電話を掛けた。



『もしもし、南野です』


「こんにちは、剛です。そろそろ電話帳に名前を登録してください」


『わりいわりい、登録しとくよ。で、折り返しありがとな』


「いえ。授業中に電話をかけてくるって何かあったんですか?」


『ああ、重大なお知らせがあるんだ。周囲に誰も居ないか?』


「幸村が居ます」


『幸村か。それなら問題無いな』


「重大なお知らせとは?」


『一番重大な知らせは剛の漫画のドラマ化が決定したことだ』


「本当ですか!?!?」


『ああ、実はキャスティングも始まっていてな。既に何人かのキャラは決まっている状態だ』


「どうして早めに言ってくれなかったんですか」


 ってことは結構前にドラマ化が決定したって事じゃないか。


『それはな、そこに居る幸村に頼まれたんだよ』


「幸村?何が関係あるんですか?」


 いくら幸村が初期からアシスタントをしてくれているとはいっても、ドラマ化を作者より先に知るのはどういうことなんだ。


『聞いてみれば分かる』


「幸村、お前ドラマ化するのを事前に知っていたのか?」


「え?アレのドラマ化が決定したの!?!?」


「ああ、今報告を受けた。で南野さん、幸村は何も知らないようですが」


 幸村はこういう所で嘘を付けるほど嘘が上手い奴ではないので、どう考えてもこいつは何も知らない。


『そりゃあドラマ化を幸村にも伝えていないものな。ちょっとスピーカーにしてくれ』


「?はい」


 俺は言われた通りにマイクをスピーカーに変更した。


『幸村、お前らの望み通りの結果になったぞ』


「本当ですか!?良かった……」


 南野さんの言葉を聞いた幸村はほっと胸をなでおろしている様子だった。


「どういうことだ?」


 全く事情が掴めない。この二人の間に何が起こっていたんだ。


「えっと、実は南野さんにもしドラマ化が決定したら何も言わずに進めておいてくださいってお願いしてたんだ」


「俺が断る可能性もあるだろ。ドラマ化だぞ?」


 アニメ化と違って、漫画やラノベのドラマ化は大事故を起こしやすい傾向にある。


 演技が上手い下手というのも要因ではあるが、何より空想上のキャラクターと人間の顔や髪色が違いすぎるからな。


 いくら容姿が整っていてもでもピンクとか黄色が似合うかどうかは別問題なのである。


「剛くんの漫画に出てくるキャラクターって基本的に現実的な髪色だし、ファンタジー設定ってわけでもないんだから事故りにくいから断る理由なんて無いでしょ」


「それはそうだが。でも何のために俺に黙って計画を進めさせたんだ?」


 結局いずればれる話な上、作者に隠すデメリットなんて皆無だろう。


「椎名さんがそうしたかったからだよ」


「美琴?」


 ここで美琴が出てくる意味なんてあったか?



「剛くんの指名とか関係なく自力で役を勝ち取りたかったんだって」


「なるほど。で美琴は無事に役を勝ち取ったと。ちなみに美琴は誰役なんですか?」


 やっぱり最初に登場させた奴か?それとも最近人気だった王子と不良が混ざった例の奴か?それとも王道の生徒会長か……


『主人公だぞ』


「は????」


 主人公に迫る美琴モチーフのキャラクターたちではなく、主人公本人!?!?!?!?


『当然だろ。女性が男役に抜擢されるわけ無いだろ』


「いや、美琴はカッコいいじゃないですか」


『確かにカッコいい。しかし、あの漫画の男役に出して違和感なくストーリーが進むわけがないだろ。どうみても女ではあるんだから』


「それもそうですが……」


 いくら美琴がカッコよくても男にしか見えないなんてことは無い。どう見ても女性だ。


 それなのに男役を割り当てられたら主人公も話のコンセプトも変わってしまう。


 かといって主人公役に抜擢されるものなのか……?


『とにかく、主人公に決まったんだ。祝ってやれよ』


「そうですね」


『じゃあこれから打ち合わせがあるからまたな』


「はい」


 そう言って南野さんは通話を切った。



「やあ、良い報告でもあったかい?」


「その様子だとドラマ化でも決まったのではないかな」


 通話を切ってから間もなくして、外に出ていた二人が戻ってきた。


「聞いていたんですか?」


 ピンポイントに正解を当てられてしまったので、思わず二人に聞いてしまった。


「「聞いてないよ」」


「なら何故?」



「漫画を見れば大体分かるさ。ね、絵夢」


「勿論」


「作者が知らないのに分かるんですか?」


「「当然だよ」」


「やっぱりあなた方も超能力者の部類じゃないですか……」


 それが分かってかくかくしかじかが理解できないのは可笑しいだろ。


「で、どうするんだい?美琴君に報告に行くかい?それともここで漫画を描くかい?」


「とりあえず漫画は描きます。締め切りを逃すわけにはいかないので」


 結局その日は漫画を描き続けることにした。



 その日の夜、美琴から主人公役に抜擢されたという連絡が届き、ドラマが始まる時期になったらそちらに専念するため、演劇をお休みするという報告を受けた。




 それから2か月後、ドラマが始まる事が大々的に公表され、キャストも同時に発表された。


 演劇出身の女優が主人公役に抜擢されたことに少々困惑の声は上がっていたが、MIUが今在籍している劇団でメインを張っている事を知られてからは好意的な声に変わっていた。


 そして更に1月後、本格的にドラマの撮影が始まった。



「どうしたの?皆鳩が豆鉄砲食らったような顔して。私に何か付いてる?」


 そうなると当然、今までの王子キャラが掻き消えてヒメざかり主人公みたいなキャラになるわけで。


「何があったの?」


「女の子みたいだよ?」


「相変わらず顔はカッコいいけど……」


「調子狂うなあ」


「壁ドンは……?百合展開は……?」


 クラスメイトはただの女の子と化した美琴に困惑していた。


「別に、いつも通りに過ごしているだけだけど?皆こそどうかしたの?」


「「「絶対にいつも通りじゃない」」」




「なあ幸村」


「なに、剛くん」


「改めて見ると凄く恥ずかしいな」


 俺はそんな光景を見て若干恥ずかしい気持ちになっていた。


 中二病の時に書いていた黒歴史ノートを読まれている気分である。書いたことは無いが。


「でもアレって……」


「それでもだ。あくまで恥ずかしいってのは気分の問題なんだからな」


「そんなものなんだ」


「そういうものだ」


「で、事態の収拾はどうするつもり?」


「俺は知らん。アレの対処が出来るのは美琴が演じていたキャラ達だけだ」


「いや、剛くんも出来るでしょ」


「無理だ。俺が死ぬ」


「あのさあ……」



「明日からドラマだから見てね!」


「うん、美琴ちゃんの雄姿、しっかり目に焼き付けるね!」


「応援してる!!」



「人って慣れるものだね」


「まあ、若干のキャラ変で耐性が付いていたのもあるだろうけどな」


 そんな突然のキャラ変が起こっても人というのは慣れる生き物だ。放送直前になった頃には誰も違和感を覚えている人は居なかった。


「で、ドラマはもう見たの?」


「いや、見てない。当日美琴と二人で見る予定だ」


「そうなんだ。気になりすぎてさっさと見たと思ってた」


「美琴が当日まで見るなって言っていたからな」


「なるほどね」


「だから見たければ勝手に持って行っても良いぞ」


「う~ん。やめとく。僕も皆とリアルタイムで見る予定だから」


「皆と?」


「うん。雨宮さんと凪咲ちゃんと僕の3人で見る予定なんだ」


「女子会だな」


「違うけど。僕男なんだけど」


「そうだったか?」


「そうだよ。どこに目付いてるのさ」


「顔だが。というか目で見たら女だと大体勘違いされるぞ」


「そんなわけないでしょ!」


「すまんすまん。で、当日は仕事場には来ないでくれると助かる」


「分かってるよ。その日は雨宮さんの家で見る予定だから」


「なら良かった」






 そしてドラマ放送当日、俺と美琴は仕事部屋に集合してテレビの前で待っていた。


「楽しみだね、剛くん」


「楽しみだな」


「うん」


「なあ美琴、自分が出演したんだから内容は全て知っているんじゃないか?」


「いや、そんなことはないよ。演劇と違って遠しで演技をしないから、自身が関係ない部分は全く分からないよ。台本は読んだけどね」


「なるほどな。今演じていてどうだ?楽しいか?」


「嬉しいけど、楽しいかどうかで言うと微妙かも」


「だろうな。なにせ主人公は——」


「ねえ、始まるよ!」


「ああ、そうだな」



 2人で見た『ヒメざかり!』第一話は少々むず痒かったが、それがとても心地よかった。

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俺の美人な幼馴染が定期的にキャラ変をしてくるんだが。 僧侶A @souryoA

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