第14話

「先生、どうしたんですか?」


 昼休み、メールで呼び出された雨森が教室にやってきた。別に直接呼びに行ったところで雨宮は気にしないだろうが、先輩男子二人に呼び出されたらクラスメイトと面倒なことになるのは漫画にも載っているレベルで明白だからな。


 まあ教室に美少女が訪れたことで俺たちは後で男子に問い詰められるだろうが。


 だから人の居ない放課後に呼び出したかったが、それでは美琴のキャラを観察できない可能性があるからな。


「急に呼び出してすまんな」


「いえ、別に問題はありませんよ。何かあったんですよね?」


「ああ、分かっているのなら話が早い。アレを見てくれ」


 俺は女子と飯を食っている美琴を指差す。


「ほら、ちゃんと口を開けないと食べ物が入らないよ」


「は、はいい……」


「私も私も!」


「はいはい、分かっているから」


 美琴は女子たちに頼まれたのか、自分から始めたのかは分からないが、女子たちの口に食べ物を乱雑に放り込んでいる。


 あーんするのは良い事だが、胸倉をつかんで引き寄せるのはちょっと違うだろ。


「美琴さんの新キャラですか?」


「ああ。アレを漫画に投入するとした場合、どう思う?」


「そうですね。凄く良いと思いますよ。私は面白いと思いますし、他のファンの皆さんも恐らく好きになると思います」


「お前もか……」


 俺の漫画を支える最強のブレーンすらそっち側に行ってしまったのか……


「もしかして次回あたりから登場させるんですか?」


「検討中だ……」


 そんなにキラキラした眼で見られたらそう言う以外無いだろうが……


「楽しみにしていますね!!!」


「お、おう。楽しみにしといてくれ」


 そのまま雨宮は笑顔で教室から出て行った。


「ほら言ったじゃん」


 幸村は今さっきまでの話がさも当然であるかのように語っていた。


「そんなわけが無い。でも、ここまで人気なら……」


「そこまで出したくないなら新しいのを出さなきゃ良いんじゃない?」


「それだけは出来ない。新キャラを出す事自体は確定なんだ」


 俺の信条としては出したくない。しかし、このままだと新キャラが出るのが半年後とかになてしまう。


 ここはいっそ王子要素だけ抜いて不良だけで押していくか……?


 いや、それではキャラが薄くなってしまう。ただの不良はあの漫画の中ではただのモブ以下に成り下がる。


 それでは現時点の目標であるアニメ化から遠のいてしまう。


 あと一歩、あと一歩上に行ければ視野に入ってくるというラインにまで来てそれは痛い。


「じゃあ自分で考えたら良いんじゃない?」


「そうしたいのは山々だが、多分今男キャラを作るとアレになる」


 美琴を参考にキャラを作ってきた弊害で、無意識に現在の美琴を反映させてしまうのだ。


 実際に脱美琴を掲げてキャラ作りをしてみたのだが、見事に全キャラ丸被りで南野さんにこの間のキャラと同じじゃねえかと全部没にされたんだよな。


「あー……」


 納得したかのように頷く幸村。思い当たる節があったらしい。


「とりあえず今は考えるのをやめたい。飯を食うぞ」


「そうだね」


 全ては飯が解決すると願って俺は弁当を開いた。


「なあなあ、あの子とは一体どんな関係だよ?あっこれうめえな」


 卵焼きを取ろうとしたら背後からやってきた男に奪われてしまった。


「おい、勝手に人の弁当を食うんじゃない。海翔」


 その男の正体は東条海翔。クラスで一番カッコいい男子だ。


 まあ一番カッコいいのは美琴なんだがな。


「わりいわりい、お前の弁当が美味いからつい。これやるから許してくれ」


 大して悪いとも思っていない表情で海翔は俺に飲み物の方のヨーグルトを渡してきた。


「食べ物と飲み物を等価交換するな」


「でも好きだろ?」


「ああ、許す」


 飲み物はヨーグルトこそ至高。程よい甘さと酸味が交わりあって世界一美味しいのだ。


 牛から出た液体をそのまま飲むのではなく、一度ヨーグルトという半固形物に加工した後再び液体にしようと考えた天才には敬意を表したい。


「で、さっきの女の子は誰だよ。すっげえ可愛かったじゃん。どんな関係なんだ?」


「それなら幸村が良く知ってるぞ。説明してやってくれ」


「え?僕!?」


「ああ。俺よりも仲が良いからな」


「ほうほう、幸村ちゃん。教えてくれや」


「ちゃん呼びはやめてっていつも言ってるじゃん。まあいいや、僕が説明するよ。あの子は雨宮沙希さん。1年生の子だよ」


「なるほど、1年生か!でもテニス部ってわけじゃなさそうだよな。肌白かったし」


「どこ見てるんだよ。変態か」


 真っ先に肌の白さを見るってなんだよ。


「当然だろ?肌見りゃそいつがどんなスポーツやってる子なのかとかどんな性格なのかとか分かるからな」


「うん、変態だな。幸村、サッカー部の顧問って誰だったか」


 普通肌の白さで人の性格ややっているスポーツを見極められるわけが無い。これは犯罪だ。


「えっと、確か佐藤だった気がする」


「よし、こいつを運んで連れていくぞ」


「うん」


 俺が足の方を掴み、幸村が腕を掴む。


「ちょっとまて!別にスポーツやってたら普通に習得するだろ!」


 しかし往生際の悪い海翔はじたばたと暴れて振りほどいた。


「幸村、そんなこと出来ないだろ?」


 俺は学外のクラブでテニスをやっている幸村に聞いた。


「うん、そりゃそうでしょ。だから連れていくのに付き合ったわけだし」


「だよな。誰よりも運動してるコイツが出来ないって言うんだから出来ないな」


 幸村の見た目はほぼ女だが、こう見えてテニスの大会で毎回ベスト4以上を取ってくる猛者中の猛者だ。


 そんな奴が出来ないというのであれば嘘以外ありえない。


「ちょっと待て!なあお前ら!出来るよな?助けてくれ!」


 海翔は証明するべく飯を食っていたサッカー部の連中に声を掛けた。


「出来るぞ」


「運動部として当然の嗜み」


「幸村が出来ないのは女の子だからだろ」


「ほらな!」


 まさかサッカー部の3人全員出来るとは思わなかった。


「幸村は女だし、俺は運動部ではないから出来ないのか……?」


 常識が狂っていたのは俺の方なのかもしれない。幸村という女と一緒に居た弊害かもしれない。


 まさか、あの美琴のキャラを俺だけ受け入れられないのも……

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