第15話

「剛くん、中学の時は普通にバドミントン部だったでしょ」


 と若干サッカー部を信じそうになっていたが、幸村がジト目でツッコんできたことで正気に戻った。


「確かにそうだ。幸村が女だから出来なくてもおかしくは無いが、俺が出来ないってのは明らかな矛盾だな」


 危ない危ない。危うく引きずりこまれるところだった。


 肌を見ただけで相手の性格ややっているスポーツは分からないし、今の美琴のキャラは明らかにおかしい。うん、確かにそうだ。


「僕は男だけど」


「戸籍上は確かに男らしいな」


「肉体的にもでしょ!」


「そうだったな」


 怒る幸村に対して軽く謝った。


 ただ怒っている姿はどう見ても可愛い女の子だった。


「とりあえず佐藤には報告しておくとして、俺達と雨宮の関係だな」


「報告だけは止めてくれ。口聞いてもらえなくなるから」


 佐藤は若い女性教師ということもあってこういう話は苦手らしい。


 もし交流する機会があればキャラクターの参考にさせてもらおう。


「対価は」


「美琴ファンクラブの今月分の写真集で」


「乗った」


「ふぅ。あぶねえあぶねえ」


 美琴はイケメンなので当然ファンクラブが存在する。通常学校で発生するファンクラブは男性か女性のみであることが多いが、美琴の場合は男女が半々の割合で共存しているらしい。


 流石に幼馴染がファンクラブに入るのは色々と問題になるので入っていないが、月一で作られている美琴の写真集だけは毎回見せてもらっている。


 別に世に蔓延っている水着とか下着とかのほぼ裸だろとしか言いようのない写真集というわけではなく、ただ日常を切り取ったものなのだが、それが非常に素晴らしい。


 いつもは課題の代行や掃除当番の肩代わり等そこそこ負担になる事ばかりだったが、雨宮との関係について話すだけで良いとは気が楽である。


 それに雨宮を紹介するわけではないし迷惑もかからないだろうしな。


「簡単に説明すると俺たちと雨宮は仕事仲間だ」


「あの子がお前のアレを手伝ってるのか!?」


「声が大きい。もっと静かに話せ」


「あっすまん」


 一応海翔は俺が漫画を連載しているという話を知っているが、どんな漫画を描いているのかは教えていない。


 そのため海翔は勝手に週刊少年ジャン○に乗っているような友情才能勝利をモットーとした漫画を連載していると思い込んでいる。


 だから雨森がアシスタントをしていると聞いて驚いたのだ。


 別にそこまでバレている以上、恋愛漫画の『ヒメざかり!』を連載していると言っても良いのだが、知った所でこいつは俺の漫画を読まないからな。


「そうだ。色々あって手伝ってもらうことになったんだ」


「なるほどなるほど。じゃあその方面で話しかければ……」


「お前ファンクラブの会長だろうが」


 会長が別の女に手を出すって何事だよ。せめて会長をやるなら一筋であれ。


「椎名さんはあくまで推しであって恋愛対象じゃないからな。アレはアイドルだ」


「それはそれでキモイよ」


「その顔で言わないでくれ……」


 幸村に軽蔑した顔で罵倒された海翔はボディブローを入れられたような苦悶の表情を浮かべていた。


 さっきの発言がキモかったのは事実だから同情はしないが、可愛い顔した奴に罵倒されて精神に大きなダメージを食らうのは理解できる。


「それはそれとして漫画をダシにして話しかけるのは止めた方が良いぞ」


「どうして?」


「お前人生で一度も漫画読んだことないだろ」


「ワン○―スは知ってるぞ!」


「アニメで見ただけだろうが」


 こいつの漫画の知識は全てアニメから得たものである。そんな程度で雨宮に話しかけたら確実に死ぬ。


「他だと○〇のひみつシリーズとか読んでたぞ!」


「それは違う」


 確かに漫画ではあるがアレは漫画カウントして良いものではない。


「じゃあどうすれば良いんだよ……」


「諦めろ。お前には無理だ」


「そんな……」


 海翔はがっくりと膝から崩れ落ちた。


 こいつはどうして一瞬だけ顔を見た相手のことでそこまで落ち込めるんだ。


「そうだな、幸村の情報とかを使えば良いんじゃないか?」


 流石に気の毒に見えたので助け舟を出してやることにした。


「それは本当か!?」


「ああ。アイツが知らない情報とかをくれてやるとすごく喜ぶと思うぞ」


「マジか!ありがとう!恩に着るぜ!!」


 まあその舟は三途の川行きだが。


 幸村の話に食いつくってことは幸村が好きってことに気付かないのだろうか。


「ちょっと待って海翔くん。僕の話を雨宮さんとするのはやめて」


 幸村は焦った様子で海翔を止める。


 多分これ以上弱みを握られるのは不味いと思ったのだろう。


「別に良いじゃねえか。減るもんじゃないし」


「減るよ!!」


「何が」


「僕の精神が」


「?」


 海翔は何のことだという表情でこちらを見てくる。


「まあそういうことだ」


「分かるか!」


「分からないのか」


 口に出さなくても察してくれるものだと思ったが、案外そうではないらしい。


「幸村の弱点だけは雨宮に話さないようにしてやってくれ。絶対にだぞ」


 俺は海翔に分かるように強く念押ししておく。


「分かった!」


 海翔は俺の言葉を聞いてニヤッとしながら頷いた。どうやら今回は分かってくれたらしい。


「ただ、一人で話しかけに行くなよ。せめて俺達のどっちかを連れて行ってくれ」


「当たり前だろ。突然知らない人に話しかけられたら怖いだろうが」


 こいつ美琴のファンクラブの会長をやっておきながら結構な数ナンパしてるな。


「なら良いか」


「じゃあまた今度よろしく頼む!」


 丁度昼休みが終わるチャイムが鳴ったので、海翔はそれだけ言い残して席に戻っていった。



 そして放課後、


「今から会わせてくれないか?」


 俺と幸村が帰りの支度をしていると、海翔にそう頼まれた。


「今度ってのは今日かよ」


 せめて1日は空けろよ。


「こういうのは早い方が良いだろ?」


「海翔くん、今日は部活じゃないの?」


「今日は休みだから問題ない」


 タイミング悪いな。毎日部活してろよ。


「じゃあ勉強はどうするんだ」


「クラスで1位の俺に聞くか?」


 そういえばこいつ無駄に成績だけは良かったな……


「とりあえず、今日は仕事だからさっさと行かないといけないんだ。行くぞ、幸村」


「うん、そうだね」


 言いくるめることは不可能だと察した俺は海翔を無視して帰ることにした。

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