アンバランスでテンプレートな学園ラブコメ


「出席を取るぞー……高峰碧」

「はい!」

「平内美希」

「はーい」

「皇椿樹」

「はい……」


 今日も今日とて、三人はいつも通りだ。

 点呼を終えた俺は、常日頃と変わらぬ彼女らの様子を見てほっと一息つく。

 特に皇に関しては、先日の件もあり、記憶の混濁や精神の状態への影響が懸念されていただけに、普段通りという事は喜ばしい。


 本来なら、二十六・二十七歳になっている彼女達。

 そんな彼女達だが、ここではずっと学生のままだし、感染症の対策として、俺に恋する女子高生という設定を延々と繰り返す。


 果たして、そんな生き方で、彼女達は生きていると言えるのか?

 そんな風に自問自答する事も、たまにある。

 けれども、こんな歪で狂った関係であっても、十年関わってきた彼女達に情が移らないほど、俺は薄情な人間じゃない。


 出来うる事なら生きていて欲しいし、生かしたい。


「あ、高峰、この前のデートの件なんだが、平内と皇から提案があって、どうせなら三人で遊びに出かけないかって事なんだがどうだ?」

「えぇー! それじゃあ課外授業みたいになるじゃん!」

「碧、抜け駆け禁止」

「(こくこく)」


 平内がニヤニヤと笑みを浮かべながらそう呟き、皇がうんうんと頷き、高嶺が頭を抱えて悶絶する。


 ……ま、こんな風に彼女らと共に生きるのも、悪くないかもな。

 彼女達の微笑ましい光景を眺めていると、何故かそう思えてくるから不思議だ。


 もしかしたら、俺の方が恋してるのかもしれないな。

 この現実と隔てられた世界で、彼女らと共に生きるという事に。


 いつもと変わらない日常。

 いつもと変わらない教室。

 今日もまた、そこで、いつもと変わらない学園ラブコメが行われる。

 現実とは違う世界で、心と身体がアンバランスな彼女達と、テンプレートな学園ラブコメを。

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