平内美希と言う女性
授業後にちょっとした一悶着はあったが、とりあえず今日の学園の予定は滞りなく終わり、彼女達は教室を出て、寮に帰っていった。
「……さて、と……」
さっきのやり取りからして、俺は本日の予定が追加されただろうと感じ、休憩室には戻らず、学園の校舎横に設置されている飼育小屋に向かった。
「ぴょんた、どうしよ……あたし、どうしたらいい? ぴょんたぁ……」
「やっぱり此処か」
「!?」
予想通り、外からは中が覗けない様になっている、普通の学校等にある物よりもとても立派できれいな飼育小屋の中に、平内はいた。
俺の声に振り返った彼女の腕の中には、多分さっきまで延々と平内の弱音や懺悔を聞かされていたであろう、一羽の白いウサギが、抱きかかえられ収まっていた。
「なっ……何しに来たんだよ、せんせー……」
「あー、平内が落ち込んでるんじゃないかなって思ってな」
「……っ!」
あ、やっぱり図星だったか。
「うっさいよ!? 大体誰のせいだと思って」
「俺のせいだな。ごめんよ、平内」
この人の場合は……話を長引かせては駄目だ。
長引けば長引くだけ、自己嫌悪に陥っていってしまう。最初はそれに気付かず、苦労したもんだ。
けど、今の俺はそれを知ってる。そして彼女が何を求めているかも。だから俺は平内の言葉を遮り、彼女にゆっくりと近寄って、そっと頭を撫でる。
「うっ……う、うん……」
頭を撫で始めると途端にしおらしくなり、それと同時に安心したような、救われたような表情を見せる平内。実際、こうされる事で救われてるんだろうな、この人の場合。
しばらくお互いに無言のまま、撫で続け、撫でられ続けをした後、俺はそっと平内の頭から手を外す。
彼女は少し名残惜しそうな表情をしたけれど、とりあえずは撫でる前よりは落ち着いた様だ。
「……ありがと……ねぇ、せんせー?」
「うん?」
俺に礼を言った平内が、俺の顔を覗き込むように上目遣いで見上げながら呼び掛けてくる。
「あたし、せんせーのそう言う優しいところ好き、大好き」
「あ……あ、ありがとう」
何だかちょっとだけ、熱と言うか圧と言うか、強く大きな想いを感じさせる視線を向けたまま、まっすぐ俺を見て告げてくる平内。
今までも何回か、こんな風に素直に好意をぶつけてくれる事があったけど、平内みたいな美女にこれされると、慣れる事なんてなく、どぎまぎしてしまう。
「ふふふ、ふふふっ……だーいすき!」
平内にしてはとても珍しく満面の笑みを浮かべて、そんな恥ずかしい事を言いながら、兎を抱えたまま飼育小屋から走り去ってしまう。
兎、小屋から持ち出しちゃ駄目でしょうが……いや、此処には咎める人も迷惑を感じる人も居ないけどさ。
「普通なら、嬉しいことなんだけど、な……」
さっきの平内からのあからさまな好意を思い出し、嬉しく思う反面、そればかりでは済まない事を改めて考えさせられる。
「俺は、うまくやれてるのかなぁ……」
そんな俺の呟きが、静かになった飼育小屋の中に木霊した。
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