第39話 ジバク草を育てます。

 ――翌日。


 アレクセイはタロたち【農夫】五人組と一緒に、森の浅い場所にいた。


「ここをジバク草栽培実験場にしよう」

「「「「「おっす!」」」」」


 先日、森で発見したジバク草の栽培に挑むのだ。

 ジバク草栽培は、いまだ成功例がない。

 人類初めての試みとあって、五人とも力が入っていた。


「まずは整地だ、ジロ、頼むよ」

「任せてくださいっす、親方っ!」


 ここのところ、人間重機として大活躍のジロが「マッスル!」と生えている木を次々と引っこ抜き、固い土を掘り起こし、大きな穴を作る。


「次は、土を張ろう」


 穴の中に、魔素と栄養たっぷりの土が投入される。

 タロの【土壌改良】とシロの【鑑定(鉱物)】によって作られた最高品質の土だ。


 ジバク草が栽培に適しない理由のひとつは、育つために大量の魔素が必要になることだ。

 魔素が豊富な土地であっても、ジバク草を育てると、土中の魔素がほとんどなくなってしまう。

 いくら貴重な実をつけるとは言え、たった一度で土地が使えなくなるのでは、割に合わない。他の作物を育てる方がマシだ。


「この土なら、立派な実をつけてくれると思うよ」


 二人の作った土は魔素と栄養をたっぷりと蓄えた最高品質の土だ。

 この土なら、ジバク草もしっかりと育つだろう。

 それに土地の魔素が枯渇したとしても、森の中であるこの場所なら、村の畑に被害はない。


「じゃあ、植えるよ」


 アレクセイは手のひらに乗せた三粒の種を五人に見せる。

 サブロの【鑑定(植物)】と【品種改良】によって選びぬかれた種だ。


「ゴロ、お願い」

「うすっ!」


 【植物栽培】のギフトを持つゴロがジバク草の種を植えていく。

 ギフトの効果によって、他人が植えるよりも植物の成長が早くなるのだ。


「世話はゴロに任せる」

「頑張るっす!」

「そして、いちばん大切な仕事はサブロだ。君にしかできない仕事だ。頼りにしてるよ」

「親方……やってみせるっす!」


 今まで活躍する場面が少なかったサブロだが、彼こそがこの計画の要になる。

 大切な役目を任された彼は誇らしげに胸を張る。


「さて、最後に竹垣を作ろう。みんな、ジャックの指示に従って」


 ジャックは二十歳過ぎの男だ。

 ジョブは【木こり】でギフトは【木材加工】。

 もともと手先が器用で、村で使う道具は彼が作っていたのだが、ギフトを授かったことにより、一流の職人顔負けの技術を身に着けた。

 口数の少ない男だが、的確な指示を出しながら、速いペースで竹垣を作っていく。


 ただの竹垣ではない。

 魔覆液マナコーティングを施した、魔硬竹の竹垣で、硬度は鉄板を上回る。


 栽培が難しいふたつ目の理由は、ジバク草の繁殖方法にある。

 土地の魔素を奪い尽くすという性質上、ジバク草が次の世代へ続くためには、種を遠くに運ぶ必要がある。


 そのためにジバク草が獲得した生存戦略は――その名前の通り、『自爆』だ。

 ジバク草の実の中には『起爆種』と呼ばれる種がひとつある。

 これが爆発し、種を遠くへと飛ばすのだ。

 その威力は強く、実を食べた動物の身体ごと爆散させるほどだ。


 万が一、起爆種が爆発しても、竹垣が防いでくれる。

 それに竹垣が破られたとしても、周囲は森の木々に囲まれているので、村にまで被害が及ぶことはないだろう。


「みんな、ご苦労。サブロ以外は解散だ。仕事に戻っていいよ」


 他の四人が村に戻り、二人になったアレクセイはサブロに声をかける。

 その手には数枚の紙が握られていた。

 サブロはどんな声がかけられるかとハラハラしていた。


「キリエから聞いたけど、勉強頑張ってるみたいだね」

「うすっ。こんなに頭を使ったのは生まれて初めてっす」

「報告書は読んだよ。よくできてるね」


 アレクセイの言葉に、サブロは顔をほころばせる。


「姐さんのおかげっす」


 報告書など書いたこともなく、そもそも、文字を書くのすらおぼつかないサブロのために、スージーがつきっきりで報告書を仕上げたのだ。


「姐さんはスゴいっすね。若くって、綺麗で、賢くって、強くて、気品があって。後、なんかイイ匂いがするっす」

「あはは。褒めてもらって嬉しいけど、スージーは僕のだからね。変な気は起こさないでね」

「めっ、滅相もないっす。姐さんに手を出そうなんて不届き者はこの村にはいないっすよ」

「そう? なら安心だけど」

「それに、おいらにも相手がいるっす」

「そうだったんだ」

「そうなんでさ。今年の収穫祭に祝言しゅうげんを挙げることになってるんでさあ」

「じゃあ、僕からもなにかお祝いの品を考えておくよ」

「恐縮っす」


 ウーヌスの村では、毎年、麦の刈り入れ時期に収穫祭を行う。

 夫婦になる男女がいる場合は、そのときに一緒に祝う風習だ。


「話を戻そうか。種について分かったのは、報告書に書かれているので全部?」


 先日入手したジバク草の実から得られた種は十三粒。

 ひとつは起爆種なので、それを除いた残りが栽培候補だった。

 だが、そのすべてを植えるわけではない。

 サブロの報告書によって厳選された三粒だけが、今回植えられたのだ。


 報告書には、種の形質――次代に伝わる性質――に関する情報がひと粒ごとにまとめられていた。


 発芽しやすさ。

 育つ早さ。

 実の大きさ。

 ――――。


「はいっす。他にも分かりそうな気はするっすけど、今のおいらには無理っす」


 サブロは謙遜するが、報告書にかかれている情報はアレクセイにとって十分過ぎるものだった。


「この報告書をもとに、ジバク草を品種改良していこう」

「頑張るっす!」


 ――それから一週間後、アレクセイのもとに待望の報告がもたらされた。








   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ジバク草が栽培できるようになりました。』


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