第35話 未知の領域は宝の山でした。

 モンスター襲撃を警戒しながら、アレクセイたちは森の中を進んでいく。

 たまにワイルドドッグやゴブリンなどが出現したが、今の彼らにとって脅威となるモンスターは現れなかった。


 鬱蒼と茂る森の中を慎重に進んで行く。

 彼らは頻繁に足を止めなければならなかった。

 なぜなら――。


 ――森は宝の山だった。


「これはハーブですね。これは薬草です。あっ、あっちにも――」


 ディーナが鑑定で調合素材を発見していく。

 その一方で――。


「この山菜、食べられる。あそこのキノーコも――」


 森に詳しいメルタが食用植物を見つけていく。


 二人の指示に従って、採取をしていると――。


「おっ、こっちのキノーコも美味しそうだなっ」


 ニクスが派手な色をしたキノーコに手を伸ばそうとするが――。


「バカッ、迂闊に手を出すなッ!」

「痛っ!」


 サンカがニクスの手を払った。


「サンカの言う通りですよ。このキノーコは触ると手がかぶれますよ」

「素人は、キノーコの区別、無理」


 ディーナとメルタからも注意される。


「分かった。俺が悪かった。けど――」


 ニクスはサンカに文句を言う。


「だからって、力いっぱい叩くことないだろっ!」

「軽く撫でただけだ。鍛え方が足りないから痛みを感じる。戻ったら、鍛え直しが必要だな」

「なっ!?」


 喧嘩というよりはじゃれ合いだったので、アレクセイは口を挟まずに、成り行きを見守る。

 そんな二人のやり取りがひと段落すると、サンカはその場に片膝をつき、深くこうべを垂れる。


主殿あるじどの、失礼いたした。きちんと躾けておくので、なにとぞご容赦を」

「まあまあ、そこまでしなくていいよ。さいわい被害はなかったし。でも、ニクスはこれから気をつけてね」

「はい、兄貴」


 ニクスも頭を下げた。


「じゃあ、この話はこれで終わり。調査を再開しよう」


 その後も調査と採取を続け――。


主様ぬしさま、あれを――」


 メルタが指差す先にあったのは、ざらざらとした白い粒に覆われた葉をつけた木だった。


「これがソルティーツリーか。初めて見るよ」


 この白い粒は塩の塊だ。

 内陸部で近くに岩塩も存在しないウーヌス村において、塩の補給源はソルティーツリーくらい。後は、モンスターがドロップする塩塊があるが、それはごくごく稀だ。


「この一帯は全部そうだね。これだけあればしばらく塩には困らないな」


 ソルティーツリーは森の浅い場所でも生えているが数は少ない。

 今までは不足しがちだったが、この群生地があれば塩問題も解決だ。

 またひとつ、村の状況が改善されたことに、アレクセイは満足する。


 それからしばらく採取を続けながら、探索範囲を広げていくと、とんでもない物が見つかった。

 ソルティーツリーが霞むほどの大発見だ。


 そこは――木々が群衆する森の中、ぽっかりと開けた場所だった。

 直径2メートルほどの空地だ。

 その中央に、高さ30センチほどの低木が一本だけ生えている。

 紫色の花が咲き、大きな実をひとつ。

 オレンジ色の実は、手のひらからはみ出すサイズの大きさだ。


「これはっ!」


 アレクセイは辞典で見たことある、その実に興奮する。


「ディーナ!!」

「『ジバク草』です」


 ディーナは鑑定した名を告げる。


「やっぱり、そうかっ!」

「兄貴、そんなにいい物なんすか?」


 普段、それほど感情を表に出さないアレクセイが、今まで見たことないほど興奮している。

 その姿に、みんなつられて期待をつのらせる。


 アレクセイがオレンジ色の実をもぎ取ると、甘い香りが漂った。


「いい匂い」

「甘い香りね」

「このジバク草の実は甘くて栄養と魔素が豊富なんだけど、栽培が非常に困難で、自生しているのも中々みつからない。この実ひとつで、数万ゴルの値段だよ」


 アレクセイの言葉に、みな、目を丸くする。


「メルタ、ディーナ、森でこの実を見たことがある?」

「いえ」「初めてです」

「この森でもレアなんだろうな。運が良かったよ」

「持ち帰って、育てるのですか?」

「ああ、これを栽培できたら、一大産業になるよ」


 ジバク草の栽培は困難で、いまだ実現されていない。

 だが、ウーヌス村には彼らがいる。


 タロの【土壌改良】。

 サブロの【品種改良】。

 ゴロの【植物栽培】。


 三人のスペシャリストがいるのだ。

 彼らの力を合わせれば――アレクセイは期待に胸が高鳴る。


 とんでもない発見に、一同の気が緩んでいたところで、メルタが目を細め、短く告げる。


主様ぬしさま、ゴブリンの匂い」

「近いのか?」

「十分くらい、歩いたところ」

「数は?」

「少なくない。十体以上はいる」

「襲ってくる様子は?」

「気づいていない。ここなら大丈夫」

「近くに他の群れの気配は?」

「ない。コイツらだけ」

「そうか……」


 今日の収穫は十分過ぎるほど、ここら辺が潮時だろう。


「よし、調査はこれくらいにしよう。最後にゴブリンの群れを狩ったら、撤収だ」


 アレクセイの言葉に、ニクスとサンカがやる気満々に剣を構える。


「ニクス、主殿あるじどのに無様な姿を見せるんじゃないよ」

「うるせえ、サンカこそ、兄貴にいいところ見せようとしてドジるんじゃねえぞ」


 二人とも、軽口を叩き合う余裕があった。

 昨日のゴブリン戦で自信をつけたのだろう。

 騒ぐ二人とは対照的に、メルタは静かに毒矢を構える。


「三人で行けるか?」

「はっ」「おう!」「(コクリ)」

「じゃあ、任せたよ」


 今の三人なら、なんの問題ないだろう。

 アレクセイはディーナの隣で見守ることにした。


 そして――。


 三人は油断しているゴブリンを急襲し、なんなく全滅させた。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


 次回――『村に帰ったら、女の子たちが暴走しました。』


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