第5章 森調査

第34話 調査隊結成です! 森を調べましょう。

【第4章あらすじ】


領地改革を開始してから二週間。

・トォメィトゥの実を収穫。

・キリエ学級の授業参観。

・スージーがいない間に他の子とイチャイチャ。ディーナが一歩リード。

・街道にゴブリン出現、兵士3人、ジロと討伐。

・スージー、街から物資を買い付けて帰還。

・満月の夜、スージーのセカンドギフト【レッサーヴァンパイア】が覚醒。


   ◇◆◇◆◇◆◇



 昨日のゴブリン襲撃を受け、アレクセイは本格的な森の調査を始めることにした。


 ウーヌス村からは南に向かう街道があり、それ以外はすべて森に囲まれている。

 今まで森の浅いところを調べて来たが、北、東、西方面にはモンスターの痕跡は一切なかった。

 村長アントンが【罠師】のギフトであちこちに罠を仕掛けたが、小動物がかかっただけだ。


 危険なのは昨日ゴブリンが現れた南東方面だが、他の場所も気が抜けるわけではない。

 アレクセイはふたつの調査隊を作り、森の探索にあたることにした。


 北側を調べるのは五人で、それぞれジョブとギフトは以下の通り。


 スージー、【メイド】、【忠臣】【レッサーヴァンパイア】。

 マーロウ、【猟師】、【第六感】。

 アントン【猟師】、【罠師】。

 イッチ、【兵士】、【戦闘指揮】。

 サブロ、【農夫】、【鑑定士】。


 南側を調べるのは以下の五人。


 アレクセイ。

 メルタ【猟師】、【森の人】。

 ニクス、【兵士】、【大剣術】。

 サンカ、【兵士】、【刀術】。

 ディーナ、【薬師】、【調合師】。


 スージーは「アレク様、危険です。お姉ちゃんがついて行きますっ」と駄々をこねたが、バランスをとるために別行動だ。

 村の最大戦力がアレクセイ、次がスージーなので、仕方がない。


「じゃあ、出発しよう。メルタ、案内を頼むよ」

「(コクリ)」


 アレクセイの言葉に、メルタがうなずく。


 短い藍色髪にすらりとした身体。

 十八歳の少女。

 ジョブは【猟師】で、ギフトは【森の人】。


 南に向かう街道をしばらく進んだところで、メルタが一度止まる。


主様ぬしさま、ここから、入る」


 それで良いか、とメルタはアレクセイに目で尋ねる。


 メルタは口数が少なく、単語を並べたようなしゃべり方。

 森に生きる者は、音を立てないように最小限しか言葉を発さない。

 そのせいで、普段からこのような口調の者も珍しくない。


「ああ、行こう」

「ボクに、ついて来て」


 一行はメルタを先頭に、一列になって森に入る。


「これが魔の森か……」


 森に入りしばらく歩いた。


「普通の森とはまったく様相が異なるね」


 アレクセイの知っている森とは違いすぎた。

 普通の森であれば、植生はいきなり変わったりしない。変化があっても、それは連続的で緩やかだ。


 しかし、魔の森は全然違う。

 春に咲く花が開いているそのすぐ隣では、秋にしか取れない木の実が鈴なりになったいたりする。


 歩いていてクラクラと目眩を覚えるが、アレクセイにとって望ましい一面もある。


 ――これだけ植生がバラバラなら、きっと役に立つ植物も生えているはずだ。


 規則性や手がかりはなさそうなので虱潰しにするしかないが、期待に胸が膨らむ。


「アレクセイ様、ヒール草です」


 ゆっくりと進みながら、ディーナがなにかを発見すると止まって採取する。

 森の調査は、モンスターへの警戒だけでなく、資源採取も兼ねている。


 薬草を上手に採取するには、それなりのコツがある。

 慣れているディーナとアレクセイが採取を行い、メルタ、ニクス、サンカの三人は周囲を警戒する。

 二人でかがんで採取しながら、ディーナがアレクセイに話しかける。


「マナポ草に、スタミナ草。知らなかっただけで、森には貴重な素材がたくさんあったのですね」

「ああ、普通の森だったら、こんなには集まらないよ。この森は凄いね」

「これもすべてアレクセイ様が授けてくれたスキル【鑑定(調合素材)】のおかげです」


 今までは知らずに放置されていた薬草だが、ディーナが鑑定を覚えたので、見落とすことなく採取できるようになったのだ。

 これで調合できる物が増えると、ディーナは喜び、ギフトを授けてくれたアレクセイに感謝する。


 そのとき、メルタが短く声を発した――。


主様ぬしさま、敵」


 その声にアレクセイは立ち上がり、周囲の気配を探るが、アレクセイには分からなかった。


「ワイルドドッグ、七体。こっちに、来る。主様ぬしさま――」


 メルタはアレクセイに判断を仰ぐ。

 ワイルドドッグ七体程度なら楽勝だ。

 ニクスもサンカもそれくらい強くなった。

 アレクセイが指示を出そうとしたとき――サンカが先に口を開いた。


主殿あるじどの、僭越ながら、ここはお下がりください。今日はスージー殿が不在でございます。主殿あるじどのに万が一があっては困ります」


 サンカに続いて、ニクスも――。


「ああ、兄貴は俺が守る」


 サンカに比べたら軽い態度だが、アレクセイへの忠誠度ではニクスも引けをとらない。


主殿あるじどのが我々よりも強いことは重々承知しております。ですが、ここは我々にお任せください。いざというときは、スージー殿に代わって、拙女せつじょが肉壁となってお守りする所存でございます」


 アレクセイは二人の決意を受け取り、好きにさせることにした。


「分かった。でも、無理はしないでね」


 ニクスが大剣を、サンカが刀を抜く。

 ワイルドドッグが襲いかかってきたのは、その直後だった。


 メルタが吹き矢で先頭の一体を狙う。

 毒針が右目を貫き、ワイルドドッグは転倒する。

 立て続けに、二射、三射――ワイルドドッグを無効化する。


 飛びかかってきたのは四体だけ。

 そいつらも、ニクスとサンカによって両断される。


 無傷での完勝だった――。


 その後も、薬草を採取したり、襲いかかってきたモンスターを倒したりしながら、森の奥へと踏み入っていく。


 三十分ほど歩いたところで、メルタが止まる。


「いつもは、ここまで。この先は、不明」

「分かった。油断せずに行こう」


 アレクセイたちは未知の領域へと進んで行く――。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


 次回――『未知の領域は宝の山でした。』

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