第22話 リシアはポーション作りをがんばりました。

 アレクセイが村長宅を訪れると、出迎えてくれたのは、すっかり元気になったディーナだった。


「調子はどう?」

「はい。すっかりよくなりました。アレクセイ様のご好意に感謝したします。本当にありがとうございました」


 ディーナは深く頭を下げる。

 昨日まで寝たきりだったとは思えないほど、血色がよくなっていた。

 それを見て、アレクセイは安堵する。


 彼女は三十歳だが、子どもがいるとは思えないほど若々しかった。

 娘のリシアの青髪より少し色の薄い、水色の長髪を後ろでひとくくりにしている。

 そして、細い身体に不釣り合いな、母性の象徴である大きな胸。


「なにはともあれ、薬が効いてよかったよ。後は、料理のおかげかな」

「ナニーさんという方が作って下さったそうですね。食べたら元気が湧いてきました。お礼を言わなければいけませんね」

「きっと喜ぶと思うよ。リシアは調合中かな?」

「ええ、朝から調合にかかりきりですわ。ご案内致しますね」


 案内された調合室は狭かった。

 棚には、乾燥したハーブや薬草。

 部屋の隅には、発酵済みで森の土のいい匂いを放つ腐葉土と瓶(かめ)いっぱいに貯められた水。

 大きなテーブルの上には、調合釜などの器具。そして、マーロウが運び込まれた調合素材と調合辞典が並んでいた。


「ご領主様っ……」


 調合作業をしていたリシアは手を止める。

 昨日はちょっと距離を感じる態度だったが、今日はそんな感じはない。むしろ、どこか落ち着きなくソワソワした様子だ。


「こんなに多くの『魔素パウダー』をいただいて、ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 二人揃って深々と頭を下げる。

 魔素パウダーはモンスターから取れる魔石を砕いて粉状にしたもので、調合において最重要な素材だ。

 魔素パウダーなしでは、ほとんどなにも作れない。


「ああ、気にしないで。これもすべては村のためだ。感謝しているなら、調合で返してくれればいいよ。君たち二人にしかできないことだからね」

「はいっ、ご期待に応えたいと思います」

「わたしも頑張りますっ!」

「まずは、今まではどうしていたか、教えてもらえるかい」

「はい――」


 ディーナの説明をかいつまんでみると――。


 ディーナが火痘に蝕まれてからは、リシア一人で調合していたそうだ。

 とはいえ、魔石が手に入りづらい環境なので、森で採取した薬草に手を加えて軟膏や飲み薬を作ったり、腐葉土から肥料を作ったりという程度。

 どちらも調合と言えるほどのものではない。


「なるほど、だいたいわかったよ」


 説明を受けたアレクセイは、二人のステータスを確認する。


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【名前】:リシア

【年齢】:14

【性別】:女

【種族】:普人種


【ジョブ】:【薬師】

PSパッシブスキル:【薬学】

ASアクティヴスキル:【調合】


【ギフト】:【調合師】

PSパッシブスキル:【奇跡の調合】

ASアクティヴスキル:【魔力調合】


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 アレクセイはリシアのステータスを見て驚いた。


 ――十四歳!


 リシアは栄養状態が悪かったせいで、十歳くらいの身体つきだ。

 まさか自分とひとつしか変わらないとは思ってもみなかった。

 ちょっと子ども扱いしすぎたかな、とアレクセイは反省する。


 【薬師】だったリシアに付与されたギフトは【調合師】だ。

 リシアのスキルに関しては――。


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【薬学】調合知識を得る


【調合】調合魔法を使える


【魔力調合】魔力を用いて調合できる


【奇跡の調合】極めて稀に、未知の調合方法をひらめく。


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 【奇跡の調合】と【魔力調合】というふたつのスキルを新たに覚えた。

 どちらも、調合に適したスキル。とくに【奇跡の調合】は気になるスキルだ。

 ひょっとすると、とんでもない物が作れてしまうかも……。


 そして、ディーナのステータスは――。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


【名前】:ディーナ

【年齢】:30

【性別】:女

【種族】:普人種


【ジョブ】:【薬師】

PSパッシブスキル:【薬学】

ASアクティヴスキル:【調合】


【ギフト】:【鑑定師】

PSパッシブスキル:――

ASアクティヴスキル:【鑑定(調合素材)】


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 ディーナのギフトは【鑑定士】でスキルは【鑑定(調合素材)】。

 これがあれば未知の素材でも上手く取り扱える。


「二人とも、調合向きのギフトだ。よかったね。早速頑張っていたみたいだけど、成果はどうかな?」

「ご依頼の通り、ふたりでヒールポーションを作ってました。こちらになります。全部で二十本です」


 瓶に入ったヒールポーションがテーブルの上に並べられる。

 【調合】は【薬師】や【調合師】が使える魔法の一種だ。

 魔力を使い、レシピ通りに素材を調合するのだが、完成すると瓶に入ったポーションが出現する。

 瓶も魔力によるもので、ポーションを使用すると勝手に消滅する不思議な仕組みだ。


「早いね。品質は?」

「二本を除いて普通品質です」

「残りの二本は?」

「それはリシアが……」


 今まではほとんどディーナが会話していたが、母にうながされてリシアが口を開く。


「ご領主さまから授かったギフト【調合師】のスキル【魔力調合】を試してみたんです。そうしたら、高品質のポーションができました」


 高品質のポーションは普通品質のポーションの五割増しの値段で、それなりに経験を積んだ調合師でないと作れない。

 普通なら、今日はじめてポーションを作ったばかりのリシアには不可能だ。


「すごいね、ちょっと見ていい」


 アレクセイは鑑定用のメガネをかけ、ポーションを鑑定する。


「うん、間違いなく高品質だ。よくやったよ、リシア」


 アレクセイはメガネを外しながら、無意識に手を伸ばしてリシアの頭を撫でようとし――リシアの年齢を思い出す。

 あまり、子ども扱いしちゃ悪いな。そう思って手を引っ込めようとして、そこで気がつく。

 リシアがしょぼんとしていることに。


「えーと……」

「アレクセイ様、よければ撫でてあげてください。この子は小さいうちに父を亡くしてしまったので……」

「そっか。いい?」


 アレクセイが尋ねるとリシアは恥ずかしげに小さくうなずく。


「これからもリシアの【魔力調合】には期待しているよ」


 髪を撫でるとリシアはふにゃんと気持ちよさそうに頭をあずける。

 リシアが満足するまで、アレクセイは撫で続けた。

 ディーナは二人を微笑ましい目で見守っていた。


「ありがとうございました、ご領主しゃま……しっ、失礼しました」


 リシアは噛んでしまい、慌てて頭を下げる。


「ああ、気にしなくていいよ。それと、みんなにも言っているけど、呼びやすい方法で呼んでくれればいいよ」

「じゃあ……『お兄ちゃん』って呼んでも……いい……ですか?」


 妹のいないアレクセイにとって、新鮮な響きで心地よかった。

 アレクセイは不安そうにしているリシアの頭をポンポンと叩く。


「ああ、もちろん。敬語も無理してつかわなくていいからね」

「うん。ありがとう……お兄ちゃん」


 慇懃無礼という言葉があるように、実家にいた頃のアレクセイは「かたちだけの敬意」にさらされてきた。

 それにはうんざりしているので、アレクセイはかたちにはこだわらない。

 敬意を払ってもらえるように、自分が行動するだけ――そう考えていた。


「お兄ちゃん、あのね、もうひとつ報告があるんだっ」


 リシアは見慣れぬポーションを一本取り出した。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


 次回――『リシアが凄いポーション開発しちゃいました。ご褒美はシャンプーです。』

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