第23話 リシアが凄いポーション開発しちゃいました。ご褒美はシャンプーです。

 リシアは見慣れぬポーションを一本取り出した。


「これは?」

「ポーションを作っていたら、急に頭の中にレシピが思い浮かんだんだ」

「【奇跡の調合】か?」

「たぶん、そうだと思う」


 【奇跡の調合】のスキル説明には「極めて稀に、未知の調合方法をひらめく」とある。

 どれくらい稀なのかは不明だが、早くもスキルが発揮されたようだ。


 透明なポーション容器に入ったピンク色の粘度の高い液体。アレクセイも見たことがないものだった。


「これはいったい?」

「私の【鑑定(調合)】によりますと、トリートメントシャンプーというものらしいです」

「どれどれ――」


 アレクセイは再度鑑定メガネをかけ直す。



□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


【トリートメントシャンプー】


品質:普通


効果:シャンプーの上位種。使用すると髪がサラサラツヤツヤになる。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


「ほう。これはこれは……。素材はなにを使ったの?」

「これと、これと、後は――」


 リシアはテーブルの上にハーブや薬草を並べていく。


「これは森で採れるの?」

「うん。どれも森の浅いところで採れる」

「じゃあ、素材集めは簡単かな?」

「おじいちゃんか、メルタさんがいれば大丈夫」


 メルタもアントンと同じく【猟師】のジョブを持った女性。

 いつもなら採取には彼女が付き添うのだが、昨日は足をくじいていたので留守番していた。

 その怪我もアレクセイが治したので、今日はもう元気だ。


 ――これなら安定供給が見込めるな。


「ありがとう、リシア。大快挙だよ」


 アレクセイが頭を撫でると、リシアは「ふみゅ」っと可愛い声を上げる。


「せっかくだ。試してみよう。リシア、協力してくれるかい?」

「えっ!?」

「君の髪を綺麗にしよう。きっとサラサラでツヤツヤになるよ」

「わたしっ!?」

「あっ、嫌だった?」

「いっ、いやっ」

「だったら、ディーナさんに頼もうか?」


 リシアは慌てたようにブンブンと首を振る。


「嫌じゃないっ。お願いっ。お兄ちゃんにやって欲しいっ!」


 その剣幕に押されつつも、アレクセイは落ち着いた調子で「わかったよ」と頷く。

 そして、水瓶(みずがめ)から汲んだ水を桶に張る。


「じゃあ、椅子に座って」

「はひっ」


 緊張でビクビクしているリシアを座らせ、椅子を反転。テーブルに背を向けるかたちにする。


「さあ、桶の方に頭を倒して」

「うんっ」


 女の子の頭を洗うのは、アレクセイにとって始めてのことではない。それどころか、むしろ、手慣れている。

 スージーの頭を洗うのが、彼女へのご褒美のひとつだったからだ。


 一方のリシアはドキドキだった。

 この村では髪の毛は生活魔法で汚れを落とし、週に一度、水洗いするだけだ。

 シャンプーをつけるのも始めてだし、亡き父と祖父アントン以外の男性に洗ってもらうのも始めてだ。

 ましてや、領主であり、好意を抱いているアレクセイに洗ってもらうのだ。

 捕まえてきたウサギのように、身体を震わせていた。


「大丈夫だよ。リラックスして。まあ、洗ってるうちにリラックスするか」


 スージーはいつも蕩けきったように、ふにゃんとなる。きっとリシアもそうなるだろう。

 そう思いながら、アレクセイはリシアの髪を水に浸す。

 トリートメントシャンプー瓶のふたを開けると、爽やかな香りが流れ出る。


「あっ、いい香り」

「森の香りですね」

「うん、香りもいいね」


 アレクセイは瓶を傾け、トロリとしたピンクの液体を手に取る。


「じゃあ、目をつぶって」


 ギュッと目を閉じたリシアの髪にトリートメントシャンプーをつけると「ひゃい!」と声が上がった。

 カチコチになっていたリシアだったが、トリートメントシャンプーが髪に馴染んでいくにつれて、肩の力が抜けてふにゃふにゃになっていく。


「はふぅ、気持ちいいよぉ」

「きっと鎮静作用もあるんだと思うよ」


 頭皮も念入りにマッサージしていくと、リシアは「ほわぁ」とか、「ふへぇ」とか、心地よさそうに声を漏らす。

 ひと通り終わったところで、トリートメントシャンプーを水で落としていく。


「さあ、後は乾かすだけだ。頭をあげて」


 アレクセイはリシアの髪をタオルで拭いていく。


「ディーナ、鏡とブラシあるかな?」

「鏡はリビングにありますが、壁に取り付けてあるので動かせません」


 この村に残っている唯一の鏡で、開拓時に持ち込まれたものだ。


「じゃあ、移動しよう。そうだ。リシアは目を閉じててね」

「えっ!?」

「後のお楽しみだよ。ほら、ついて来て」


 リシアの手を引き、リビングに移動する。

 鏡の前に椅子を持ってきて、リシアをそこに座らせる。

 ディーナから受け取ったブラシで、アレクセイはリシアの髪をいていく。


「よしっ、完成だ。目を開けてごらん」


 リシアは恐る恐る目を開ける。

 そして――はっとしたように大きく目を見開いた。


「これがわたしの髪――」


 貴族令嬢でも手に入らないような艷やかな髪に変身していた。


「触ってごらん」

「うわぁ、サラサラぁ~~」


 綺麗になった髪はリシアの指の間からこぼれ落ちる。


「よかったわね、リシア。生まれ変わったみたいよ」

「ああ、綺麗になった」

「お兄ちゃん、ありがとう」


 リシアは満面の笑顔を浮かべる。


「ディーナも試してみる?」

「ありがたい申し出ですけど、病み上がりなので遠慮しておきますわ。また機会があれば、是非お願いしますね」


 ディーナは嫌がっている様子はない。

 本当に身体に気を使ってのことだろう。

 母親のような女性に頼まれるのは、アレクセイには新鮮で、それと同時に嬉しかった。


 この夜、当然のようにスージーからもシャンプーをねだられたが、それはまた別の話――。


 三人は調合室に戻る。


「二人に調合してもらおうと思っていたのはふたつあったんだけど、みっつになっちゃったね。トリートメントシャンプーはどれくらい作れそう?」

「一日一本しか作れないみたい」

「じゃあ、毎日一本お願いするよ。それで余力があったら残りのふたつを頼む」

「了解っ!」

「作ってもらいたのは『万能肥料』と『ヒールポーション』だ。万能肥料にはジャイアントワームの肉を混ぜるといいよ」


 ジャイアントワームの肉は食べて美味しいだけでなく、良質な肥料のもとになる。

 それから三人は相談して、ノルマを決めていった。


「――ノルマの分だけ作ってくれたら、後の素材は好きに使っていいよ。足りない素材があったら言ってね」

「はい!」

「なにか新しい物が出来たら教えてね。楽しみにしてるよ」


 アレクセイは二人に別れを告げ、次の場所に向かう。

 この村にはリシアたち【薬師】のように、【木こり】や【鍛冶師】など、専門ジョブを持つ者が数名いる。

 彼らと相談して、仕事を割り振るのだ。


 夕方までには彼らとの話し合いも終わり、アレクセイの領地改革初日は順調すぎるほど順調に終わった――。







   ◇◆◇◆◇◆◇



【後書き】


次回――『第3章キャラクターリストです。』


1話挟んでから、第4章『領地改革二週間後の成果』スタート!


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