第18話 畑といえば、ミミズですよね。

 ジロがクワを振り下ろす――。


 先ほどの失敗を踏まえ、周囲に飛び散らないよう慎重に地面を掘っていく。


 1メートル。

 2メートル。


 まだまだ、表層と同じく、固く魔素に乏しい土だ。

 そして、3メートルに達すると――。


「「「「おおっ!」」」」


 感嘆の声があがる。

 黒く湿り、魔素に富んだ土が顔を見せた。

 予想が的中したアレクセイは、ふっと頬を緩める。

 麦の長い根はこの深い土から栄養を得るためだったのだ。


「やっぱり、ここまで掘り起こせば、なんとかなるね」


 魔素計で測るまでもない。

 この黒土を掘り起こせば、普通の麦でも育つ。

 食料生産に目処が立ち、アレクセイはホッと胸を撫で下ろす。


「でも、なんでなんだろう?」


 アレクセイが疑問を感じていると、ジロの足元で地面がモコモコと動き始めた。


「なにか、来るっす!」

「ジロ、逃げろッ!」

「うわっ!」


 スージーは即座に臨戦態勢をとり、ジロが慌てて穴をよじ登る。

 タロとサブロがジロの手を掴んで引き上げた直後――。


 土を噴き上げ、巨大なミミズが現れた。

 直径20センチ、体長1メートル――ジャイアントワームだ。

 土中から飛び出してきたジャイアントワームが襲いかかってくるが――。


「斬ッ!」


 スージーが二本のナイフをきらめかせると、一瞬にしてジャイアントワームの小間切れができ上がった。


「「「「「すげえええ!!!!!」」」」」」


 スージーの華麗なナイフさばきに、五人はキラキラと目を輝かす。


「油断するのは早いですよ。ほら――」


 スージーが言った通り、立て続けに三体のジャイアントワームが穴の底から現れる。


「姐さん、助太刀するっす」とジロがスージーの隣に並び立つ。

「じゃあ、一体任せるわ」とスージーは微笑む。


 飛び上がる三体のジャイアントワーム。

 二体はスージーによって切り裂かれ、残りの一体は――。


「うらああああぁぁぁぁ!!!」


 力任せのジロの拳がジャイアントワームを殴り倒した。

 三体とも倒すと、静かになった。


「もう大丈夫です」


 スージーはジャイアントワームの体液を拭い、ナイフをしまう。


「スゴい大きさだね」

「ええ、通常の三倍以上ありますね」


 スージーは足元の魔石を拾い、「思わぬ収穫ですね」とアレクセイに手渡した。

 この様子なら、広い土中には大量のジャイアントワームが生息しているだろう。


「魔石はポーションや魔道具づくりの必須素材だし、ジャイアントワームの肉は魔素が豊富で栄養価が高い。大儲けだね」

「ナニーが喜びますね」

「しばらくは肉に困らなそうだし、森での魔物狩りは後回しだね」


 ナニーが言うには「強くなるには魔物の肉が一番ですっ!」とのこと。

 森に入って魔物を狩るよりは、地中のジャイアントワームを倒す方がはるかに安全だ。

 ほくほく顔のアレクセイにタロたちが話しかける。


「コイツ食べれるんすか?」

「うん、焼くと美味しいよ」

「こんなデカいなら、みんなで食べても十分足りるっす」

「そうだね。まだまだ土の中にいっぱいいるよ」

「へえ、じゃあ、ちょっくら――」

「でも、ナマで食べちゃだめだよ。お腹壊すからね」

「たっ、食べないっすよ」


 慌てるシロに、笑いが起こる。


「豊かな土を作ってくれたのもジャイアントワームだ。感謝しないとね」

「養殖しますか?」

「うん、土地の一画はジャイアントワームの養殖場にしよう」


 モンスターは魔素が集まって生じるが、魔素の豊富な場所に魔石を放置することによって、モンスターの生成が早くなる。

 ここの地中に埋めておけば、ジャイアントワームが狩り放題だ。


「得られた魔石のうち、三分の一は養殖に使おう。管理はスージーに任せるよ」

「承知いたしました」

「とまあ、こんな感じでみんなにはこの土地を開墾してもらいたいんだ」


 アレクセイは五人に向かって告げ、各人に付与したギフトに応じて役割分担を指示する。


「タロは【土壌改良】で土を良くして欲しい。肥料についてはリシアたちと相談してくれ」

「最高の土を作ってみせるっす」

「ジロは【怪力】で土地を耕して欲しい。このあたり一帯を農地に変えてくれ」

「ガンガンやるっす!」

「シロは【鑑定(鉱物)】で耕された土を調べて欲しい。わかったことは僕に伝えて、タロにもアドバイスしてくれ」

「調べがいがあるっす。なにかあったらすぐに伝えるっす」

「ゴロは【植物栽培】で水やりなどの世話をしてくれ」

「承知したっす!」


 四人に伝達が済むと、ただ一人、仕事を割り振られなかったサブロがしょぼんとした顔つきで尋ねた。


「あの……おいらは?」

「サブロの出番はもう少し後だ。この先、君の【品種改良】が役に立つときがくる。他のみんなに引けを取らない大切な役目だから、期待しているよ」

「うすっ!」


 サブロは他の四人に比べて力が弱く、今まで負い目があった。

 なので、アレクセイから期待され嬉しくなる。

 「そのときが来たら、絶対に役に立って見せるっす」と固く決意するサブロであった。


「じゃあ、スージー、ここは任せたよ。僕は残りの村人に会ってくる」


 アレクセイは農地を後にした。

 村には農夫以外の専門職を持つ人たちが何人かいる。彼らには特別な仕事を割り振るつもりだ。

 その手始めとして、アレクセイが向かうのはキリエのいる教会だ。


 彼女に依頼するのは――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『キリエには先生になってもらいます。』

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