第2章 ウーヌス村
第5話 マーロウのギフトは強そうです。
【第1章あらすじ】
・アレクセイは【名君】ジョブが役立たずと、伯爵家を追放される。
・【名君】が覚醒し、乳姉弟でメイドのスージーを臣下にしギフト【忠臣】を授ける。
・庭師のマーロウと、その孫娘で料理番のナニーも臣下に加え、四人で新領地のウーヌス村に向けて出発。
※今後も各章の初回に前章のあらすじを掲載します。
◇◆◇◆◇◆◇
――リドホルム家を出発して一週間。
アレクセイたちは所領となるノイベルト州まであとわずかのところまで来ていた。
「後少しだ、ドゥランテ。もうひと踏ん張り頼むよ」
馬車を引く栗毛の荷馬にアレクセイが声をかける。
その言葉を理解したのかは分からないが、ドゥランテは「ヒヒン」と軽くいなないた。
馬車は質素なものだった。さすがに荷馬車というわけではないが、貴族が乗る馬車としては最低限といえる箱馬車。これだけでもアレクセイがどんな扱いかが分かる。
今朝方、最寄りの街であるザイツェンを出発した彼らは、予定では日が落ちる前には目的の村に到着するはずだ。
村の名前はウーヌス。リドホルム家が確認しているノイベルト州唯一の集落だ。当面はそこを拠点に活動するしかない。
なにせ、それ以外の情報が一切ないのだから。
今、通っている街道はノイベルト州へと至る唯一のルート。路面は快適とは言い難いが、それでも馬車で進める程度には保たれていた。
前方には視界いっぱいに広大な森が広がっている。開拓を拒んできた「魔の森」だ。
後一時間もすれば、森にたどり着けるだろう。
街道は森の中へ続き、その終点がウーヌス村だ。
御者台には二人。馬を操るアレクセイ。その隣にはマーロウが座っている。
スージーとナニーは馬車の中だ。
現在のアレクセイは一般的な旅人が着るような旅装姿だ。ザイツェンの街を出るまでは、貴族としての体裁を保つためにそれなりの格好をしていたが、この先出会う領民を威圧しないようにとの計らいだ。
手綱を握るその姿は、積荷を運ぶ商会の若者といったところだろう。
「だいぶ、上達なさいましたな」
「マーロウの教えがいいからね」
馬車を操るのは初めてだったが、マーロウの指導によって、この一週間でだいぶ様になっていた。
「本当にこの先に人が住んでるんですかな?」
ザイツェンを出てしばらくは街道を行き交う人々もちらほらいたが、最後の村を過ぎてから二時間。一人の旅人ともすれ違わなかった。
この先に行く者も、この先から来る者も誰もいない。
「ああ、ザイツェンから年に一度徴税官が訪れている。ただ、行商人も寄りつかない僻地だ」
「言葉通り、辺境ってやつですな」
「五十人ほどの村がひとつあるだけだ。まあ、把握できていないだけで、他にも集落があるかもしれない」
「とても伯爵家の坊っちゃんに任される仕事じゃないですなあ」
「僕はもう、ノイベルト男爵だよ」
「そうでした。そうでした。男爵様ですな。閣下とお呼びせねばなりませんな」
「やめてくれ。今まで通りでいい」
「はいですな、坊っちゃん」
「とはいえ、その坊っちゃんってのは、そろそろ止めて欲しいんだけどね」
いつまでも子ども扱いされるのも嫌だが、かしこまられるのはもっと嫌だ、とアレクセイは思う。
男爵となった身ではあるが、権威で民を従わせるのではなく、親しみを持って民に接する方針だ。
だから、マーロウが「坊っちゃん」と呼ぶのも、スージーが「お姉ちゃん」と言うのも、ナニーが気軽に話すのも許している。
彼らとのやり取りを見て、領民たちも気安く接してもらえれば、という心づもりであった。
「天候にも恵まれましたな。幸先のいいことです」
二人は揃って天を仰ぐ。
快晴とまでは言わないが、雨が降らないだけでも旅路には十分だった。
ふと、マーロウは空を見上げたまま、目を
「渡り鳥ですな」
「僕には見えないよ」
アレクセイには見えなかったが、マーロウの目には数羽の渡り鳥が映っていた。
マーロウは脇に置いてあった弓を構え、矢をつがえる。
たいして狙いを定める様子も見せず、矢はマーロウの手を離れた。
直後、一羽の鳥が矢に射られ落ちて来る。
元【猟師】だったマーロウの弓の腕は、いまだ衰え知らずだ。
「凄いなあ、【第六感】は」
「これもすべて坊っちゃんのおかげですよ」
臣下になったことで、マーロウにもギフトが付与された。
【第六感】という名のギフトで、普通の人が見落としそうなものでも気づける能力だ。
マーロウのステータスは以下の通りだ。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
【名前】:マーロウ
【年齢】:48
【性別】:男
【種族】:普人種
【ジョブ】:庭師
【ギフト】:第六感
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
スキルは次の通り。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
【植物栽培】植物栽培に補正。
【察知】いろいろなものに気づきやすい。
【集中】魔力を用いて、通常以上の集中力を発揮する。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
道中、何度かモンスターに襲われかけたが、マーロウのギフトのおかげで事前に察知して、なんなく切り抜けることができた。
これから向かうノイベルト州は森に囲まれている。この先も【第六感】は頼りになるだろう。
速度を落とした馬車から、アレクセイが飛び降り、鳥を掴み上げる。
「トラヴィーだね」
「この時期のトラヴィーは美味しいですぞ」
トラヴィーは渡り鳥モンスターで、この時期は南に向けて出発する。
長い距離を移動するために、脂肪と
アレクセイは矢を引き抜き、トラヴィーの頭を斬り落とす。御者台に飛び乗ると、逆さまにしたトラヴィーを御者台の横にくくりつけた。
手慣れた動作だ。アレクセイは幼少期からマーロウに猟師の技術を教え込まれた。有用な植物の見分け方、森で気配を消す方法、罠の作り方。
普通の貴族だったら狩りをしても、獲物の処理は従者任せだ。鳥の血抜きなどで自分の手を汚すことは絶対にないが、アレクセイにとってはお手のものだった。
「昼食はコイツの丸焼きですな」
「ナニーの料理は絶品だからな。今から楽しみだ」
この調子でマーロウが獣やモンスターを発見してくれたので、この旅の食糧事情は文句なし。旅の定番である干し肉の出番はなかった。
「昼前には、森の手前まで行きたいな」
「ええ、少し急ぐとしましょう」
アレクセイは馬車を加速させた――。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『初領民と遭遇しました。ピンチのようです。』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます