第3話 【名君】はハズレジョブじゃないです。むしろ、夢が広がります。
〈スージーを臣下に加えました〉
〈現在、臣下は1名です〉
〈初回臣下獲得により、【名君】がアクティベートされました〉
〈詳細をご確認しますか?〉
そして、スージーの身体が輝きに包まれた。
ただ事ではない予感――二人の心臓は同じタイミングでドクンとひとつ、大きく打った。
「こっ、これは……」
「…………」
二人は息を呑む。
「アレク様、どうなさいました?」
「いっ、いや……ちょっと待って」
アレクセイは混乱する頭で、なんとか現状を理解しようとする。
――【名君】がアクティベート?
――詳細を確認?
よく分からないまま、アレクセイは心のうちで頷く。
すると――。
アレクセイの脳内に情報が流れた。
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【スキルボード】
【名君】スキル一覧
【人材登用】
【ギフト付与】
【臣下リスト】
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「これは……」
まだ、完全には理解できていない。
それでも、自分の身になにが起こったかは把握できた。
「スージー、喜んでくれ。どうやら、僕の【名君】が目覚めたみたいだ」
「ほっ、ホントですかっ?」
スージーが喜びの花を咲かせる。
「おめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
感極まったスージーはアレクセイに抱きつく。
アレクセイは彼女を受け止め、ぎゅっと抱き返した。
苦難の道をともに歩んできた二人――万感の思いがひとつに溶ける。
「それにしても……」
喜びと悔しさが入り混じった涙がひと粒、スージーの赤い瞳からこぼれる。
丸い雫は頬をなめらかに滑り落ち、アレクセイの胸元に黒い染みを作った。
「どうして今なのでしょうか? もっと早く目覚めてくれれば……」
アレクセイも同じ思いで、脳内情報の詳細を確認する。
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【人材登用】
臣属を望む者を臣下にできる。
ただし、他者に従属していない者に限る。
臣属関係は両者どちらからでも解消できる。
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【人材登用】スキルを確認し、どうしてこのタイミングで【名君】が覚醒したのか把握した。
――ただし、他者に従属していない者に限る。
以前「臣下の礼」を行ったとき、スージーはリドホルム伯爵家の家臣だった。だから、あのときはスージーを臣下にできなかったのだ。
しかし、先ほどスージーはノイベルト家の――アレクセイの――家臣になった。
だから、臣下として登用可能になり、スージーを臣下とすることで――【名君】がアクティベートされたのだ。
「ははっ……そういうことだったのか…………」
アレクセイは乾いた笑いを浮かべる。
跡継ぎとなった弟のオルヴァンは、幼少の頃から専属の家臣が複数ついている。オルヴァンが自由に扱える人材だ。
しかし、庶子であり冷遇されてきたアレクセイには専属の家臣は一人もいない。実質上、スージーはアレクセイの専属メイドであるが、あくまでもアレクセイの家臣ではなく、リドホルム家に属する家臣だ。
もし、アレクセイに専属従者がいたならば、【名君】はもっと早く覚醒し、このような状況にはなっていなかった。
皮肉な運命の悪戯にアレクセイはしばし、言葉を失う。
その気持ちはスージーの胸にも突き刺さった。
「アレク様……」
「いや、これで良かったんだ」
アレクセイはかぶりを振って、思いを断ち切る。
――この能力があれば辺境でもやっていける。
弟の補佐として生きるよりも、自分の人生を自分で切り開く――そっちの方がよっぽど素晴らしいじゃないか。
何年間も肩にのしかかっていた重い感覚が、急になくなった。
開放された笑みを浮かべ、残りのスキルを確認する。
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【ギフト付与】
臣下にギフトを授ける。
授けるギフトは本人の適性に応じて、自動的に決定される。
臣属関係が解消されると、授けたギフトは無効になる。
また、授けたギフトはいつでも無効化できる
【臣下リスト】
臣下の一覧表示。
臣下のステータスを確認できる。
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アレクセイは「【ギフト付与】?」と疑問を口にする。
聞き慣れない単語だ。
ジョブやスキルは誰でも知っているが、多くの書物を読み漁ってきたアレクセイでも聞き覚えがない単語だ。
ギフトがなにを指すのか分からない。スージーに尋ねたが、彼女も知らなかった。
「でも、これが本当ならスージーにギフトを授けられるってことだな……」
アレクセイは頭の中で「スージーにギフトを付与する」と念じてから、【臣下リスト】でスージーのステータスを確認する。
さて、どんなギフトが付与されたのか?
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【名前】:スージー
【年齢】:15
【性別】:女
【種族】:普人種(魔族混血)
【ジョブ】:メイド
【ギフト】:忠臣
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「どうですか?」と尋ねるスージーに、アレクセイは「これは凄いよっ」と詳細を伝えた。
「【忠臣】ですかっ! まさにお姉ちゃんにピッタリですっ!」
スージーは誇らしげに胸を張る。
成長途中のささやかな胸は、だが、しっかりと天を向いていた。
ちなみに、スージーのスキル性能は以下の通りだ。
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【メイドの嗜み】主君のために行動するとき能力値補正。
【護衛】主君を守るとき能力値補正。
【忠義挺身】捨て身で主君を守る魔力障壁を張る。
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「へ~、これが新しいスキルですか! アレク様になにがあっても、お姉ちゃんが絶対に守ってみせますからねっ!」
主君を守る盾――まさに彼女が望む役割だった。
「ところで、どう、調子は?」
「そういえば、確かに不思議な力が湧いてくるようですっ!」
スージーはようやく、自分の身体の変化に気がついた。今まではアレクセイのことが気になってそれどころではなかったのだ。
ギフトを授かりることによって湧いた、新たな活力を実感する。
覚醒した【名君】。
臣下に力を授けられる能力。
この力があれば――。
「僕は名君になれる。いや――」
顔を上げたアレクセイは、力のこもった視線でスージーを見る。
「――僕は名君になるんだッ!」
「アレク様……」
「【名君】を授かった日からずっと願っていた。民を幸せにする立派な領主になろうと。その願いが叶うんだ。僕は名君になるッ!」
そして――。
「リドホルム家初代の悲願、『ベーシックインカム』を実現するんだッ!」
アレクセイの決意に、スージーは涙をこぼす。
前途を祝する、喜びの涙だった。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『臣下が三人集まりました。』
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