四話 イートイン

 コンビニのイートインは和製英語らしく外国では通じないらしい。ネットで見た。とてもどうでもいい。


 晴れて足がなんとかまともな格好になったシロサキと、しばらくイートインコーナーで時間を潰した。何度か他の来店者も通りすがったが、無関心な視線が掠めるだけで済んだ。


 明るい場所で見るシロサキの顔はひどく青ざめて、やはり病的な印象を受けた。

 けれど、暖かい空気と、温かい飲み物、上着に入ったままだった冷え切った肉まんを摂取し、シロサキは少しだけ回復したようだった。


「朝までいようか」


 漫画を読みながらシロサキは言った。

 顔色はさっきよりだいぶ良く見える。


「いや眠いわ。店員もさすがにそろそろ切れるだろ」

「それもそうだよね」


 大して未練がましくもなく、淡々と同意するシロサキ。漫画は十分堪能したのだろうか。俺まだ読めてないんだけど。


「じゃあ僕は帰るよ。さようなら」

「おいおい」


 そんな急な。数時間前に会った仲だというのに。


「はいジャケット。ありがとう」


 おもむろに椅子を引き、借り物を返し、店を出ていくシロサキを俺は追いかける。

 大学生の店員が物珍しそうにこちらを見ていた。もうレジ打ちの必要はないので安心してほしい。


 外はまだ夜明け前である。


「家のあたりまで送るぜ。ここまで来たらさすがに最後まで付き合う」


 おいおい、アホみたいな発言だな。

 冷静な自分が心の中で同時に呟いた。テレビの二重音声めいた錯覚を邪魔に思いながらも、俺ははっきり言い終える。


 別に別れが惜しいわけじゃない。

 中途半端に関わると決めて声を掛けたからには、別れを後味良くしなければ困るのだ。なんなら、別れさえよければほかはすべてどうでもいい。


 本当に? いや、そう思っているからここまでやってこられたはずだ。

 行きずりのカスみたいなやりとりだからこそ、何も考えず遠慮なくできたのだから。今更何を期待している?


 まとまらない思考が寝不足の頭を駆け巡る。

 俺にはよく、自分が何をしたいのかわからないときがある。刹那主義というか、後先を考えず行動してしまう瞬間がある。


 今もまさにそうで、けれど本当はそれだけじゃないと思いたかった。

 振り返ったシロサキは笑っていた。


「そう? 悪いね。じゃあ使わせてもらうよ」


 露悪的なその笑顔は、とても弱々しく見えた。

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