一章 海浜の幽霊
一話 陰々滅々
俺の家は中心街から外れた、海岸線近くにぽつんと建っている。交通の主要線が走っているわけでもなく、夜になれば付近に自動車の気配はほぼなくなる。いわゆる田舎だ。
ただ田舎といっても、観光地になるほど自然豊かでもない。工業地域が近く、どことなく錆びついた雰囲気のある商店や住宅が並んでいる。
一応、砂浜はあり、夏は海水浴も可能だが、せいぜい地元民が遊びに来る程度の代物。ゴミや海藻が散らばる景観は正直あまり良くはない。
地域に根ざした娯楽といえば、せいぜい釣りくらいだろう。俺は大して経験はないけど。
ともかく、そういう裏寂れた田舎の街並みを横目に、原付で深夜徘徊するのが当時マイブームだった。
特に目的はなく、燃料の浪費といえばそれまでだが、行為それ自体がストレスの発散になっていたのだと思う。寝静まった海岸線を駆け抜け、適当なところで停車し海を望みながら、コンビニで買った肉まんをかじる。
無意味だが、無意味であることに価値を感じていたというべきか。今ではやろうと思わないが、俺はけっこうそういう無駄な時間が好きだったのだ。
その夜、俺はいつものようにコンビニで肉まんを手に入れ、海沿いを原付で走っていた。夜の冷えた風が身体の熱を奪い続けた。
走行中、見慣れた砂浜にイレギュラーな影が映ったような気がして、俺は原付を停めた。ヘルメットを脱ぎ、堤防を乗り越え、砂浜の領域に足を踏み入れた。
影は波打ち際に呆然と佇んでいるように見えた。オカルトを信じるたちではないが、幽霊の可能性が脳をよぎった。
静かな波音は、どうせ足音を隠してはくれない。躊躇ない足取りで、俺は影に近寄った。
よくもまあそんなことをしたものだと今では思う。
下手をすれば、厄介事に首を突っ込む羽目になるとわかっていたのに。普段持て余した好奇心の向かう先を、そのときの俺は求めていたのかもしれない。
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