PAGE??? ※:*!¥(解読不能)
千葉県の都会に見られがちな準都会の町。古くからあり、歴史があるこの町に僕、霧崎静火は住んでいる。ちなみに霧崎静火は本名ではない、と思う。しかし僕の友人なんかはこの名前で呼んでくる人が多い。だから僕自身もうこっちが本名で良い気もしている。
6月初め梅雨入り宣言がされた翌日、雲が立ち込める深夜10時半、僕は会社を出て帰路に着く。この時間まで残業。入社3年目、20歳にしてこの生活が俺は日常となって体にしみこんでしまっていた。会社ビルから見てJRの線路をまたいで逆側のニュータウン。その中に僕が1人で暮らす家はあった。いつもであれば普通にバスかタクシーを使う僕だが、その日はなぜか歩いて家に帰ることにした。そして気が付けば帰路にある緑道の脇道…廃神社に続く獣道へと足を踏み入れていた。
「なあ宮下。こんな時空間ゲートあったか?」
「私に聞いたって分かるわけないでしょ。」
梅雨に入り時空の狭間の天気も雨続きになり始めた6月。その日は特に雨が強かった。夜8時。店の外でふと、ただならぬ気配を感じた俺、霧崎静火は助手の宮下紗南を連れて気配のする方を見に行った。するとそこには今まで見たことも、作ったこともない…そして物々しいオーラを放つゲートが鎮座していた。2人でゲートを眺めてうなっていると、不意に紙切れのようなものがゲートから出て来た。受け止めて中身を見る。宮下が後ろからのぞき込んできた。
「ん~…。『必要とされる者のみ通ることを許される扉なり。無理やり通過を考えるべからず。人為的破壊を禁ずる…。』」
「私いけるかな?!」
「試そうとするの早いぞ…。」
早速宮下が入ろうと手を伸ばす。しかし手がゲートの入口に触れた瞬間、紫色の閃光が走り、宮下の手は弾かれたようだった。
「いったぁい…なんか電流走った…。」
「次は俺が行ってみる。」
恐る恐る手を伸ばし、ゲートに触れる。するとゲートを手が通過した。そのまま足、顔、体を入れる。どこもすんなりと暗闇に吸い込まれるように入れた。よく目を凝らすと闇の向こうに白い光が見えた。後ろを振り返るとゲートの外側で宮下が驚いた顔をしつつ手を振っていた。手を軽く振り返し、俺は光に向かって歩き始めた。
獣道を抜けると森の中にある少し開けた空間に出た。苔がはびこっている石畳の場所以外はほぼ雑草だらけで地面の土さえ見えない。そんな中にポツンと、木製の小さなお稲荷さんのような建物が傾いて立っていた。そしてそれさえも苔や雑草に覆われているようだった。
「ニュータウンの中だよな…ここ…?」
ふと気になりスマホの位置情報マップを開く。…圏外になっていた。もちろん位置情報もバグって中国やらアフリカやらを瞬間移動で旅をしている。
「…お稲荷さんだけ見て帰ろっと。」
暗い中、足元に細心の注意を払いながらお稲荷さんに近づく。よく目を凝らしてみて分かった。お稲荷さんの中に何か入っているようだった。しかしもやもやとした煙が中をぼかしていて何かまでは分からない。ゆっくり手を伸ばし、戸に手をかける。恐る恐る開けようとしたその時だった。
「やめとけ。」
不意に後ろで声がした。びくっとして後ろを勢いよく振り返る。さっきまで誰もいなかったはずなのに、気が付けばそこには灰色7分袖のフード付きパーカーを着た少年が立っていた。
「…だれだあんた。」
すると彼は一瞬目を丸くした、がすぐ元の無表情に戻ってため息をつき、しっかりとした足取りで近づいてきた。あともう5歩というところで彼は止まりこちらを見る。
「そうだな…そのお稲荷さんの中にある物、者の所有者とでも言おうか?」
「名前は?」
すると彼は鋭い眼光でこちらを睨みつけて来た。
「忘れたなんて言わせないぞ、霧崎。お前は俺、俺は…お前だ。」
彼が手をかけるお稲荷さんに入っているのは…今の俺、万事屋店長 霧崎静火ができるまで添削、没された用具、記憶、データ、そして没作品に確かに存在した別の俺や、その他重要だった人物だ。俺ができるまでに必要だった重要データ記憶が全て詰まっているのだ。そしてその記憶を作って、それをあそこに詰め込んだのは…今お稲荷さんに手をかけこちらを見る彼だった。…そう、彼は俺を生み出した張本人であり、もう一人の俺なのだった。
嘘をついた。…いや、嘘を吐いてしまったといった方が正しいか。というのも目の前に立つ彼は私が社会人になって約2年間、今まで背を向けて来た者だった。
「…お前の言う通り、僕は君を忘れちゃいないさ、霧崎。いや、もう一人の俺とでも言おうか…。生存した表人格とでも言おうか?」
僕の不吉な笑みを見て彼の顔が強張る。
「お前…そこまで覚えておいて今まで俺や宮下やみんなを放っておいたのか。」
「放るしかなかったのさ。」
「小説原作者のくせに無責任なやつだな。」
頭に血が上った。
「お前に何が分かる!僕はもう学生じゃない、いっちょ前な社会人なのさ。お前らの物語を描きたくたって、時間も、心の余裕も無い。二十歳、高卒サラリーマン。一歩間違えりゃ人生奈落の底へ落ちる。だから…!」
気が付けば、掴みかかっていた。もう一人の自分に。一息溜息をつき吐き切る。
「…だから僕は…あの日、ネッ友にからかわれた社会人1カ月目の夜…お前らの記録、記憶…すべてをここに置いて現実世界に集中するために消えた…下っ端サラリーマンである自分に向き合うために…。なのに、なぜ僕の足はまたここに…!」
視界がぼやけていた。今僕はどんな顔をしているのか。どんな無様な泣き顔を晒しているのだろうか。
「でもさ、記憶を抹消しないでここに残したのは、お前のどこかにまだ俺らの物語を描きたい気持ちがあったんだろ?」
ゆっくり頭をなでる彼の手のひら。それはどこか暖かく、懐かしい感触だった。
情けなくも僕は彼の胸に顔を埋めて泣きじゃくっていた。
視界に日が差し込む。朝日が昇っていた。
「さあ、お互いそろそろそれぞれの世界へ帰る時間だ。」
優しい声で諭してきたもう一人の僕はふと何かを思い出したようで真面目な顔で見つめる。
「おい、俺、せっかくだからお願いがある。」
「なんだ?」
彼はゆっくり目を閉じ、力を入れ、そしてもう一度目を開いた。
瞳が、真っ赤だった。
「この瞳、左目だけ俺は赤色と言う特徴。…お前は忘れているのかもしれないが単色であるという設定の物語とオッドアイという設定になっている物語。2つに分かれていて特徴がまとまっていないからよ、ここは原作者として、どちらかにまとめてくれないか?」
なるほどね、と僕は呟き、お稲荷さんからペンとキャラ設定ノートを取り出す。彼はもう止めなかった。
ここは一つ、また凝った設定を盛り込んでやるよ、もう一人の僕。
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